管工事における逆止弁とは?逆流を防ぐ逆止弁の仕組みや種類について徹底解説!

はじめに

逆止弁(チェックバルブ/チャッキバルブ/逆流防止弁)は、配管内の流体(液体・気体)を一方向にのみ流すための自動弁です。ポンプや機器の保護、系統間の干渉防止、系全体の安定運用に不可欠で、**逆流による回転逆転・汚染逆流・圧力サージ(ウォーターハンマー)**などのリスクを抑えます。英語では check valve。外部操作や電源を必要とせず、流体圧・ばね力・重力だけで開閉します。


1. 基本原理と用語

  • 順流時:入口側の差圧(上流>下流)で弁体が押し開かれ、流路が確保されます。
  • 逆流時/停止時:差圧が低下・反転すると、ばね力や重力、流体力で弁体が座へ戻り、逆流を遮断。
  • クラッキング圧(cracking pressure):弁が開き始める最小差圧。低いほど立ち上がりが軽く、循環ラインなど低ΔP用途で有利。
  • 圧力損失(ΔP):弁通過によるエネルギーロス。流量維持や省エネの観点で重要。
  • ノンスラム/サイレント:閉止時の**弁体「バタン」**を抑え、ウォーターハンマーを低減する設計の総称(ばね補助・短ストローク等)。

JIS用語体系(JIS B 0100)でも、逆止弁は「逆流を防止するバルブ」として整理されています。


2. 代表的な形式と使い分け

現場で頻出する4形式に、実務上よく使う“ノンスラム(サイレント)”型も加え、長所・留意点を俯瞰します。

2.1 スイング式(Swing Check)

構造:ヒンジピンを支点に円板状ディスクが扉のように回転して開閉。
長所:流路直進・低圧力損失で大流量向き。シンプルで広範に普及。
設置姿勢:一般に水平管での設置が推奨。縦管に使う場合は上向き流れ(下→上)かつメーカ指定姿勢に限るのが通例。ヒンジピンは管頂側に来る向きが基本。
注意:閉止が慣性+流体力頼みのため、流れの急停止でスラム(打音)→水撃が発生しやすい。ポンプ直近や急変動系ではノンスラム型の検討が有効。

2.2 リフト式(Lift Check)

構造:ディスク(またはピストン/ボール)が上下移動して座に着座・離座。グローブ弁に近い流路。
長所確実なシールが得やすく、逆止性能が安定。ばね付きでは早閉にも対応。
設置姿勢:従来は水平配管ボディが一般的だが、上向き流れの縦配管に対応する設計も存在。いずれもメーカの指定姿勢・流向表示に厳密に従う。
注意:流路が屈曲するため圧力損失は大きめ。微粒子が多い流体では案内部の摩耗・固着に注意。

2.3 ウエハー式(Wafer / Dual-Plate)

構造:フランジ間に挟み込む薄形ボディ。2枚の半円板+ねじりばね(デュアルプレート)が主流。
長所薄型・軽量・据付スペース小、ばね補助で短ストローク早閉=ノンスラム傾向、一般に低クラッキング圧。API 594準拠のフェイス・トゥ・フェイス寸法の製品が多い。
設置姿勢:水平・縦とも対応が可能な製品が多いが、ばね位置と流向の整合が重要。
注意エルボ直後・乱流部などでは左右板への流体力が偏在し、振動や片当たりの原因に。短い直管長ポンプ直上の設置は避け、メーカが示す最小直管長や設置距離を守る。

2.4 ボール式(Ball Check)

構造:弾性被覆ボールが転動して座に密着。上部点検蓋付きが多く、清掃容易。
長所可動部が実質ボールだけで詰まりに強い。汚水・雑排水・スラリーなど異物混入系に適性。小〜中口径で普及し、ポンプ吐出側での採用も一般的。
設置姿勢:多くは水平配管で上部点検。縦配管対応品もあるが条件付きが多い。
注意:高速逆流に対し完全遮断がやや甘い場合があり、強い水撃を想定するラインではノンスラム型や別対策を併用。

2.5 ノンスラム/サイレント(ばね補助・軸流型 など)

構造強いばねと短ストローク流れが止まる前に先回り閉止。軸流(ノズル)型などはVenturi形状で低圧損と高応答を両立。
長所水撃を大幅に低減。ポンプの起動停止が頻繁・弁の遠隔設置で信号遅れがある・高落差ライン等で特に有効。
注意:一般のスイング式に比べコストは高め。設計点(流速帯)から大きく外れるとチャタリングの恐れがあるため、選定時の流量レンジ確認が必須


3. 何を基準に選ぶか(選定フレーム)

実務で過不足のない選定をするための観点を整理します。

  1. 流体条件
  • 種別(上水・温水・蒸気・油・薬液・汚水・スラリー等)
  • 温度・粘度・固形分・腐食性
    → 材質(SCS/SUS/合金/樹脂)とシール材(NBR/EPDM/FKM/PTFE等)を適合させる。
  1. 運転条件
  • 常用・最大圧力、常用・最大流量、流速レンジ、ΔP許容
  • 起動停止の頻度・流量変動の大きさ
    ΔPが小さい循環ライン低クラッキング圧の形式を優先。急停止・長配管・高落差ノンスラムを軸に。
  1. 設置条件
  • 管の口径・圧力クラス水平/縦直管長の確保点検スペース
  • ポンプからの距離、上流下流のエルボ・絞り・継手配置
    → ポンプ直上は避け、乱流の少ない位置へ。据付姿勢は製品ごとの指定に厳守
  1. 保守・コスト
  • 点検頻度、停止許容、上部点検蓋の有無
  • 予備品(シート/ばね/ピン)の入手性、ライフサイクルコスト

4. 設置の実務ポイント

現場でトラブルを減らす設置・配管のコツを要点で。

  • 流向矢印と姿勢マークを厳守:ヒンジ位置やばね位置の指定は性能に直結。
  • 水平なら芯上・縦なら上向き流れ:スイング式は基本的に水平推奨。縦配管は上向き流れのみ対応が一般的。
  • ポンプ直近は避ける:渦・脈動・急変動が強く、水撃・振動の起点に。メーカ推奨の離隔を確保。
  • 直管長の確保:エルボ・T字・絞り直後は流れが偏り、弁体が片開き/チャタリングしやすい。
  • 配管支持とアライメント:フランジの芯ズレ・無理締めは弁の擦れ・固着・リークを誘発。
  • 空気溜まり対策:高所配管でエアポケットができると誤作動や衝撃の原因。エア抜きを適所に。
  • ウォーターハンマー抑制:ノンスラム型、サージタンク、可変速停止、吐出逆止弁+逆止ダンパ等を状況に応じて併用。

5. 水撃(ウォーターハンマー)と逆止弁

水撃は**流速の急減(特に逆流開始時の弁閉止)**が引き起こす圧力過渡現象。配管・機器を損傷し、騒音や振動の主因になります。対策の優先度は以下のとおり。

  1. 弁の動特性を合わせるばね補助・短ストロークのノンスラム型は、流れが反転する前に素早く閉じ、水撃を抑制。
  2. 系側の過渡を緩和:ポンプのソフトストップ/VVVF、逆止弁の適切な離隔、必要に応じサージ抑制機器を併用。
  3. サイズを適正化:大き過ぎる弁は低流量域でディスクが半開きチャタリングしがち。常用流速に合う口径設定が肝要。

6. 形式別の適用ガイド(実務早見)

  • 大流量・低損失・一般水系:スイング式/デュアルプレート(ウエハー)
  • 確実な遮断・中〜高圧・蒸気やガスも:リフト式(ばね付き含む)
  • 汚水・固形分混入・ポンプ吐出:ボール式(上部点検で保守容易)
  • 頻繁な起動停止・長距離配管・高落差:ノンスラム(サイレント/軸流)型

※いずれも最終判断は流体・運転・設置の3条件を突き合わせ、メーカ技術資料の推奨に従うこと。


7. メンテナンス指針とトラブル対応

定期点検

  • 外観・漏れ(ガスケット/グランド)
  • 作動性(手で軽く叩いて戻りを確認できる場合あり、停止時に実施)
  • 摩耗部(座・ディスク、ピン、ばね)
  • 沈積物(ボール式は点検蓋から清掃が容易)

典型トラブルと対策

  • 逆流する/漏れる:座面摩耗・異物噛み・アライメント不良。座研磨/交換、配管ズレ修正、ストレーナ追加。
  • 打音・振動が大きい:閉止時のスラム。ノンスラム型へ更新、弁位置移設、可変速停止、サージ対策併用。
  • チャタリング:サイズ過大・乱流部設置。口径見直し直管長確保
  • 固着:長期停止・高温スケール。定期的な通油・通水、材質見直し、定期分解清掃。

8. 事例スケッチ(要点)

  • 上水ブースターポンプ:スイング式→停止時の打音が課題。デュアルプレートばね付に変更しサージ低減、騒音改善。
  • 雑排水ピット:固形物で逆止が開閉不良。ボール式+上部点検で詰まり対応と保守短縮。
  • 長距離送水(高落差):スイング式で水撃多発。軸流ノンスラムに置換、圧力上昇ピークを顕著に低減。

9. よくある誤解の整理

  • 「スイング式は水平だと漏れやすい」:姿勢で直ちに漏れるわけではありません。座面状態・芯出し・流速などの要因が支配的。ただし縦管下向き流れは不適。
  • 「リフト式は水平でしか使えない」上向き流れの縦配管対応をうたう製品もあります。製品仕様に依存します。
  • 「ボール式は150A・10Kまで」:実際はDN50〜DN200でPN10/16など、多様な製品レンジがあります。メーカーの定格表で確認が必須。
  • 「ウエハーはどこでも同じ」ばね定数・板質・ガイド設計が水撃や圧損に影響。乱流部・ポンプ直上は避けるのが定石。

10. まとめ(実務チェックリスト)

  • 流体:腐食・粘度・固形分→材質・シール適合
  • 運転:ΔP・流速レンジ・停止頻度→クラッキング圧/ノンスラム要否
  • 設置:水平/縦、直管長、ポンプからの距離→姿勢厳守・離隔確保
  • 性能:圧損と遮断性のバランス→形式選定
  • 保守:点検性・予備品→ボール式や上部点検蓋の活用
  • 水撃:弁特性・系対策の両輪で最小化(ばね補助・軸流型+運転制御

このチェックを踏まえ、用途に合致した逆止弁を選び、設置姿勢・離隔・直管長・支持といった基本を守れば、長期安定運用と安全性・静粛性・省エネのすべてを高い水準で両立できます。


参考文献


付記:本稿は公共・産業・建築設備の代表的な実務資料・メーカー技術情報を照合し、一般化可能な範囲で整理しています。最終設計・据付・検査は、採用製品の個別仕様書・据付要領書・適用規格(例:API 594 ほか)に必ず従ってください。