スウェーデン作曲家の系譜と現在:歴史、代表者、現代シーンまで徹底解説

スウェーデン作曲家──概観と文化的背景

スウェーデンは北欧の広大な自然と長い民俗の伝承を背景に、独自の音楽文化を育んできました。宗教改革以後のプロテスタント聖歌や合唱伝統、18世紀のグスタフ三世による宮廷文化の成立、そして19世紀以降の国民意識の高揚が作曲活動に影響を与えています。地理的には北欧諸国やドイツ、ロシアとの交流が古くからあり、古典派以降はヨーロッパ本流の技法を受容しつつ、民謡・口承音楽を取り入れた独自の表現を生んできました。

18世紀〜19世紀:古典派とロマン派の潮流

スウェーデンの近代作曲史は、国外出身または欧州との強い結びつきをもつ作曲家たちの存在抜きには語れません。代表例がヨーゼフ・マルティン・クラウス(Joseph Martin Kraus, 1746–1792)です。ドイツ生まれでありながらスウェーデン宮廷に仕え、古典派の語法を洗練させたことからしばしば「スウェーデンのモーツァルト」と呼ばれます。クラウスは交響曲や宗教曲、オペラ等で高い評価を受けました。

19世紀にはフランツ・ベルヴァルド(Franz Berwald, 1796–1868)が重要です。ベルヴァルドは自らの作品が当時は広く受容されなかったため生計のために楽曲以外の事業に携わるなど苦難の時期がありましたが、後年にその独創的な交響曲群が再評価され、スウェーデン・ロマン派の代表的存在となりました。彼の作品は構築力と独自の色彩感覚を備え、後の世代に大きな影響を残しました。

20世紀前半:国民楽派と新たな表現

19世紀末から20世紀初頭、スウェーデンでも民族主義的な潮流が強まり、フォーク素材を取り入れる作曲家が現れます。フーゴ・アルヴェーン(Hugo Alfvén, 1872–1960)はその代表で、交響詩や合唱曲、管弦楽曲にスウェーデン的情緒を反映させた作品を多く残しました。とくに『夏の夜の歌(Midsommarvaka)』などは国民的に親しまれています。

同時代のヴィルヘルム・ステンハンマル(Wilhelm Stenhammar, 1871–1927)はピアニストとしても活動し、緻密な室内楽や交響的作品で高い評価を得ました。彼の音楽は詩的でありながら構造的な安定感を備え、スウェーデンの近代化する音楽文化を象徴しています。

20世紀中葉:近代主義と新しい声

20世紀前半から中葉にかけて、ラース=エリク・ラーション(Lars-Erik Larsson, 1908–1986)は親しみやすい旋律と洗練された管弦楽法で成功を収め、劇音楽やラジオ用の軽音楽的作品でも広く知られました。代表作のひとつ『仮面の神(Förklädd gud)』は語りと合唱、独唱を組み合わせた作品で、スウェーデン語のテクストと音楽が高く評価されています。

一方で戦後の作曲界では国際的な前衛や新しい技法を取り入れた動きが進展しました。イングヴァル・リドホルム(Ingvar Lidholm, 1921–2013)らは実験的で複雑な、しかし表現力豊かな作品を発表し、スウェーデンの現代音楽の基盤を築きました。

オールラン・ペッテルソンと個人的音楽語法

アラン・ペッテルソン(Allan Pettersson, 1911–1980)は20世紀スウェーデンを代表する交響曲作曲家で、17曲に及ぶ交響曲群で特異な地位を占めます。彼の音楽はしばしば重厚で苦悩に満ちた個人的な告白のような性格をもち、トーナルと無調の境界を行き来する独自の語法を展開しました。近代の北欧交響曲の中でも異色かつ強い説得力を持つ作品群とされています。

女性作曲家とその足跡

スウェーデンでは早くから女性音楽家が職業的な地位を築いてきました。エルフリーダ・アンドレー(Elfrida Andrée, 1841–1929)はカトリック大聖堂のオルガニストとして活躍した最初期の女性のひとりで、オルガン曲や合唱曲、室内楽作品を残しています。アマンダ・マイエル(Amanda Maier, 1853–1894)らも19世紀後半に作曲活動を行い、徐々に女性の存在が認知されるようになりました。20世紀後半以降はカリン・レーンキヴィスト(Karin Rehnqvist, b.1957)らが伝統歌法(クールニング)などの民俗技法を取り入れた作品で国際的に評価されています。

現代の多様性:合唱、映画、電子音楽まで

現代のスウェーデン作曲シーンは多様です。合唱音楽は伝統的に強い地位を占め、スヴェン=ダーヴィド・サンドストローム(Sven-David Sandström, 1942–2019)は宗教曲やオラトリオを現代的な表現で書き上げ、国内外で上演されました。ヤン・サンドストローム(Jan Sandström, b.1954)やインガー・ノールなど、多彩な作風の作曲家が合唱レパートリーの拡充に寄与しています。

また映画・テレビ音楽の分野でもスウェーデン出身の作曲家が世界的に活躍しています。ルードヴィグ・ゴーランソン(Ludwig Göransson, b.1984)は映画『ブラックパンサー(Black Panther)』の音楽でアカデミー賞を受賞し、映像音楽の新たな可能性を示しました。ヨハン・セーデルクヴィスト(Johan Söderqvist, b.1966)なども映画音楽で国際的評価を得ています。

レーベル・教育機関・演奏団体の役割

スウェーデンの作曲文化を支えるインフラも整っています。王立音楽院(Royal College of Music in Stockholm)や各地の音楽学校は作曲教育の中心であり、放送局やレコード・レーベル(たとえばBIS Records)は新作の録音・普及に貢献しています。またストックホルム・フィルハーモニーやスウェーデン放送交響楽団(Sveriges Radios Symfoniorkester)など主要オーケストラが新作初演の機会を提供してきました。国際的なフェスティバルや委嘱も、スウェーデンの作曲家が世界に発信する窓口となっています。

特徴的なテーマと今後の展望

  • 民俗との再結合:多くの作曲家がスウェーデンの民謡や即興歌唱(クールニング)などを素材に新しい声を模索しています。

  • 合唱文化の強さ:合唱音楽は国内外で高い水準を保ち、現代的手法と古典的テクストの融合が進んでいます。

  • 映像音楽の国際化:映画やゲーム音楽で世界的に活躍する作曲家が登場し、スウェーデンの音楽がポピュラー文化と結びついています。

  • 多様性の受容:ジェンダーや出自に関わらず、幅広い背景をもつ作曲家が活躍する場が増えています。

聴きどころ・入門盤のすすめ

初めてスウェーデン作曲家に触れるなら、以下をおすすめします。

  • クラウス(Joseph Martin Kraus):交響曲や宗教曲の録音で古典派の輝きを体験。

  • ベルヴァルド(Franz Berwald):交響曲全集録音でロマン派的独創性を堪能。

  • アルヴェーン(Hugo Alfvén):『Midsommarvaka』などでスウェーデンの民族色を感じる。

  • ペッテルソン(Allan Pettersson):交響曲を通して個人的な音楽ドラマに浸る。

  • カリン・レーンキヴィスト(Karin Rehnqvist):声楽と民俗技法の新しい融合を聴く。

  • ルードヴィグ・ゴーランソン(Ludwig Göransson):映画音楽で現代的なスウェーデン音楽の幅を体験。

まとめ:『北の語り』としてのスウェーデン音楽

スウェーデンの作曲家たちは、ヨーロッパ音楽の正統を受け継ぎつつ、自然・民俗・言語と結びついた独自の音楽語法を築いてきました。古典派からロマン派、20世紀の前衛、現代の多様なフィールドに至るまで、スウェーデン音楽は内面的で叙情的な側面と実験的で前衛的な側面を併せ持っています。これからも国際的な交流と地域文化の再評価によって、新たな作曲家と名曲が次々と登場してくるでしょう。

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参考文献