レ・シックス(Les Six)──20世紀初頭フランス音楽を彩った六人の軌跡と遺産

レ・シックスとは

「レ・シックス(Les Six)」は、第一次大戦後のパリで注目を集めた六人のフランス人作曲家を指す総称です。一般にこの呼称でまとめられる作曲家は、ジョルジュ・オーリック、ルイ・デュレ、アルティル・オネゲル、ダリウス・ミヨー、フランシス・プーランク、ジェルメーヌ・タイユフェールの六名です。名前は同時代の文芸評論家によって付けられましたが、内部で厳密な音楽上の統一された流派や綱領を持っていたわけではなく、むしろ当時の批評空間や文化的ムードを反映するラベルとして機能しました。

名称の起源と周辺人物

「レ・シックス」という呼称は、1920年前後に新聞や評論で用いられるようになり、批評家による便宜的なグルーピングから広まりました。ジャン・コクトーやエリック・サティといった作家・作曲家が周辺で彼らを擁護・鼓舞したことは重要です。特にコクトーは表現の方向性や舞台芸術での協働を通じて若い世代を支え、サティの簡潔さや逆説的な態度は彼らの美学に一定の影響を与えました。ただし、これらの「後ろ盾」やメディアの命名が実際の音楽的統一を生んだわけではなく、個々の作曲家はそれぞれ独自の道を進みました。

美学と音楽的特徴

レ・シックスに共通して言えることは、当時のフランス音楽に見られた過剰な感情表現やワーグナー的な重厚さ、またドビュッシーやラヴェルの印象主義的な曖昧な色彩性への反動として受け取られる傾向があった点です。簡潔さ、明瞭な線、ユーモアや風刺、日常的なモチーフの取り込み、そして時にはジャズや民族音楽的要素の採用などが見られます。とはいえ「統一された様式」というよりは、簡潔さや「反夢幻的」姿勢を共有する複数の個性群と考えるのが適切です。

共同プロジェクトと活動状況

グループとして名を馳せる一因は、舞台や刊行物などでの共同プロジェクトが存在したことです。もっとも象徴的なのは、ジャン・コクトーの演劇・舞台の周辺で複数のメンバーが協働した事例や、数種の合刊や共演プログラムです。有名な共同制作の一つに、複数のメンバーが曲を提供した舞台作品(当時の前衛的な喜劇・バレエ等)がありますが、全員が常に一致して活動していたわけではなく、参加・不参加の差異はしばしば見られました。メディア上の「グループ」像と現実の関係は柔軟で、個々の音楽活動や思想的立場の差が次第に顕在化していきます。

各作曲家の個性(概観)

  • ジョルジュ・オーリック:多作で映画音楽にも成功した作曲家。初期には室内楽や管弦楽の分野で活躍し、のちに映画音楽で広く知られるようになりました。
  • ルイ・デュレ:グループの中では政治的・社会的に左寄りで、後年はより独立した姿勢を示しました。グループ活動への関与は比較的薄く、個人的な創作路線を重視しました。
  • アルティル・オネゲル:劇的で雄弁な管弦楽作品を残し、技術的な力量と叙情性を併せ持つ作風が特徴です。シンフォニックで雄大な表現を得意としました。
  • ダリウス・ミヨー:多作かつ国際的に影響力の大きい作曲家。ポリトーナリティ(複調)やジャズ、西洋外の音楽要素を取り入れた作品が知られ、教育者としても著名です。
  • フランシス・プーランク:旋律感に富む歌曲やピアノ作品、室内楽で知られる。軽妙さと深い宗教的・悲劇的感情を同居させることができる多面的な作風を持ちます。
  • ジェルメーヌ・タイユフェール:グループ唯一の女性作曲家で、明快でしなやかな器楽作品や舞台音楽を残しました。折衷的な傾向と洗練された造形が特色です。

代表作と傾向的作品(入門ガイド)

各作曲家は個別に聴くと特徴が明確になります。例えば、オネゲルの機械的・英雄的イメージを想起させる管弦楽作品、ミヨーのポリリズムと異国的な色彩、プーランクの歌曲やピアノ作品の親しみやすさ、タイユフェールの優雅な小品、オーリックの映画音楽的語法、デュレの実直な室内作品など。集合的には、短めで緊密、舞台芸術や風刺を含んだ曲が多く、コンサートでの小品集として親しまれることが多い点が特徴です。

批評的受容とその変遷

当初は「新しいフランス音楽の顔」として注目を浴びた一方で、次第に批評家や歴史家からは「便宜的なラベル」「商業的・メディア的な産物」との見方も出てきました。実際、メンバー間の音楽的距離は小さくなく、各人が戦間期を通じて別々の方向へ発展しました。しかしその多様性こそが戦間期フランス音楽の豊かさにつながり、後の世代に対しては「柔軟な美学」として再評価されるようになっています。また、多くのメンバーが映画音楽や教育、国際的な活動を通じて20世紀の音楽文化に持続的な影響を与えました。

現代における聴きどころ

レ・シックスの音楽を聴く際は、個々の作品が持つ小品性や舞台性、ユーモアを意識すると理解が深まります。小編成の室内楽、ピアノ作品、歌曲集、軽い舞台音楽やバレエ音楽を中心に身近なコンサートや録音から入るのが良いでしょう。一方でオネゲルやミヨーの管弦楽作品にはダイナミズムや色彩的魅力があり、交響的領域での深さも味わえます。

結び──ラベルの越え方

「レ・シックス」という呼称は、戦間期パリの文化的文脈を端的に示す便利な枠組みでしたが、そのままでは個々の創造的豊かさを過小評価する危険もあります。本稿で述べたように、共通点を手がかりにしつつ、各作曲家の個別史を辿ることで、20世紀フランス音楽の多層的な風景が見えてきます。ラベルは入口であり、深掘りこそが真の理解への道です。

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参考文献