ジャングル音楽完全ガイド:起源・特徴・名曲・現代への影響
ジャングルとは何か — 定義と起源
ジャングル(Jungle)は、1990年代初頭にイギリスで生まれたダンスミュージックの一スタイルで、ブレイクビート・ハードコアやレイヴ文化、レゲエ/ダブ、ダンスホール、ヒップホップなど様々な音楽的要素が融合して成立しました。速いテンポ(概ね150〜170BPM前後)に複雑なブレイクビートの刻み、深いサブベース、レゲエ由来のリズム感やMC(ラガ/ラップ)を特徴とします。
発展の背景には、1980年代後半から1990年代にかけての英国におけるレイヴ/レイヴ後のクラブ文化、移民コミュニティやサウンドシステム文化、パイレートラジオといった社会的・文化的条件があり、これらが相互に作用してジャングルは独自のサウンドとなりました。
音楽的特徴と制作手法
ジャングルの最も顕著な特徴は、複雑に切り刻まれたブレイクビート(ドラムパターン)と、重厚な低域(サブベース)の組合せです。ブレイクビートには、特に「Amen break」と呼ばれる6秒程度のドラムループが多用されました。これは1969年の曲「Amen, Brother」(The Winstons)のドラムソロで、ほぼ無断で数多くのジャングル/ブレイクビート系トラックにサンプリングされ、ジャンルの根幹リズムのひとつとなりました。
制作面では、AKAIのサンプラーやローランド系の機材、ハードディスクレコーダーなどを使い、ループの切り貼り・タイムストレッチ・ピッチ操作・EQでの強調・フィルター処理などにより、ブレイクの「崩し」とグルーヴの再構築が行われます。また、ダブ/レゲエ由来のエフェクト(リバーブ、ディレイ、ピッチシフト、ローエンドのサブベース強調)を用いることで独特の空間感を作り出しました。
重要な曲・アーティスト・レーベル
ジャングルの代表的トラックとしては、Shy FX & UK Apacheによる「Original Nuttah」(1994)が挙げられます。これにより“ラガ”的なMCとハードなブレイクの融合が広く知られるようになりました。Goldieは後のドラムンベースへの橋渡しを行った重要人物で、1995年のアルバム『Timeless』に収められた「Inner City Life」などはジャンルの表現の幅を拡大しました。
その他にも、LTJ Bukem(よりメロウで「アトモスフェリック」寄りの方向を代表)、DJ Hype、Aphrodite、Congo Natty(Rebel MC)などがシーンを支えました。主要レーベルとしては、Metalheadz(Goldieらが1994年に関わったレーベル)、Moving Shadow、Reinforcedなどが知られ、これらのレーベルから多くの重要トラックがリリースされました。
文化的・社会的背景
ジャングルは単なる音楽的潮流にとどまらず、英国における多文化共生の産物とも言えます。カリブ海地域からの移民コミュニティを起点とするサウンドシステム文化や、パイレートラジオ、クラブ/レイヴのネットワークは、ジャングルのサウンドと表現(ラガ・MCやリディム志向)を広めました。歌詞やMC、サウンドセレクションにはブラック・ブリティッシュの経験や都市文化が色濃く反映されています。
また、1990年代半ばには商業メディアの注目も集め、フェスティバルやクラブでのプレゼンスが高まる一方、刑事政策や騒音規制、クラブ規制の影響を受ける部分もあり、シーンは変化していきました。
ジャングルからドラムンベースへの展開と細分化
1990年代中盤以降、ジャングルはより洗練されたプロダクションやテクニカルな志向と結びつき、「ドラムンベース(drum and bass)」という総称で呼ばれるようになります。ドラムンベースはジャングルのリズム的特徴を受け継ぎつつ、テクステップ(techstep)のような無機質でダークな方向、リキッド(liquid/ liquid funk)のようなメロウでジャジーな方向、ジャンプアップ(jump-up)のようなダンスフロア直結型等に細分化していきました。
このプロセスはジャンルの成熟と同時にグローバル展開を促し、ヨーロッパ、北米、日本を含む世界各地に影響を及ぼしました。
サンプリング倫理と権利問題
ジャングルで多用されたサンプリング手法は革新的であった一方、著作権や使用料の問題を伴いました。特に「Amen break」の例は象徴的で、元の演奏者(The Winstons)や権利関係者への適切な許諾や報酬が当初はほとんど行われていませんでした。近年ではサンプリングの歴史的意義や正当な補償を巡る議論が継続しており、クリエイターと原権利者の間での取り決めやリマスター/リリース時のクリアランス対応が重要になっています。
現在のシーンとリバイバル
2000年代以降、ジャングルの純然たる形は少数派になったものの、そのサウンド要素はドラムンベースやエレクトロニックミュージック全般に吸収され続けています。2010年代以降は直接的な「ジャングル・リバイバル」や、それを参照する若い世代のプロデューサー/DJも増え、かつてのリズム処理やサンプル手法を現代の制作環境で再解釈する動きが見られます。
また、映画音楽やゲーム音楽、ヒップホップのプロダクションなど、ジャンル横断的な影響も顕著です。フェスティバルやクラブでのレトロなジャングルセットや、現代的プロダクションと融合した新作のリリースも続いています。
入門ガイド:聴きどころとおすすめトラック
- Shy FX & UK Apache — "Original Nuttah"(1994): ラガ・MCとハードなブレイクの典型。
- Goldie — "Inner City Life"(1994): ジャングル/ドラムンベースの表現幅を広げた名作。
- LTJ Bukem — コンピレーション『Logical Progression』シリーズ:よりメロウ/ジャズ的な側面。
- Origin Unknown — "Valley of the Shadows":クラシックなベース主導トラック。
- Roni Size / Reprazent — 『New Forms』(1997): ドラムンベースのアルバム表現を示した作品(ジャングルからの発展も含む)。
初めて聴く場合は、上記の代表曲から入り、レーベル/コンピ盤(MetalheadzやMoving Shadowのカタログ)や90年代のミックステープを辿ると、サウンドの変遷や多様性が理解しやすいでしょう。
まとめ — ジャングルの意義
ジャングルは短い期間で生まれ出たジャンルでありながら、サウンド面・文化面で強い影響力を持ち、以降のドラムンベースや幅広いエレクトロニックミュージックの発展に寄与しました。ブレイクビートの加工技術、レゲエ/ダブに根ざした低域志向、MC文化との親和性などが複合して生まれたこの音楽は、当時の社会的文脈と結びつきながら今日でも再評価と革新を受け続けています。
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参考文献
- AllMusic — Jungle (style overview)
- BBC — The Amen Break: how the six-second drum loop changed music
- Wikipedia — Jungle (music)
- Wikipedia — Amen break
- Metalheadz — 公式サイト
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