幕間曲とは何か:歴史・機能・名曲で読み解くクラシックの小宇宙
幕間曲(まくあいきょく)とは
幕間曲(英: entr'acte、伊: intermezzo)は、演劇・オペラ・バレエなどの上演において「幕」と「幕」のあいだに演奏される音楽を指します。舞台装置の転換や休憩のための時間を埋める実用的な役割を持つと同時に、ドラマの余韻を残したり、次の場面への橋渡しを行ったり、観客の感情を整理するなどの芸術的な機能も担います。日本語では「間奏」や「間奏曲」と呼ばれることもありますが、厳密には作品内の短い器楽伴奏を指すことが多く、幕間曲は舞台上の幕をまたいで演奏される独立性の高い楽曲を指す用法が一般的です。
語源と用語の違い
用語は言語ごとに微妙にニュアンスが異なります。イタリア語の intermezzo(インテルメッツォ)は“間に挟まれたもの”という意味で、18世紀イタリアにおけるオペラ・セリアの合間に演じられた喜劇的な短編オペラ群(インテルメッツォ)がその起源の一つです。フランス語の entr'acte(アントラクト)は劇の幕間で演奏される曲を指し、英語では interlude(インタールード)やentr'acteが用いられます。日本語の「幕間曲」はこれらを総称する語として使われますが、演奏形態や機能によって“間奏曲(曲内の短い挿入部分)”と区別されます。
歴史的展開:18世紀から現代まで
幕間曲の歴史はルネサンス〜バロック期にさかのぼり、18世紀にイタリアでインテルメッツォが発展したことが大きな転機となりました。代表的な例がジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710–1736)の《La serva padrona》(1733年)です。本作は当初、より重厚なオペラ・セリアの合間に上演されるコミカルな付随劇として制作されましたが、その音楽と喜劇性が独立して高く評価され、後のオペラ・ブッファ(喜歌劇)成立に影響を与えました(参照: Britannica)。
19世紀になると、演劇や舞台音楽の発展とともに、作曲家はより豊かな幕間音楽を作曲するようになります。フェリックス・メンデルスゾーンはシェイクスピアのための舞台音楽《真夏の夜の夢》の序曲(1826年)と後の付随音楽(1842年)で知られ、結婚行進曲などの楽曲は独立した演奏会曲としての価値を獲得しました。また、エドヴァルド・グリーグの《ペール・ギュント》組曲(1875年の舞台音楽から抽出)は、「朝」や「山の魔王の宮殿で」などの交響的間奏が劇の場面を象徴する独立した名曲となりました。
オペラの世界でも、19世紀末にはマスカーニの《カヴァレリア・ルスティカーナ》(1890年)に含まれる“Intermezzo”のように、幕間の器楽曲がコンサートピースとして人気を博す例もあります。一方でワーグナーの楽劇のように、幕をまたいで音楽を連続させる「連続的」な劇場音楽の登場は、従来の断片的な幕間曲の機能を変化させました。20世紀以降は映画音楽やミュージカル、現代劇のサウンドデザインにおいても“間”を埋める短い楽曲や効果音が重要な役割を果たすようになり、幕間曲という概念は形式を変えつつ今日まで受け継がれています。
幕間曲の機能と表現技法
- 舞台装置の転換や俳優交代など実務的な時間調整。
- 感情の整理と場面の余韻の維持。次の場面に向けた心情の橋渡し。
- モチーフの提示・再現。舞台全体の統一感を保つための主題や動機の提示。
- 雰囲気づくり(リリカル、緊張、コミカルなど)—場面の色彩を補強。
- 単独の器楽曲として独立可能な芸術作品になること(例:組曲化やアンコール演奏へ)。
音楽的には、短い形式(独立した小品)でありながら、旋律性が強い、オーケストレーションを生かした色彩感の豊かさ、テンポや調性感のコントラストを利用したドラマ性の表現などが特徴です。劇中のモチーフを引用しつつ新しい展開を与えることで、劇全体の構成を補完します。また、次の場面の調性へ向かうための“中継”としての転調処理や、リズムの安定によって観客の注意を再整備する役目も重要です。
代表的な幕間曲とその聴きどころ
以下は、劇場外でも広く知られ、単独演奏されることの多い幕間曲の代表例です。
- ペルゴレージ:《La serva padrona》のインテルメッツォ(1733年)—オペラ・ブッファの形成に寄与した短い喜劇音楽。古典派以前のインテルメッツォの重要作です(参照: Britannica)。
- メンデルスゾーン:《真夏の夜の夢》序曲と付随音楽(1826 / 1842年)—物語性の高い音描写、結婚行進曲などが劇場外で広く親しまれています。
- グリーグ:《ペール・ギュント》組曲(1875年)—「朝」「アニトラの踊り」「山の魔王の宮殿にて」など、場面を象徴する旋律が特徴。舞台音楽から独立して愛奏されています。
- ビゼー:《アルルの女》(L’Arlésienne)組曲(1872年)—もともとは劇のための音楽で、後に組曲として再構成され名曲に。民俗的な色彩と俳優の動きを支える間奏が魅力です。
- マスカーニ:《カヴァレリア・ルスティカーナ》のIntermezzo(1890年)—劇の内的情感を一瞬で表す名旋律。オーケストラ曲として単独演奏されることが多いです(参照: Britannica)。
ワーグナー以後の変化と近現代の応用
ワーグナーの楽劇は音楽とドラマを連続させることで、従来の「幕ごとの区切り」を薄めました。これにより、従来典型的だった幕間曲の役割は減少する反面、舞台音楽全体の統一性や動機主義は強化されました。20世紀以降、映画音楽や舞台のサウンドデザインにおける“間”を埋める短い楽段は、クラシックの幕間曲と機能的に重なる部分が多くなっています。映画のタイトルバックやテーマ間の短いインターリュード、ミュージカルのオープニング・アクト間のオーケストラの導入などがその例です。
聴きどころ・楽しみ方
- 劇を知らなくても、幕間曲だけで場面の情景や登場人物の心情を想像してみる。短い物語性が凝縮されています。
- 同じ作品の序曲やアリアと比べ、楽器の色彩や編曲に注目すると新たな発見があることが多いです。
- 異なる録音や編曲版(オリジナルの劇伴か、後に組曲化されたものか)を聴き比べると、作曲者や編曲者の意図の違いが見えます。
- 演奏会でのアンコールや組曲化された版を通して、劇場外での受容のされ方も味わってください。
まとめ:幕間曲の魅力と現代への遺産
幕間曲は、実用的な「つなぎ」以上の芸術性を持ち、多くの場合コンサート・レパートリーとして独立します。短い時間に情景を描き、物語の流れを補強するという機能は、オペラや演劇の枠を超えてリスナーの心に残る旋律や音響を生み出してきました。古典からロマン派、近現代に至るまで、幕間曲は劇場音楽の重要な側面であり続け、今なおコンサートホールや録音で新たな聴き手を魅了しています。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica — Intermezzo
- Encyclopaedia Britannica — Giovanni Battista Pergolesi
- Encyclopaedia Britannica — La serva padrona
- Encyclopaedia Britannica — L'Arlésienne
- Encyclopaedia Britannica — Edvard Grieg (Peer Gynt)
- Encyclopaedia Britannica — Cavalleria rusticana
- IMSLP — International Music Score Library Project


