減三和音（diminished triad）の構造と機能 — 理論から実践まで徹底解説

2025年12月12日 最終更新日時 : 2025年12月12日 エバープレイ編集部

減三和音とは

減三和音（げんさんわおん、diminished triad）とは、根音から短三度（m3）とさらに短三度を重ねた三和音で、根音と完全五度より半音狭い「減五度（d5）」を持つのが特徴です。記号では小丸（°）を使って表され、例えばCを根にとる減三和音は「C–E♭–G♭」となります。響きは不安定で緊張感があり、和声的には解決を必要とする機能を持ちます。

構成と表記

減三和音は等しく2つの短三度（各3半音）で構成されます。根音から第3音までの全体の幅は減五度（6半音、トライトーン）になります。主な表記法は次の通りです。

  • 記号：°（例：vii°、vii°6）
  • 音程構成：root–m3–m3（例：C–E♭–G♭）
  • ファンクション表記：vii°（主に導音上の三和音）

転回と図式（figured bass）

減三和音の転回は一般的な三和音と同様に考えます。第1転回は6の表記（6）、第2転回は6/4の表記（6/4）です。古典的なフィゲュアベースや和声法では、減三和音の第1転回（vii°6）はベースに導音以外の音を置くことで、解決の方向が柔軟になります。注意点として、減五度は不安定な音程であるため、特に根音位置での使用では解決扱いが求められることが多いです。

階名上の出現位置（長調・短調）

減三和音は調性によって自然発生する度数が変わります。

  • 長調（メジャー）：第7音（導音）に重ねて生じる vii°（例：CメジャーではB–D–F）が代表。強い導音機能を持つ。
  • 自然短調（ナチュラル・マイナー）：第2音（超短音）に減三和音が発生することが多い（例：AマイナーではB–D–F）。
  • 和声的短調（ハーモニック・マイナー）：第7音が半音上げられるため、長調と同様に導音上のvii°が生じ、支配機能（dominant-like）を帯びる。

和声機能と解決（クラシック的見地）

クラシック和声では減三和音は強い不安定性を持ち、しばしばトニックへの帰結を促す導音的な機能として扱われます。特にvii°（導音上の減三和音）はV（ドミナント）に代わる、あるいはVへの補助和音として用いられます。一般的な解決の指針は次の通りです：

  • 導音（根音の半音上の音）は上方に解決して主音へ進む。
  • 減五度を形成する二音は外側へ、または一方が半音で動いて安定へ向かうケースが多い。
  • vii°はしばしばVに進行し、V→Iという典型的な終止へつながる。

声部導法の実務的コツ

減三和音を扱う際の実践的な指針です。歌詞付きの実用楽曲や編曲で有用になります。

  • 根音をベースに置く場合は根音の導音性に注意し、必ず（あるいは自然に）解決先が定まるようにする。
  • 第1転回（6）ではベースが和音の第3音になるため、導音感が和らぎ、連結や通過和音として使いやすくなる。
  • 密集和音にすると不協和が強く出るので、声部を分散させたりオクターブを利用してバランスを取る。
  • ポップ／ジャズでは減三和音を短い通過和音として使うことが多く、必ずしもクラシック的な解決を要求しない。

減三和音と属七・減七の関係

減三和音はしばしば完全減七（diminished seventh）や半減七（ø7、ハーフディミニッシュ）と結びつきます。完全減七は三つの短三度を積んだ和音（例：C–E♭–G♭–B𝄫）で、根音の上に減三和音を含んでいます。実務上は減三和音が七の音を加えて四和音化されることが多く、その際に強い導音的・解決指向が生じます。ジャズでは ‘‘viiø7 of V’’（Vの導音的和音）としての応用が典型です。

ジャンル別の用法（クラシック、ロマン派、ジャズ、ポピュラー）

各時代・ジャンルでの特徴的な使用法を整理します。

  • バロック／古典派：vii°6やvii°6/5のような形で通過和音や接続和音として多用。厳格な解決規則が適用される。
  • ロマン派：減三和音の不協和性を情緒表現に活かし、長い進行や劇的な解決を伴う用例が増える。
  • ジャズ／ポピュラー：パッシング・コードや代理和音（例：減三和音がVへ向かう導入）として短時間で用いられる。半音刻みで動くベースラインの間に挿入されることが多い。

装飾的・代理的使用例（実践テクニック）

減三和音は代理和音や通過和音として便利です。代表例：

  • 全音階的クロマチックなベース進行の間に減三和音を挿入して半音移動を滑らかにする。
  • Vへのアプローチとしてvii°を用い、Vの機能を補強する（代理として）
  • 同音異名（enharmonic）を利用して和音の意味を変換し、思いがけない転調や和声の拡張を行う（例：G♭をF♯と見なして別キーへつなぐ）

音律と調律に関する注意点

歴史的には三度の純度（純正律や平均律の違い）により、減三和音の響きが変わります。平均律では2つの短三度が等しく6半音と見なされるため、「対称的」な性質が強調されますが、純正や中全音調律では短三度の幅が異なり、不均一な響きになることがあります。実演や録音で微妙な色合いを変えたい場合は調律／テンポ・バランスを意識するとよいでしょう。

練習課題と応用例

減三和音を身につけるための練習案：

  • 各調のvii°を立ててルート→第1転回→第2転回で弾き、解決の仕方（特に導音の動き）を確認する。
  • 短三度の積み方を利用して、減三和音から減七、半減七へと拡張する練習を行う。
  • ポピュラーの曲を分析して、どのように減三和音が通過や代理として使われているかを探す（ベースラインの半音移動に注目）。

まとめ

減三和音は構造的には単純（短三度×2）でありながら、和声上は非常に多様で強い表現力を持つ和音です。クラシックの厳格な解決からジャズやポップスでの自由な通過和音的使用まで、用途は幅広く、音楽表現の重要なツールと言えます。理論的理解と実践的な耳の訓練を組み合わせることで、その可能性を効果的に引き出せます。

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