バットマン&ロビン(1997)徹底解剖:失敗の理由と現在の評価

概要と基本データ

「バットマン&ロビン(Batman & Robin)」(1997年)は、ジョエル・シュマッカー監督によるアメリカのスーパーヒーロー映画で、ワーナー・ブラザース配給のバットマン映画シリーズの4作目にあたります。主演はジョージ・クルーニー(ブルース・ウェイン/バットマン)、クリス・オドネル(ディック・グレイソン/ロビン)、アリシア・シルヴァーストーン(バーバラ/バットガール)、アーノルド・シュワルツェネッガー(ミスター・フリーズ)、ウマ・サーマン(ポイズン・アイヴィ)らが務めました。製作費は約1億6,000万ドル、世界興行収入は約2億3,820万ドルと報告されています(Box Office Mojo)。

制作の経緯とスタッフ

前作『バットマン・フォーエヴァー』(1995年)の興行的成功を受け、ワーナーはシリーズを継続。ジョエル・シュマッカーは前作に引き続き監督を務め、脚本はアキヴァ・ゴールドスマンが担当しました。シュマッカーの演出はティム・バートン版(1989・1992)の暗さとは一線を画し、よりポップでカラフル、商業展開(おもちゃ化=“toyetic”)を強く意識したビジュアルを志向しました。この路線は意図的な選択でしたが、結果的に物語やキャラクター描写が軽視されたとの批判を招きます。

キャストとキャラクターの特徴

  • ジョージ・クルーニー(バットマン): 人気俳優の起用で注目を集めましたが、演技面・脚本面の不調もあって評価は分かれます。
  • クリス・オドネル(ロビン): 前作から続投。若さとコミカルさが強調され、伝統的なロビン像とは異なる描かれ方になりました。
  • アリシア・シルヴァーストーン(バットガール): 本作でのバットガールはコミックのバーバラ・ゴードンではなく“バーバラ・ウィルソン”という設定で登場。アルフレッドの姪という設定変更は賛否を呼びました。
  • アーノルド・シュワルツェネッガー(ミスター・フリーズ): 台詞に多くの寒冷(アイス)に関するダジャレを入れる演出があり、これが作品全体の軽薄さの象徴として取り上げられました。
  • ウマ・サーマン(ポイズン・アイヴィ): セクシーで致命的な女悪役として描かれますが、キャラクターの深堀りは限定的でした。
  • マイケル・グフ(アルフレッド)、パット・ヒングル(コミッショナー・ゴードン)など、シリーズお馴染みの俳優も出演しています。

批評と興行の結果

公開後、本作は批評家からの評価が非常に低く、Rotten Tomatoes の批評家スコアや Metacritic の点数も低い評価を受けました。批判の中心はストーリーテリングの弱さ、過剰な商業主義、ギャグやダジャレに偏った悪役描写、そしてデザイン優先の演出(例:バットスーツに付けられた胸部の装飾=いわゆる“バットニップル”)などでした。一方で、興行的には世界で約2億3,820万ドルを稼ぎ、完全な大コケとは言えない成績を収めましたが、制作費の大きさを考慮すると期待ほどの利益は上がりませんでした(Box Office Mojo)。

なぜ批判が集中したのか — 台本とトーンの問題

本作が広く批判された主因の一つは、作品のトーンが一貫しなかった点です。シリアスなヒーロー像を期待していた観客に対して、しばしばコミカルかつ過剰に装飾された映像言語が提示され、感情移入を妨げました。脚本面では動機付けや葛藤の深掘りが不足し、悪役の行動原理が単純化されすぎていたため、ドラマとしての厚みが生まれませんでした。監督の演出意図(子ども向けの楽しさや玩具展開)と従来のバットマン像とのギャップが、評価を大きく分けました。

演技とキャスティングの評価

個々の俳優についても評価はまちまちです。アーノルド・シュワルツェネッガーは大スターとしての存在感と決め台詞の頻出で目立ちますが、台詞回し(ダジャレ)が酷評の対象になりました。ジョージ・クルーニーは後年、本作についてコメントし、作品の出来に対する自己反省を語ったことでも注目されました。アリシア・シルヴァーストーンのバットガールは、登場のインパクトは大きかったものの、掘り下げ不足で一過性のキャラクターに終わったとの見方が強いです。

デザインと美術:賛否の分かれるスタイル

シュマッカー版の特色であるネオンやポップな色使い、誇張されたコスチュームデザインは視覚的には個性的ですが、バットマンというキャラクターが持つダークな側面を求める層には受け入れられませんでした。特にバットスーツの装飾や派手な舞台装置は「おもちゃ化」志向として批判される一方、一部では独特のデザイン美として評価されることもあります。近年では、この色彩感覚や過剰演出を逆に楽しむ“カルト的”な再評価も少しずつ見られます。

文化的・産業的影響とその後の展開

興行的・批評的失敗を受けて、ワーナーはバットマン映画の方向性を見直し、結果として2005年のクリストファー・ノーラン監督『バットマン ビギンズ』へとつながる“再起動”の流れが形成されます。ノーラン版はシリアスで現実味のあるアプローチを採り、以降のスーパーヒーロー映画における“ダークで現実的”な潮流に影響を与えました。つまり、『バットマン&ロビン』の失敗は単に1作品の評価損失にとどまらず、フランチャイズ全体の方向性を変える契機となったのです。

再評価の兆しと現在の見方

公開当時は徹底的にこき下ろされた本作ですが、近年では“90年代末の商業映画の過剰さ”を象徴する作品として、また“意図的なポップ感覚”を楽しむ視点から再評価する映画ファンも増えています。作品のギミックや衣装デザイン、強烈な色彩は一部の視聴者にとっては魅力的に映り、いわゆる“恥ずかしさを楽しむ”映画としてカルト的な支持を受けることもあります。しかしながら、ストーリーとキャラクター描写の面では依然として批判が多く、一般的な評価は低いままです。

教訓とまとめ

「バットマン&ロビン」は、ヒーロー映画におけるトーン設定と商業戦略のバランスがいかに重要かを示す代表例です。視覚的アプローチやマーケティング志向が先行すると、ドラマの核となる人物造形や物語の説得力が損なわれうる、という教訓を残しました。一方で、この映画が持つ過剰な美術・デザイン感覚や独特の空気は、時を経て別の楽しみ方へと変わりつつあります。映画史的には“失敗作”として語られることが多いものの、その影響力はフランチャイズの再考を促し、長い目で見れば次世代の成功作につながる一因にもなりました。

参考文献