代用和音の理論と実践:機能・種類・ジャズ/ポップで使えるリハーモナイズ技法
はじめに — 代用和音とは何か
代用和音(だいようわおん)は、ある和音の機能や響きを保ちながら別の和音で置き換える技法です。ジャズ、ポピュラー音楽、クラシックなど様々な音楽で利用され、楽曲の色付け、コード進行の多様化、即興伴奏やアレンジにおいて重要な役割を果たします。本稿では代用和音の基本概念、主要な種類(トライトーン置換、共通音による代用、借用和音、バックドアなど)、理論的背景、実践での使い方、注意点を詳しく解説します。例は主にハ長調(Cメジャー)を用いて説明します。
代用和音の基本概念と機能論
和音は一般に「トニック(T)」「サブドミナント(S)」「ドミナント(D)」という機能で考えられます。代用和音はこれら機能を直接代替するか、あるいは機能を部分的に維持したまま色彩を変えることで働きます。代用の基本的な考え方は次の通りです。
- 共有音(共通音)を持つ和音は互いに置き換えやすい(例:I と vi は Cmaj7 と Am7 で C と E を共有)。
- 機能的に同等な緊張・解決関係を生む和音は代用になりうる(トライトーン置換やバックドアなど)。
- 和声進行におけるガイドトーン(3度と7度)を意識して保つと、代用後も機能が伝わりやすい。
主要な代用和音の種類と理論
以下に代表的な代用和音とその理論的根拠、具体例を挙げます。
トライトーン置換(Tritone substitution)
ドミナント(V7)を、そのトライトーン(増四度/減五度)を共有する半音下の属七(♭II7)で置き換える技法。例えば C のV7 は G7(G-B-D-F)ですが、そのトライトーン B–F を共有する Db7(Db-F-Ab-Cb(B))を使うと、Db7 → C という進行が得られます。Db7 の 3rd は F、7th は Cb(=B)となり、G7 の 3rd と 7th が入れ替わるため、目的のトニックへの解決感を保ちます。ジャズで最も頻繁に使われる代用の一つです。共通音(共通音代用/共通和音)
二つの和音が2つ以上の音を共有する場合、片方をもう片方で代用しやすい。例:Cmaj7(C-E-G-B)と Am7(A-C-E-G)は C と E と G を共有するため、I → vi と繋いでも自然に聞こえます。IV(F-A-C)と ii(D-F-A)も F と A を共有し、IV の代わりに ii を使うと滑らかな進行になります。借用和音(モード混合/Modal mixture)
平行調(メジャーとマイナー)からの借用和音は色彩豊かな代用を生みます。Cメジャーにおける iv(Fm)や ♭VI(Ab)などを用いると、独特の憂いを帯びた響きになります。これらはトニックやサブドミナントの代用として用いられ、特にポップスやロック、R&Bで多用されます。バックドア進行(Backdoor progression)
ドミナントの代わりに ♭VII7 → I という進行を使う手法。C で言えば Bb7 → C。Bb7 は C へ解決する際に半音下方からのアプローチ感を作り出し、V7 に比べ穏やかな「帰着感」を生みます。ジャズやコンテンポラリー・ポップでよく登場します。二次ドミナント/代理二次機能
ある和音への直接のドミナント(V/target)を挿入することで代用的な効果を生む。例えば Dm(ii)への V/ii は A7 です。A7 → Dm の挿入は ii を強調し、結果的に進行の色調を変えます。場合によっては二次機能の透過的な代用が行われます。減七・増四和音・拡張和音による代用
減七(dim7)や増四系(augmented sixth)など、非和声音を含む和音はドミナントの機能を担い、V に代わる緊張を生むことができます。クラシックでは増六和音が V への導きを担い、ジャズでは全音または半音移動のパッセージに減七が使われます。共通ベースの置換(Pedal/ベース代用)
ベース音を一定に保ちながら上部和音を変化させることで、和声感を維持しつつ色を変える方法。ベースがトニックで持続する場合、上部を様々に代用しても安定感があり、アレンジで多用されます。
実践的な例(Cメジャーを使った進行)
以下は具体的な置換例です。括弧内はローマ数字表記。
基本進行
Cmaj7 (I) → Dm7 (ii) → G7 (V7) → Cmaj7 (I)トライトーン置換
Cmaj7 → Dm7 → Db7 (♭II7) → Cmaj7。Db7 は G7 の代用として働き、半音下降の魅力的な接近を作ります。バックドア
Cmaj7 → Am7 → Bb7 (♭VII7) → Cmaj7。Bb7 は G7 の代替として穏やかに解決します。共通音代用の応用
Cmaj7 → Am7 → Fmaj7 → G7。ここで Am7(vi)は I の代用として働き、トニック感を残しながら進行にマイナーの色を導入します。二次ドミナントの挿入
Cmaj7 → A7 (V/ii) → Dm7 → G7 → Cmaj7。A7 を入れることで ii の機能が強調される。
ガイドトーンとボイシングの重要性
代用和音を効果的に使うには、ボイシング(和音の並べ方)とガイドトーン(和音の3度と7度)を意識することが重要です。ドミナントの代用では特にガイドトーンの動きが鍵です。トライトーン置換では代用した和音の3度と7度が元のドミナントの7度と3度にそれぞれ相当するため、ガイドトーンの配置を保てば滑らかな解決が得られます。実践的には次の点を心がけてください。
- 重要な声はできるだけ近接して動かす(スムーズなボイシング)。
- 置換後も解決先のトニックの構成音(特に3度)に着地するようにする。
- テンションの扱いに注意する。代用和音はしばしばテンションを含むため、ジャンルに応じたテンションの選択が必要。
ジャンル別の活用法
代用和音の使い方はジャンルによって異なります。
- ジャズ:トライトーン置換、バックドア、二次ドミナントが多用されます。テンション(9, 11, 13)を加えて色付けし、コンパクトなガイドトーン進行を重視します。
- ポップ/ロック:相対短調(vi)や借用和音の利用が多く、メロディを支える自然な代用が好まれます。ドミナントに代わる和音は穏やかな解決感を作る際に用いられます。
- クラシック:増六和音や減七の扱いが伝統的で、機能和声に基づく厳密な解決を重視します。代用は解決の筋道を崩さない範囲で用いられます。
リハーモナイズのステップと実践的アドバイス
代用和音を用いてリハーモナイズする際の基本的な手順:
- 原曲の和声機能を分析する(T/S/D)。
- どの機能を変えたいかを決める(色付け、テンション増加、スムースな進行など)。
- 代用候補を選ぶ(共有音、トライトーン、借用など)。
- ガイドトーンとベースの動きをチェックして、滑らかさを確保する。
- メロディとの整合性を確認する。場合によってはメロディの一部を小さく動かして和音に合わせる。
実用的なアドバイス:
- まずはシンプルな置換(I↔vi、IV↔ii、V↔♭II7)から試す。
- ボイシングを固定して一音ずつ変えていくと、どの音が効果的か分かりやすい。
- ジャンルの慣習(ジャズならテンション多め、ポップなら控えめ)に合わせる。
- 耳で確認することが最優先。理論はガイドであり、最終判断は聴感覚。
注意点とよくある誤り
- 代用によりメロディが不自然にならないかを常に確認する。メロディラインを犠牲にする代用は避ける。
- 無理に複雑化して進行が不明瞭になることがある。特にポップスではシンプルさが重要。
- 和声機能(解決感)を完全に破壊する代用は、曲調によっては不適切。機能を残す範囲で色付けするのが無難。
- トライトーン置換や複雑な減七の使用は、ベースラインやリズム隊との兼ね合いを考えないと混乱を招く。
まとめ
代用和音は、和声の機能を活かしつつ楽曲に新しい色を与える強力な手段です。理論的な背景(共有音、トライトーン、借用和音など)を理解し、ガイドトーンとボイシングを意識して使うことで、自然で効果的なリハーモナイズが可能になります。ジャンルごとの慣習を踏まえ、まずはシンプルな置換から試し、耳で確認しながら応用していくのが上達への近道です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- トライトーン置換 - Wikipedia(日本語)
- Chord substitution - Wikipedia (English)
- Backdoor progression - Wikipedia (English)
- Secondary dominant - Wikipedia (English)
- Mark Levine, The Jazz Theory Book(概説および理論参照)


