増和音(augmented chord)を徹底解説:構造・機能・実践的応用と増六和音との違い
増和音とは
増和音(ぞうわおん、augmented chord)は、根音(ルート)から長三度とさらに増五度(長五度を半音上げた音)を積んだ三和音です。代表的な表記は「C+」「Caug」「C+5」などで表され、音程構造は根音→長三度(4半音)→さらに長三度(4半音)という積み重ねにより、4半音+4半音で構成されます。半音で表すと“4 + 4 = 8”で、増五度は完全五度(7半音)より1半音高い8半音になります。
構成音と表記・転回
増和音は次のような形で示されます(Cを例に):
- 根音形: C E G#(Caug, C+)
- 第一転回: E G# C(ルートが上に移る)
- 第二転回: G# C E
表記方法は国や文献により異なりますが、+ や aug を付けるのが一般的です。ジャズやポピュラーでは「C+」「Caug」「C(#5)」「C+5」などが見られ、コードシンボルでは機能や拡張(7thを含むか否か)を併記することがあります(例:C7#5 はドミナント・セブンスの増五)。
対称性と音階上の性質
増和音の重要な特徴は“対称性”です。増和音は長三度(4半音)を2回重ねて作られるため、さらにもう1回長三度を重ねるとちょうどオクターブ(4+4+4=12半音)になります。これは12平均律(12-TET)において増和音が3つの同一の音集合(メジャー3度のサイクル)に分割されることを意味し、結果としてルートの同定が曖昧になります。例えばCaug(C E G#)は、Eaug(E G# C)やG#aug(G# C E)と同じ音集合を持ち、異なるルート解釈が可能です。この特性を利用して、作曲家や編曲者は転調や曖昧性の演出に増和音を用います。
和声機能(古典派〜ロマン派の文脈)
古典派の厳密な機能和声では増和音は必ずしも独立した機能を持つとは見なされず、主に装飾的・連結的な役割で登場します。一方でロマン派以降は、増和音の色彩的効果や転調の媒介として積極的に用いられるようになりました。増和音は共通音を保ちながら声部の進行で半音的な導音的解決を伴うことが多く、これが曖昧さと同時に強い方向性(解決感)を作り出します。ワーグナーやリストなどの作曲家は、こうした増和音的な素材を用いて長調・短調の境界を曖昧にし、クロマティックな進行を作り出しました(個々の楽曲例は文献参照)。
増六和音(augmented sixth)との違い
注意が必要なのは「増和音(augmented chord)」と別に「増六和音(ぞうろくわおん、augmented sixth chord)」が存在する点です。増六和音は名称に「増六」を含み、通常は2声間に増六度の音程(例:A♭–F# = 増6度の関係)を中心に持つ和音群を指します。イタリア式(It+)、フランス式(Fr+)、ドイツ式(Ger+)といった種類があり、主にドミナントへの強い導音効果と解決(外側に開いて完全五度や長六度へ)を持ちます。増和音(augmented triad)とは構造も機能も異なるため、混同しないよう明確に区別することが大切です。
ジャズ/ポピュラーでの使い方
ジャズやポピュラー音楽では、増和音は豊富な色彩と変化を与えるツールとして多用されます。典型的な使い方は次のとおりです:
- ドミナントの変化形: 7#5(例:G7#5)はドミナントのテンションとして機能し、トニックへ向かう強い解決感を持たせる。
- 上声部構成(upper-structure): ベースに対して上の3音だけを増和音にしてテンションを作る(例:ベースCに対してE–G#–Bを重ねるなど)。
- 通過和音・パッシング: 2つの和音の間に挿入してクロマティックな連結を行う。
- モーダルや非機能和声の彩り: 増和音の対称性を活かして不確定な調性感を演出する。
ピアノやギターでの実践的ボイシングとしては、共通音を保ちつつ残りの声部を半音で移動して解決させるなど、声部連結を意識した配置が有効です。
転回と声部進行(ボイスリーディング)
増和音の声部進行でよく言われる原則は「共通音を保持して差異のみを動かす」ことです。例えばC–E–G#からトニック(CまたはAなど)へ進行する場合、Eはそのまま残し、G#は上に半音進めてAへ、または下に移動してGへ……など、目的の和音によって動きを最小化することで滑らかな連結が得られます。また、増五度の音が導音的に作用することが多く、上方へ解決する傾向を利用して強い解決を作ることができます。
調律と純正律との関係
12平均律(12-TET)では長三度を4半音(400セント)とし、3回重ねるとちょうどオクターブ(1200セント)になるため、増和音は完全に対称な集合になります。しかし、純正律や他の平均律では長三度の大きさがやや異なるため(純正長三度は約386.3セント)、3つの純正長三度を重ねても正確にオクターブにならず、微小な誤差が生じます。したがって歴史的な調律体系や鍵盤以外の楽器の扱いでは、増和音の響きや機能が変わることがある点に留意してください。
作曲・編曲での実践的な応用例
増和音は次のような場面で有用です:
- 調性感を曖昧にして神秘的・不安定な色調を出したいとき。
- 短い通過和音として、ある和音から次の和音へ半音で滑らかに繋げたいとき。
- 主要和音のテンションとして、特に7thコードと組み合わせてリッチな音色を作るとき(例:C7#5)。
- 近親調へ大三度単位で転調させたいときの媒介和音として。増和音は大三度ごとの解釈が可能なため、3つの調のどれかに自然に解釈し直せることが多く、劇的な転調に使える。
ただし、過度に使用すると不安定感が強すぎるため、適切な解決や共通音を活かした処理が重要です。
分析上の注意点・よくある誤解
増和音は「単に不安定で解決を要する和音」として扱われがちですが、文脈によっては独立した響きとして機能し、解決を必ずしも必要としません。また増六和音との混同や、増和音=増六ではない点を誤認しやすいので、分析時には和音の構成音と機能に基づいて明確に分類してください。
まとめ
増和音は、長三度を二つ積み上げた対称的な三和音であり、その対称性ゆえにルートの曖昧さや転調の媒介、独特の色彩を持ちます。古典からロマン派、ジャズやポピュラーまで幅広く使われ、用法によっては高度な声部連結やテンション表現を可能にします。一方で増六和音とは別概念であるため、混同しないことが重要です。演奏や作曲では声部進行(ボイスリーディング)を意識して共通音を保つこと、解決方向を明確にすることで効果的に使えます。
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参考文献
- musictheory.net — Triads(英語)
- Augmented triad — Wikipedia(英語)
- Augmented sixth chord — Wikipedia(英語)
- Augmented chord — Encyclopaedia Britannica(英語)
- Teoria — Triads(英語)
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