回帰形式とは?ロンドとリトルネッロの歴史・構造・聴きどころ
回帰形式(ロンド/リトルネッロ)とは
「回帰形式」は、主要主題(リフレイン)が繰り返し戻ってくることを特徴とする音楽形式の総称であり、主にロンド(rondo)とリトルネッロ(ritornello)の二つの歴史的系譜に分けて理解されます。どちらも「帰還」の原理を基盤にしますが、時代と機能が異なります。ロンドは古典派以降の器楽曲の楽章構成で一般的に使われ、リトルネッロはバロック期の協奏曲や声楽曲での全体構造を規定しました。
歴史的背景
バロック期(17〜18世紀前半)には、リトルネッロ形式が協奏曲やアリアの枠組みとして広く用いられました。リトルネッロ(イタリア語で「戻るもの」)はオーケストラの合奏部分が繰り返されることを指し、ソロ部分(独奏者のカデンツァ的エピソード)と交互に現れることで全体の統一感と対比を生みます。ヴィヴァルディやヘンデル、バッハなどの協奏曲で典型的に確認できます。
古典派(18世紀後半〜19世紀初頭)になると、ロンドが独立した楽章形式として確立しました。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらはソナタ形式の楽章と並んでフィナーレなどにロンドを頻繁に用い、ABACAやABACABAといったリフレインとエピソードの配列を用いました。また、ソナタ形式とロンドを折衷した「ソナタ=ロンド(sonata-rondo)」も生まれ、主題の再現や展開の扱いをソナタ的に深めた例が見られます。
基本構造とバリエーション
ロンドの典型的な型式には以下のようなものがあります。
- ABACA型:Aがリフレイン、B・Cがエピソード。Aが頻繁に戻ることで統一を保つ。
- ABACABA型(拡張ロンド):より複雑な再帰パターンを持ち、ソナタ=ロンド的な拡張が可能。
- ABB'A'型や自由ロンド:反復や変奏を含む柔軟な形態。
リトルネッロは概念的には「オーケストラのリトルネッロ(合奏主題)」と「独奏エピソード」の交互で成り立ちます。バロック協奏曲の各楽章は複数のリトルネッロとエピソードによって組織され、リトルネッロ自体が調的な帰結と対位法的発展を担うことがあります。
ロンドとリトルネッロ、ソナタ形式との比較
・統一原理:ロンド・リトルネッロは「主題の帰還」による統一を志向します。ソナタ形式は主題の提示・展開・再現という対比と調の旅路により構造化されます。
・調の扱い:ロンドではAの帰還により基調がしばしば強調され、エピソードで短期的に遠隔調に移ることが多いです。リトルネッロは合奏主題が調性感の基準点を提供し、独奏エピソードが調的・色彩的変化をもたらします。
・動的役割:ソナタは劇的・発展的な過程を重視するのに対し、ロンドは反復と対比による会話性や余白の表現に強みがあります。ただしソナタ=ロンドでは両者が融合し、再現部的な機能を持つAの戻りがソナタ的解決をもたらすこともあります。
和声と主題の扱い:分析の視点
回帰形式を分析する際の重要点は、主題Aの素材がどの程度変奏されて戻るか、エピソードでの調的冒険がどの程度発展的か、そして戻りがどのように「帰着感」を与えるかです。具体的には:
- 回帰時の変奏:Aがそのまま戻るのか、装飾やリズム変化、和声進行の改変を伴って戻るのか。
- エピソードの機能:単なる対比か、発展(モティーフの断片化・シーケンス)になっているか。
- 調的設計:エピソードが近親調や遠隔調に移る場合、Aの帰還がどのように再調整(再確立)されるか。
バロック・リトルネッロでは、オーケストラのリトルネッロが転調を伴って断片的に現れることで全体の調的地図を形作ることもあり、これが後のロンド形式における「回帰」の源流となっています。
具体例による解説(聴きどころ)
・ヴィヴァルディ『四季』:協奏曲の各楽章ではリトルネッロが鍵となります。合奏によるリフレインと独奏による描写的エピソードの対比を聴き取りましょう(例:『春』第1楽章のリトルネッロは自然描写テーマの基点)。
・モーツァルト『トルコ行進曲(ロンド)』(ピアノ・ソナタK.331終楽章):明快なA主題と対照的なエピソードが繰り返されるロンドの典型。Aの復帰が常に曲の重心を取り戻します。
・ベートーヴェン『ロンド〜狂詩的作品(Op.129)』など:個性の強いエピソードと変化に富む再帰が特徴。ソナタ的推進力とロンド的回帰の緊張が混ざり合う好例です。
演奏・聴取のポイント
演奏や鑑賞の際は、以下を意識すると回帰形式の面白さが深まります。
- A主題の「帰還」を単なる繰り返しとして扱わず、戻るたびに色彩(音色、ダイナミクス、装飾)を変えることで物語性を生む点。
- エピソードは単なる挿句ではなく、時に主題材料の再解釈や発展を含むため、その中のモティーフを掴むこと。
- 調的な動きに注目すること。Aの帰還がどのように調の中心を再提示するかを聴き取ると形式理解が深まる。
近現代への影響と応用
回帰形式の原理は近現代にも影響を与えています。ネオクラシシズムの作曲家たちは古典的形式を参照しつつ変容させ、主題の回帰や断片的再現を新しい文脈で用いました。また映画音楽やポピュラー音楽でも「サビ(リフレイン)」とA/B構造の対比は回帰形式と通底する考え方です。
まとめ:回帰形式の魅力
回帰形式は「戻ること」で聴き手に安心感や構造的把握を与えつつ、エピソードによる対比や発展で物語性と変化を生み出します。バロックのリトルネッロが築いた合奏と独奏の対話は、古典派のロンドへと受け継がれ、以後の作曲技法や聴取習慣に深く根付いています。楽曲を聴くときは、どこで“帰ってくる”のか、その帰還がどのように変化しているのかを意識すると、形式の面白さがより明瞭になります。
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参考文献
- Britannica: Rondo (rondo-music)
- Britannica: Ritornello
- IMSLP: Vivaldi, Le quattro stagioni(楽譜)
- IMSLP: Mozart, Piano Sonata K.331(楽譜)
- IMSLP: Beethoven, Rondo a capriccio Op.129(楽譜)
- Donald Jay Grout & Claude V. Palisca, A History of Western Music(参考書)
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