録音エンジニアリング完全ガイド:現場で使える技術と実践テクニック
録音エンジニアリングとは何か
録音エンジニアリング(Recording Engineering)は、音源を忠実かつ表現豊かに捉え、後続の制作工程(編集・ミキシング・マスタリング)に最適な素材を作るための技術と判断の総称です。単なるスイッチ操作や機材の知識に留まらず、音響物理、楽器と演奏の特徴、心理的なリスニング判断、そして制作現場でのコミュニケーション能力が求められます。
録音の基本原理と信号の流れ(シグナルフロー)
録音作業は大きく分けてマイク/トランスデューサで音を電気信号に変換する段階、プリアンプやコンソールで信号を整える段階、A/Dコンバータでデジタル化する段階、DAWで記録・編集する段階に分かれます。各段階でのゲイン構成(ゲインステージング)はノイズや歪みを最小化し、十分なダイナミックレンジを確保するために重要です。一般的にはピークがクリップしないようにしつつ、デジタル領域ではトラックの平均レベルが-18dBFS前後を目安にすることが多いです(アナログのVUメーターで0VUに相当)。
マイクロフォンの種類と使い分け
- ダイナミックマイク:耐入力性が高く、ロックやボーカル・ドラムに強い。振動系が重めで高域が柔らかい傾向。
- コンデンサーマイク:感度と帯域が広く、ディテールを得意とする。ボーカルやアコースティック楽器、ルーム・アンビエンス収録に適する。
- リボンマイク:滑らかで自然な高域特性を持ち、中低域が豊か。クラシックやレトロな質感を狙う際に有効だが扱いに注意が必要。
マイクの指向性(カーディオイド、オムニ、フィギュア・オブ・8等)により近接効果やルームの拾い方が変わります。近接効果(低域の増強)は録音時の音色設計の重要な要素です。ステレオ収録ではX/Y、ORTF、A/B、ブリュームラインなどの配置があり、位相差と音像の自然さを比較検討して選びます。
ルームと音響処理
良い録音は良い音場から。ルームの残響特性(RT60)は楽器や用途によって理想値が異なります。コントロールルームは中低域を滞留させないようにフラットで短めの残響が望まれ、録音ブースやライブルームは楽器に応じて適度な残響を残すことがある。吸音と拡散をバランスさせ、定在波や低域のモードをコントロールすることが重要です。室内音響設計の基準や測定法はISO 3382などの規格が参考になります。
マイク配置とトラッキング・テクニック
マイクの位置は録音の成否を決めます。ボーカルでは口元からの距離、角度、ポップフィルタの使用で音の直接性と空気感を調節します。ドラムではキック、スネア、タム、オーバーヘッドのバランスと位相管理が重要で、位相反転やタイムアライメントを用いて打点のパンチとステレオ感を最適化します。アンビエンス(部屋鳴り)は楽曲のジャンルや求める臨場感に応じてオン/オフを判断します。
機材設定とデジタル録音の注意点
- サンプリングレートとビット深度:一般的な制作では24ビット/44.1kHzまたは48kHzを採用(高解像度が必要な場合は96kHzなど)。24ビットは理論上約144dBのダイナミックレンジを持ち、実用上十分な余裕を与える。
- A/Dコンバータの性能:ダイナミックレンジ、THD+N、クロストークなどのスペックが音質に影響する。高品質なコンバータはノイズフロアが低く、マスタリングでの余裕を生む。
- レイテンシー管理:DAWでのモニタリングはレイテンシーが演奏に影響するため、追録時は低バッファサイズやハードウェアダイレクトモニタリングを活用する。
ゲインステージングとダイナミクス管理
各機器での適正入力レベルを保つことはノイズと歪みを抑える基本です。アナログ段では過剰な入力でクリップしないようにし、デジタル段ではヘッドルームを確保する。収録段階でのコンプレッションは音色として意図的に使うか、編集時にアグレッシブに処理可能にするかを判断して適用します。不要な低域はハイパスフィルターで整理するとミックスが明瞭になります。
モニタリングとリスニング環境
正確な判断を下すにはフラットで信頼できるモニター環境が不可欠です。モニタースピーカーとヘッドフォンは異なる情報を伝えるため、両方で確認する習慣を持つと良いです。モニター音量の目安としては一定の参照レベルで作業すること(例:78〜85dB SPLの範囲を制作基準として用いる事例が一般的)で、耳の疲労による誤判断を避けるため適度な休憩も重要です。
編集・ミキシングに繋がる良い素材作り
編集とミキシングで救える範囲は有限です。良い素材は:ノイズが少ない、位相が整っている、演奏のタイミングとピッチが許容範囲内である、不要な音(クリック、ポップ、椅子の軋み等)が少ない、楽器ごとの分離が確保されている、などの条件を満たします。必要に応じてDIを同時録音しておくと後でトーンシェイプやリアンプが行いやすくなります。
トラブルシューティングの実践ポイント
- ハムやグラウンド・ループ:ケーブル経路と電源アイソレーションを確認する。DIやアイソレーショントランスを活用する。
- 位相の打ち消し:複数マイクを使う場合は位相関係をチェックし、必要ならタイムアライメントや位相反転を行う。
- クリップと歪み:アナログ段での歪みは音色として使える場合もあるが、デジタルクリップは不可逆なので回避する。
プロの現場でのワークフローとコミュニケーション
録音現場はエンジニア、プロデューサー、アーティスト、プレイヤーが共同作業する場所です。事前のプリプロダクション(曲の構成、テンポ、アレンジの確認)、セッション・シートの準備、マイクプリセットやスナップショットの保存、バックアップ戦略(オフライン/オンラインの二重記録)は効率的で安全な作業には不可欠です。クリエイティブな決定は客観的な音の評価と相手の意図を尊重する会話で行いましょう。
キャリアと倫理
録音エンジニアは技術者であると同時に音楽の解釈者でもあります。著作権や録音物の扱い、セッションの記録と納品に関する明確な合意(ファイルフォーマット、サンプリングレート、ビット深度、バウンスの仕様)を事前に取り決めておくことが信頼構築につながります。継続的な学習と新技術(immersive audio、高解像度ストリーミング等)への理解も重要です。
まとめ:良い録音はその後を決める
録音エンジニアリングは細部の積み重ねが最終的な音の品質に直結します。マイク選択と配置、ルームチューニング、正しいゲインステージング、位相管理、適切なモニタリング環境、そして現場での的確な判断とコミュニケーションが揃って初めて高品質な録音が得られます。最終的には耳と経験が最も頼りになるツールです。
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参考文献
- Audio Engineering Society (AES)
- Sound On Sound - Microphone Techniques and Recording
- Shure - Microphone Basics
- Neumann - Microphone Basics
- ISO 3382 - Acoustics — Measurement of room acoustic parameters
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