ABA形式(3部形式)の完全ガイド:歴史・構造・名曲から分析と演奏のコツまで

ABA形式とは何か — 基本定義と用語

ABA形式(3部形式、ternary form)は、音楽における最も基本的で広く用いられる形式の一つで、A(提示部)→B(対照部)→A(再現部)という三つの大きな部分から成ります。Aが最初に提示され、その後に異なる性格や調性を持つBが置かれ、最後にAが戻ってくることで全体に統一感と回帰感を与えます。戻ってくるAはしばしば変化(装飾、短縮、和声上の変更など)を伴いA'(A prime)と表記されることもあります。

歴史的背景 — 起源と発展

3部形式は中世やルネサンスまで遡る明確な単一起源を持つわけではありませんが、バロック期には「ダ・カーポ・アリア(da capo aria)」として明確な形で確立されました。ダ・カーポ・アリアはオペラやオラトリオの主要アリア形式で、A(歌詞・旋律)→B(対比的な中間部)→ダ・カーポ(Aを反復して歌手が即興的装飾を施す)という構造をとります。古典派以降も、ミヌエットとトリオの「複合三部形式(compound ternary)」や、歌曲・ピアノ曲・緩徐楽章における単純三部形式として広範に使用されました。

単純三部形式と複合三部形式の違い

  • 単純三部形式(Simple Ternary):A・B・Aの各部分が比較的短く、内部に明確な区切りを持ちます。歌曲や小品(ノクターン、夜想曲、室内楽の小楽節)で頻出します。
  • 複合三部形式(Compound Ternary):AやBそれぞれが内部にさらに二部形式(binary)を持つ場合。代表例は古典派のミヌエットとトリオで、ミヌエット(aabb)→トリオ(ccdd)→ミヌエット(aabb)という構造を取ります。見かけ上はABAでも、内部構成は二重構造です。

和声・調性の役割

伝統的な3部形式では、Aは主調(トニック)に位置することが多く、Bは相補的な調(属調、平行調、同主短調や長調など)に移動してコントラストを生み出します。古典派では属調への移行が典型的で、Bから再び属和音や転調の「リトランジション」を経てAに復帰することが多いです。ロマン派以降は調性の自由度が増し、Bがより遠隔調へ移ることや、Aの戻りが変容(A')して新たな意味を帯びることが増えました。

典型例と作品分析(具体的な聴きどころ)

  • バロック:ダ・カーポ・アリア — ヘンデルの「Lascia ch'io pianga」など。Aにおける旋律の提示、Bでの対比、最後にダ・カーポでの復帰と装飾が聴きどころです。
  • 古典派:ミヌエットとトリオ — ハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏や交響曲の中のメヌエット楽章。内部が二部形式である点に注意し、トリオで楽器編成やテクスチャーが変わることが多いです。
  • ロマン派・小品:ショパンの夜想曲やシューマンの小品 — 多くのノクターンがA–B–A'構造をとり、Bの対比的情緒とA'の装飾的回帰によって作品全体の感情曲線が描かれます。例えばショパンのノクターン嬰ハ短調(作品番号で例示する場合は曲ごとに異なるため、楽譜と録音で確認してください)。
  • 歌曲:シューベルトのリート — 短詩を伴う歌曲でABAが多用され、詩の構造(詩句の反復)と密接に結びつくことがよくあります。

形式分析の手順 — 実践ガイド

曲をABA形式として分析する際の基本手順は以下の通りです。

  • 全体を聴いて大まかな3部の分節点を確認する(転調やテーマの明確な変更点)。
  • A部分の主題、伴奏型、調性、句構造を詳細に分析する(メロディの動機、リズム、和声進行)。
  • B部分での対比要素を特定する(調性、様式、表情記号、音域、テクスチャー)。
  • Aの再現が完全再現か変容再現かを検証し、装飾、短縮、和声的変更の有無を確認する。
  • 必要ならコーダや再帰的な細部(リトランジション、導音的機能)を補足する。

作曲技法上の工夫とバリエーション

作曲家はABA形式を単純な繰り返しに留めず、以下のような工夫で聴衆の興味を引きます。

  • Aの再現時に装飾を増やす(バロックのダ・カーポの即興装飾が典型)。
  • Bを大幅に拡張して物語性を強める(ロマン派でよく見られます)。
  • 複合三部形式で各部分を内部的に発展させ、形式の階層性を作る(交響曲の楽章や舞曲楽章)。
  • 最後のAでコーダを追加し、単純な回帰ではなく決着をつける。

演奏と解釈のポイント

演奏においては、AとBのキャラクターの差を明確に示すことが重要です。ダイナミクス、テンポのニュアンス、アーティキュレーション、音色の変化で対比を際立たせ、Aの再現では『帰還』の感覚を自然に演出します。バロックでは装飾やアフェクト、古典派では均衡と明晰性、ロマン派では表情の幅をどう表現するかが鍵です。

他形式との比較:二部形式・ソナタ形式

二部形式(binary)はA→Bの二つの部分で構成され、再現の回帰がない点でABAと異なります。一方ソナタ形式は展開部を含み、提示→展開→再現という大規模なドラマ性を持ちます。簡潔さと対比を重視するならABA、発展と対立を重視するならソナタ形式が選ばれることが多いです。

まとめ

ABA形式は単純に見えて実は多様で柔軟な構造を持ち、バロックから現代まで幅広いジャンルで活用されてきました。形式的な識別は、「どこで主題が提示され、どこで対比が生じ、どのように回帰が行われるか」を注意深く聴き分けることから始まります。分析と演奏の両面で、この形式を理解することは音楽の構造的理解を深め、表現の幅を広げる助けになります。

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参考文献