パヴァーヌ入門:起源・様式・名曲でたどる舞曲の魅力

パヴァーヌ(Pavane)とは

パヴァーヌはルネサンス期に広まった荘重な行進風の舞曲で、16世紀のヨーロッパの宮廷や舞踏会で好まれました。一般にゆったりとした二拍子系のリズムで演奏され、優雅で抑制された動きが特徴です。現代では、ルネサンス期の舞曲としての歴史的価値に加え、フォーレやラヴェルといった作曲家による同名の器楽作品を通じてコンサート曲としても高い人気を保っています。

起源と歴史

パヴァーヌの語源には諸説あります。イタリア語の『pavana(またはpavana)』やスペイン語由来であるという説、あるいは北イタリアの都市名に由来するという説などがあり、確定していません。いずれにせよ、16世紀中頃からヨーロッパ各地の宮廷で定着していき、特に祝祭や式典、舞踏会の前奏的な行進として用いられました。

ルネサンスの舞曲の文脈では、パヴァーヌはしばしば速い三拍子のガイヤルド(galliard)とセットで演奏されることが多く、静と動の対比が見られます。舞踏・音楽双方の史料や器楽譜には数多くのパヴァーヌが残されており、16世紀のダンス集成や楽譜集にも収録されています。

形式と音楽的特徴

パヴァーヌの基本的な特徴は以下の通りです。

  • テンポ:ゆったりとした歩行速度のテンポ。過度に遅くするよりも「行進するような」一定の推進力が求められます。
  • 拍子:主に二拍子系(例えば2/2や4/4)で書かれることが多い。
  • リズムとフレーズ:均整のとれたフレーズで構成され、しばしば反復(AABBなどの構造)を伴います。
  • 伴奏と音色:ルネサンス期はリコーダー、ヴィオール、ルネサンス・ギターやルネサンス・リュートなど様々なアンサンブルで演奏されました。器楽曲としては声楽用に編曲されることもありました。
  • 役割:舞踏のための実用楽曲であると同時に、儀式的・象徴的な意味を帯びることもあります(権威や格式の表現として)。

楽曲構造は単純かつ対称的なことが多く、時に変奏や装飾的なパッセージを伴って豊かな音楽的表現が加わります。

ルネサンス期の代表作曲家と作品例

16世紀の舞曲集には多くのパヴァーヌが収められています。代表的な例としては、ティールマン・スサート(Tielman Susato)のダンス集『Danserye』(1551年)に含まれるパヴァーヌ群、イングランドではジョン・ダウランド(John Dowland)が1604年に発表した《Lachrimae, or Seaven Teares》があり、これらはパヴァーヌ形式を継承・発展させた作品群です。

ジョン・ダウランドの『Lachrimae』は、一連のパヴァーヌ(当時はpavans/pavansと綴られることが多い)で構成され、ヴィオール・コンソートのための精緻な対位法と情感豊かなメロディーが特徴です。こうしたルネサンスの器楽パヴァーヌは、当時の舞踏実践と密接に結び付いており、舞踏の動きや列の編成を反映した音楽設計がなされています。

19〜20世紀の「パヴァーヌ」:フォーレとラヴェル

ルネサンス期に起源を持つパヴァーヌは、19世紀末から20世紀初頭にかけて作曲家たちの郷愁的・古典主義的想像力の対象となりました。代表的な作品がガブリエル・フォーレの『パヴァーヌ』Op.50(1887年)と、モーリス・ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ(Pavane pour une infante défunte)』(1899年作曲、ピアノ原曲、1910年頃管弦楽編曲)です。

フォーレの『パヴァーヌ』は優雅で柔らかな旋律、透明な和声感、そして控えめなオーケストレーションにより、形式としてのパヴァーヌの“儀式性”を音楽美として昇華しています。一方ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』は、タイトルにあるように追憶や哀愁を帯びた抒情性が前面に出ており、ピアノ版、管弦楽版ともに広く演奏され続けています。両者ともにルネサンス舞曲の直接的な模倣ではなく、当時の作曲技法で「パヴァーヌ的な雰囲気」を現代に再解釈した作品と言えます。

演奏上のポイントと史的演奏慣習

歴史的なパヴァーヌを演奏するときのポイントは以下の通りです。

  • テンポの選択:過度に遅くならないこと。行進性を保ちつつ、フレーズごとの呼吸やアクセントを明確にする。
  • フレージングと呼吸:長いフレーズをどのように呼吸(歌う感覚)でまとめるかが鍵。ヴィブラートや装飾も当時の慣習を参考にして控えめに用いる。
  • 装飾と減価:ルネサンス期の演奏では装飾(ダブル、トリル、装飾的短縮)が行われることがあるため、原曲の骨格を保ちつつ時代風の装飾を加える判断が必要。
  • 編成の選択:オリジナルの音色感を重視するならヴィオールやリュート、リコーダーなどの古楽器アンサンブルが適している。ただし、近代オーケストラ版(フォーレやラヴェル等)も独自の味わいがある。

また、ガイヤルドと対にして演奏するプログラム構築は、聴衆に舞曲の歴史的な文脈を伝える有効な手段です。

現代における受容と応用

現代では、パヴァーヌは古楽のレパートリーとして復興されるとともに、作曲家たちによる“パヴァーヌ風”の作品を通してコンサートにも定着しています。映画音楽や現代曲の中でも、パヴァーヌ的な静謐さや行進的な佇まいがしばしば参照され、古典舞曲の様式が新たな表現語法として生かされています。

教育的側面でも、パヴァーヌはフレーズの形成、均整のとれたリズム感、アンサンブルのバランスなどを学ぶ上で有用な題材です。古楽器レパートリーの入門曲としても人気があります。

まとめ

パヴァーヌはルネサンスの舞曲としての実用性と儀式性を持ち合わせ、時代を超えて作曲家や演奏家の想像力を刺激してきました。16世紀の宮廷舞曲としての姿と、19〜20世紀における追憶的・象徴的な再解釈の双方を知ることで、この短い語が含む豊かな歴史と音楽的意味を深く味わうことができます。演奏に際しては、テンポ感やフレージング、編成の選択を通じて、パヴァーヌ本来の荘重さと静かな表現を両立させることが大切です。

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参考文献