ディエッサー徹底解説:原理・設定・実践テクニックと失敗しない使い方
ディエッサーとは何か — 基本定義
ディエッサー(de-esser)は、録音やミックスで発生する過度な「シ」音(シビランス、sibilance)を抑えるための音響処理ツールです。シビランスは母音に比べて高周波にエネルギーが集中する子音(s, sh, ch, z 等)で、マイクや声質、マイクの位置、マイクロフォン前のポップフィルターの有無、プリアンプやマイク前のゲイン設定などで強調されやすく、耳障りな「耳に刺さる」音として認識されます。ディエッサーはその特定帯域のレベルを動的に下げ、自然な聴感を取り戻すために用いられます。
動作の原理 — どうやってシビランスを抑えるか
ディエッサーの基本的な考え方は「限定された高周波帯域だけをタイムドメイン上で圧縮(あるいは減衰)する」ことです。実装には主に以下のようなアプローチがあります。
- サイドチェイン式マルチバンド・コンプレッサー型:高域だけを抽出したサイドチェイン信号でコンプレッサーを駆動し、検出した瞬間だけ音量を下げる方式。多くのプラグインがこの方式を採用しています。
- ダイナミックEQ(動的イコライザ)型:特定の周波数帯のゲインを信号の大きさに応じて自動で下げる方式。周波数帯の幅やカーブを細かくコントロールでき、透明性が高いのが特徴です。
- スプリットバンド(マルチバンド)式:信号を高域と低域に分割し、高域だけをコンプレッション/リダクション処理する方式。処理が明確でわかりやすい反面、バンド境界で位相変化が生じる場合があります。
- スペクトル編集/手動処理:iZotope RX 等のスペクトル編集ツールで、シビランスの断片を手動で削る方法。極めて精密に制御できますが時間がかかります。
周波数レンジと検出方法
一般的にシビランスが強く出る帯域はおおむね4〜10 kHzあたりですが、声質やマイク特性、発音によって変動します。たとえば女性や高音域が強いボーカルはやや高め(6〜10 kHz)にピークが出ることがあり、男性低音域のシビランスはやや低め(3.5〜7 kHz)に現れる場合があります。重要なのは“固定値”に頼らず、実際に音を聴きながらピークをスイープして最適な周波数を見つけることです。
主なパラメータとセッティングの考え方
- 周波数(Freq):問題の発生しているピーク周波数を指定します。ソロ機能やサイドチェインのモノラル/solo帯域機能で確認しつつ設定します。
- Q(帯域幅):処理する周波数帯の幅。狭めにすると局所的に効くので透明性は高くなりますが、的確に中心周波数が合っていないと効果が薄くなります。広めにするとより多くの高域を抑えますが、音がこもったりアーティファクトが出やすくなります。
- スレッショルド(Threshold):ディエッサーが作動するレベルの閾値。小さく設定すると常に働きすぎ、大きく設定すると効果が限定的になるため、ゲインリダクションメーターを見ながら調整します。
- レシオ(Ratio):リダクションの強さ。控えめ(1.5:1〜3:1)から中程度(4:1程度)を基本にし、極端な場合は手動編集や並列処理を検討します。
- アタック/リリース:アタックは非常に速く(1ms以下〜数ms)設定されることが多いですが、速すぎるとトランジェントが欠ける恐れがあります。リリースは短め(50〜200ms)からとし、自然な戻りを探ります。
具体的な導入手順(ステップバイステップ)
- まず問題のあるトラックをソロにして聴く。どの言葉や音節でシビランスが強くなるかを確認する。
- イコライザで高域(4〜12 kHz)をブーストし、シビランスのピーク周波数をスイープして確認する(ピーキングEQを用いる)。
- ディエッサーを挿入し、検出帯域をそのピーク周波数に合わせる。Qは狭めにしてから必要に応じて広げる。
- スレッショルドを下げ、ゲインリダクションが作動する量を確認。指標としては過度に下げすぎず、語感や明瞭性が失われない範囲で数dB程度のリダクションを目安にする。
- アタックとリリースを調整し、発音直後の自然な減衰になるようにする。トランジェントが失われる場合はアタックを遅らせるか、リリースを短縮する。
- 実際のミックスに戻し、ボーカルの明瞭性や空気感を損なっていないか確認する。必要なら並列処理や自動ボリューム(ボリュームオートメーション)で微調整。
よく使われるワークフローと応用テクニック
- 並列ディエッシング:重めのディエッサーを別トラックで走らせ、原音と混ぜて透明感を保ちながらシビランスだけを抑える方法。
- ダイナミックEQの活用:頻繁に変わるピークに対してはダイナミックEQが有効。特定帯域だけが瞬間的に下がるため、音質変化が自然に見えます。
- スペクトラム編集の併用:RXなどで明らかに過度な箇所を手動で修正し、残りをディエッサーで微調整すると非常に安定した結果が得られます。
- SSL/EQ系でのプレ・ハイシェルフ調整:トータルで高域が強いミックスでは、まずトータルEQで過度なハイエンドを抑えてから個別にディエッサーを使うと良い結果になります。
用途別の注意点
- ボーカル:最も一般的な用途。言語や発音(例えば英語の「s」や日本語の「shi」)で出る周波数が異なるので、個別に対応する必要があります。
- ナレーション・ポッドキャスト:ナレーションでは明瞭さを損なわないように控えめに。過度にデエッシングすると聞き取りやすさが落ちます。
- アコースティック楽器・シンバル:シンバルや弦楽器のチップ音などの高域ノイズにも応用可能。ただし楽器本来の煌びやかさを失わないよう注意。
- マスタリング段階:マスターでのディエッシングは慎重に。トラックごとに問題を解消しておく方が望ましく、マスタリング段階では微調整に留めるべきです。
よくある失敗と対処法
- やりすぎて声がこもる/不自然に聞こえる:Qを狭めるか、リダクション量を減らす。ダイナミックEQで極端な帯域だけを狙うのが有効。
- ディエッサーが効かない/追いつかない:検出周波数がズレている、アタックが遅すぎる、あるいはシビランスが広帯域に分散している可能性。スペクトル分析や手動編集を検討。
- 発音の息遣いが失われる:アタックやレシオを調整、または処理を部分的にオートメーションでオフにする。
- 位相問題:スプリットバンド方式や多段処理で位相ずれが生じることがある。耳で確認し、必要ならフェーズ補正や別手法を試す。
実際のプラグインとツールの選び方
市場には多くのディエッサーがあり、用途に応じて選ぶと良いでしょう。軽く透明に処理したければFabFilter Pro-DSやiZotope NeutronのダイナミックEQ、細かくコントロールしたければSmithsonMartin等のダイナミックEQやRXのスペクトル修正が有効です。ハードウェアにこだわる場合は高級なチャンネルストリップやハードコンプレッサーのサイドチェインを活用する手もあります。
まとめ — 効果的なディエッシングの心得
ディエッサーはボーカルや音声を聞きやすくする非常に強力なツールですが、万能ではありません。最も重要なのは「何が問題かを正確に聴き分ける耳」と「適切なツールを目的に応じて選ぶ」ことです。まずは問題周波数を特定し、控えめに動作させ、ミックス全体でのバランスを確認する。必要に応じてダイナミックEQやスペクトル編集、手動オートメーションを併用すると、自然でプロフェッショナルな結果が得られます。
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参考文献
- Sound On Sound: De-essing techniques
- iZotope: What is de-essing?
- FabFilter: How to de-ess
- Waves: When and how to de-ess
- Wikipedia: Sibilant (sibilant consonant)
- iZotope: Using dynamic EQ for de-essing
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