EMIの全貌:歴史・レーベル・買収劇と現代音楽産業への影響
EMIとは
EMI(Electric and Musical Industries Ltd.)は、20世紀の音楽産業を代表する英国の巨大音楽企業です。レーベル運営、録音スタジオ、音楽出版、技術開発など音楽に関わる幅広い事業を手がけ、ポピュラー音楽からクラシックまで膨大なカタログを築きました。EMIは世界的なアーティストを輩出し、レコード産業の成長とともに変遷を重ねてきた存在であり、その歴史は、近年の買収・再編を通じて現代の音楽ビジネスの構図にも大きな影響を与えています。
EMIの歴史と成り立ち
EMIは1931年に設立されました。設立の背景には、当時の主要レコード会社であったThe Gramophone Company(HMV)とColumbia Graphophone Companyの合併があり、この合併により電気音響(Electric)と音楽(Musical)を合わせた社名が生まれました。戦後から1960年代にかけてEMIは英国の音楽産業を牽引し、レーベル運営のみならず録音技術や物理メディアの開発にも貢献しました。
EMIが世界的に広く知られるきっかけのひとつは、パーロフォン(Parlophone)を通じたビートルズの発掘と成功です。1962年にパーロフォンからデビューしたビートルズは、EMIを代表する存在となり、同社の国際的地位を確固たるものにしました。また、EMIはキャピトル(Capitol Records)などの支社・提携を通じて米国市場にも進出し、グローバルに影響力を持ちました。
主要なレーベルとアーティスト
EMIは複数のレーベルを保有しており、それぞれに特徴あるアーティストカタログを有していました。主なレーベルには以下が含まれます。
- Parlophone:ビートルズ、後の多数のロック/ポップ・アーティスト。
- Columbia(UK):初期のポピュラー系リリースを多数。
- His Master’s Voice(HMV):クラシック音楽や初期の録音の中核。
- Harvest:サイケ/プログレッシブ系を扱ったサブレーベル(ピンク・フロイド等)。
- Capitol(米):米国内での流通とプロモーションを担う重要拠点。
EMIはクラシック部門(EMI Classicsなど)でも強力な地位を築き、有名指揮者やオーケストラ、ソリストの録音を多数残しました。ポピュラー面ではビートルズに加え、クイーン(英国国内盤はEMI扱い)やピンク・フロイド、ラジオヘッド、コールドプレイ(いずれもパーロフォン系など取り扱いの例)など、時代を代表するアーティストがEMI系のレーベルからリリースを行っています。
技術革新と録音文化への貢献
EMIは単なるレコード会社に留まらず、録音技術とスタジオ文化の発展にも寄与しました。ロンドンのアビーロード・スタジオ(旧EMI Studios)は、録音・制作の現場として名高く、多くの名盤がここで生まれました。EMIの研究部門は、マイクや録音機材、音響技術の改善に取り組み、ハイファイの普及やステレオ録音の発展にも貢献したとされています。こうした技術的基盤が、創造性の高い録音制作を可能にしました。
企業買収と分割(近年の動向)
EMIは長年にわたり変転を繰り返しました。1979年には家電企業のThornと合併してThorn EMIとなり、その後1990年代には再びエンターテインメント部門に特化する形で分割や再編が行われました。2007年には投資ファンドのTerra Firmaによる買収が話題になり、これは当時のメディア界に衝撃を与えましたが、世界的な経済環境や業績の厳しさの中で負債問題に悩まされることになります。
最も劇的な転換は2011〜2013年にかけて起こりました。EMIの録音部門(Recorded Music)はユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)に買収されましたが、この買収は独占禁止当局の介入を招き、UMG側はEMIの一部資産(代表的にはパーロフォン・レーベルなど)を他社へ売却することが求められました。その結果、パーロフォンやその傘下の一部レーベルはワーナー・ミュージック・グループに売却されるなど、EMIの資産は複数の企業へ分割される形となりました。
また、EMIの音楽出版部門(EMI Music Publishing)も別ルートで取引・再編を経ており、出版部門と録音部門が異なる買い手の手に渡るなど、EMIという名の下にあった資産が世界の複数のプレイヤーに分配される結果となりました。
カタログの価値と現代音楽産業への影響
EMIが築いた膨大なカタログは、ストリーミング時代においても高い商業価値と文化的価値を持ち続けています。クラシックやロック、ポップの名盤群は再発やリマスター、ボックスセット、配信パッケージとして繰り返し収益を生み、音楽出版社としての楽曲権利は同期(映像・広告等への楽曲使用)や印税収入の源泉として重要です。
企業分割後も、EMIが残した録音や出版の管理体制、ライセンスノウハウ、そしてブランド力は、レコード会社やストリーミング事業者が過去カタログをどのように商品化し、現代の消費行動(プレイリスト、リイシュー、限定盤)に結びつけるかという点で多くの示唆を与えています。特に、歴史的音源のデジタル化とメタデータ整備は、カタログの収益化に直結する重要課題となっています。
まとめ — EMIの遺産と教訓
EMIの歩みは、レコード産業の黄金期からデジタル化に至る大きな潮流を体現しています。アーティスト発掘・育成、録音技術の発展、膨大なカタログの構築という点でEMIは卓越した実績を残しました。一方で、経営面での柔軟性やデジタル戦略の遅れ、資本政策の難しさが露呈し、大規模な買収・分割という形で会社のあり方が変わっていったことは、現代の音楽ビジネスにおけるリスクと機会を示す教訓でもあります。
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参考文献
- EMI - Wikipedia(日本語)
- EMI - Wikipedia(English)
- Abbey Road Studios - Official Site
- Guardian記事(Terra Firmaによる買収など)
- BBC News(UniversalによるEMI買収などに関する報道)
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