インタールード(Interlude)の歴史と音楽的機能 — オペラから室内・ピアノまでの深掘り解説
はじめに:「インタールード」とは何か
「インタールード(interlude、インターミッションに近い概念だが目的や形式が異なる場合がある)」は、演劇やオペラ、器楽作品の内部に挿入される短い音楽的章で、場面転換のためのつなぎ、感情の転換、主題の展開や省察の場を担うものです。言語的には英語の interlude、イタリア語の intermezzo、フランス語の entr'acte、ドイツ語の Zwischenspiel(または Zwischenaktmusik)などに対応し、時代や国によって用語や機能に差があります。
語源と用語の違い
「interlude」は中世ラテン語 interludium(inter-+ludium)に由来するとされ、文字通り「間に演じられるもの」を指します。イタリア語の intermezzo は元々オペラの間に演じられた短い劇や音楽で、やがて独立した小品としての性格を持つようになりました。フランス語の entr'acte(「幕の間」)は劇やオペラの休憩や場面転換のための音楽を指します。ドイツ語の Zwischenspiel は字義どおり「間の劇/間奏」を意味し、歌劇や大規模音楽劇で用いられることが多い用語です。
歴史的展開 — 中世から近代まで
中世やルネサンス期には、劇場上演や宗教劇の間に挿入される短い劇や音楽がしばしば行われました。バロック期にはバロック・オペラや教会音楽の構成の中で器楽による間奏や短い歌曲が挿入され、18世紀のイタリアでは intermezzo が確立しました。特にジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(Giovanni Battista Pergolesi)の『ラ・セルヴァ・パドローナ(La serva padrona)』(1733年に上演されたインテルメッツォ)が代表例で、当初は大作オペラの間に上演されていた短い喜劇であり、のちに独立作品としての人気を博しました。
19世紀になると、インタールード/インテルメッツォは劇場的な機能だけでなく、純粋に音楽的な「小品」としての領域を広げます。シューベルトやメンデルスゾーンなどが劇付随音楽(incidental music)で用いたように、場面の情緒を補強する器楽的間奏はロマン派の感性に合致しました。またブラームスはピアノの小曲群に「Intermezzo」というタイトルを用い、内省的で短い性格の室内楽的ピアノ曲を残しています。
オペラ/演劇における機能
オペラや演劇でのインタールードは主に次のような機能を果たします。
- 場面転換の時間稼ぎと舞台装置の変更を滑らかに行うための音楽的ブリッジ。
- 登場人物の心理を掘り下げ、台詞では表現しきれない感情や雰囲気を醸成する。
- 前後の音楽主題を統合・変容させ、作品全体の統一感や動機の発展を行う。
- 観客の緊張を解いたり、逆に次の場面への期待を高めるクッション的役割。
例えば、メスカーニ(Pietro Mascagni)の『カヴァレリア・ルスティカーナ(Cavalleria rusticana)』(1890年)にある有名な「Intermezzo」は、激しい悲劇の合間に置かれ、喪失感と郷愁を深く喚起することで、劇の感情的効果を高める役割を果たします。
器楽曲としてのインタールード/インテルメッツォ
器楽の分野では、短く独立した楽曲としての“Intermezzo”が多数作曲されました。特にピアノ作品においてブラームスの「Intermezzi」(作品117、118、119など)は有名で、簡潔ながら深い内面性、密度の高い和声表現を示します。これらはソナタや緩徐楽章の代替ではなく、独立した性格的小品としての完成度が高いものです。
形式・和声的特徴と音楽分析の観点
インタールードは形式面で多様ですが、短いABA形式(長調-副主調-長調)や自由な即興的流れを持つことが多く、次のような特徴が見られます。
- 和声的には転調やモジュレーションを用いて、場面の移行を滑らかにする(中継ぎとしての機能)。
- 主題の断片や動機を提示・変形し、作品全体の統一性を保つ手段となる。
- 弦のレガートや木管の独奏的な色彩を用いて、台詞の合間に「声なき語り」を実現することがある。
- ピアノ曲の場合は、短い動機の反復や内面の反芻を通じて、瞑想的な時間を作り出す。
演劇的インタールードでは、オーケストラが「背景の語り手」となり、時には第一幕の余韻を伸ばし、次幕の導入を暗示する細やかな和声変化が聴きどころとなります。
著名な例とその役割
- Pergolesi『La serva padrona』:18世紀のインテルメッツォの典型。軽快な楽想で大衆に受け、オペラ・ブッファの発展に影響を与えた。
- Mascagni『Cavalleria rusticana』のIntermezzo:劇的な出来事の間に挿入される有名な器楽間奏で、情緒の高揚と沈潜を象徴する。
- Schubert『Rosamunde』の間奏曲(incidental music):劇中の場面移行を補い、ロマン派的叙情性を反映する。
- BrahmsのIntermezzi(Op.117等):ピアノの性格小品として内省的な世界を提示し、インタールードが単なる幕間音楽を超えて独立ジャンルになり得ることを示した。
演奏・レコーディングにおける扱い
舞台上でのインタールードは、指揮者と演出家の意図によりテンポやダイナミクスで大きく変わります。録音では、劇の流れとは独立して単体トラックとして収録されることが多く、オーケストラやピアニストの表現がクローズアップされます。ブラームスのピアノ小曲としてのIntermezziは、レパートリーとして頻繁に録音されており、演奏者ごとの解釈の幅が大きいジャンルでもあります。
近現代における発展と異分野での受容
20世紀以降、インタールードは映画音楽や現代音楽の中で新たな意味を得ました。映画音楽の「インタールード」的楽想は場面の転換や心理描写に使われ、アルバムでは短い「interlude」トラックが楽曲間の余白や雰囲気作りに用いられるようになりました。クラシック界でも現代作曲家が舞台劇やダンス、マルチメディア作品の一部としてインタールード的な短い楽章を作ることが増えています。
聴きどころと鑑賞のポイント
インタールードを聴く際のポイントは次の通りです。
- 場面転換のための「間」であると同時に、作品の感情的核を凝縮していることに注意する。
- 短さの中に和声的・色彩的な工夫が詰まっていることが多く、特にオーケストレーションの妙を聴き取ると理解が深まる。
- ピアノのIntermezziでは、余韻と沈黙の扱い、テンポの柔軟さが演奏の大きな個性となる。
まとめ — インタールードの音楽史的・実践的意義
インタールードは単なる「間奏」以上の意味を持つ音楽形態です。歴史的には演劇上のツールとして始まり、時代を経て独立した音楽ジャンルや性格小品へと発展しました。場面転換という実用的な役割を越えて、感情の焦点化、主題の変容、音色と和声の実験場として機能してきたことが、その音楽史的意義です。古典から現代に至るまで多様な顔を持ち、演奏・録音においても解釈の余地が大きい領域であるため、聴き手としても作り手としても魅力深いテーマです。
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参考文献
- Britannica: Intermezzo (music)
- Wikipedia: Interlude (music)
- Wikipedia: Intermezzo
- Wikipedia: La serva padrona (Pergolesi)
- Wikipedia: Cavalleria rusticana (Mascagni)
- Wikipedia: Rosamunde (Schubert) — Incidental music
- Wikipedia: Entr'acte
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