EQカーブ完全ガイド:周波数・Q・フィルターを理解してプロの音作りをする方法

はじめに:EQカーブとは何か

EQカーブ(イコライザーの周波数特性)は、周波数ごとの音量(振幅)を視覚的に表したものです。横軸が周波数(Hz)、縦軸がゲイン(dB)を示し、特定の周波数帯を持ち上げたり下げたりすることで音色や定位、明瞭さを調整します。ミックスやマスタリング、録音時の補正まで、あらゆる音作りにおいて基本かつ強力なツールです。

EQカーブの基本要素

  • 周波数(Frequency):どの周波数帯を操作するかを決める。たとえば100 Hz、1 kHz、10 kHzなど。
  • ゲイン(Gain):その周波数帯を何dB上げる/下げるか。一般に+/- 0.5〜6 dB程度の微調整が多い。
  • Q(キュー)または帯域幅(Bandwidth):カーブの幅を指す。Qが高いほど狭い帯域(鋭いカット/ブースト)、Qが低いほど広い帯域(ゆるやかな変化)。
  • フィルタータイプ:ベル(bell)、ローシェルフ/ハイシェルフ、ハイパス(HPF)/ローパス(LPF)、ノッチ(notch)など。

代表的なフィルターとカーブの形状

主なカーブには次のようなものがあります。

  • ベル(ピーク/ディップ):中心周波数に対して上下に山や谷を作る。補正や色付けに多用。
  • シェルフ(Shelf):ある周波数を境にその上または下全体を持ち上げ/下げる(低域シェルフ、高域シェルフ)。
  • ハイパス / ローパス:特定のカットオフ周波数より下/上を削る。低域の不要なノイズ除去や高域の不要成分の除去に有効。傾斜は12dB/Oct、24dB/Octなど。
  • ノッチ:極めて狭いQで特定周波数を大幅にカット。ハムや共鳴の除去など。

Q(帯域幅)の理解:狭いQと広いQの使い分け

Qは実践で非常に重要です。狭いQ(高Q)は問題帯域をピンポイントで除去するのに向き、例えばボーカルの不快な『鼻づまり』やギターの共鳴に効きます。一方、広いQ(低Q)は楽器全体の色付けや滑らかなトーン調整に向きます。一般的なワークフローとしては、狭いQで問題を探し出してカットし、その後必要なら広いQで音楽的にブーストする、という流れが安全です。

EQが与える位相変化とリニアフェーズの注意点

通常の(ミニマムフェーズ)EQはゲイン操作に伴って位相シフトが発生します。これが楽器同士の位相関係に影響して、特に複数マイクで録ったドラムやステレオ音源の定位に影響を与えることがあります。リニアフェーズEQは位相シフトを回避できますが、プリリンギング(音の前方に生じる人工的な鳴き)が起きる場合があり、音のアタックや瞬発力に悪影響を及ぼすこともあります。使用時はバイパス比較と耳での確認が必要です。

視覚と聴覚の両方で判断する

現代のDAWやプラグインはスペクトラムアナライザーを提供しますが、視覚に頼りすぎないことが重要です。スペクトラムは情報量が多く便利ですが、最終的な判断は必ずリスニングで行ってください。バイパス切り替え、モノ切り替え、異なるモニターやヘッドホンでの確認も忘れずに。

実践テクニック:基本的なワークフロー

  • 1) 目的を明確にする(補正/色付け/分離)。
  • 2) ハイパスで不要な超低域をカット(楽器によるが一般的には20–80 Hzあたりから)。
  • 3) 問題帯域を狭いQで探してカット(スウィープ法)。
  • 4) 必要なら広いQで音楽的にブースト。ブーストは穏やかに(1–3 dBほど)行うのが安全。
  • 5) ほかのトラックとの兼ね合いで再調整する(マスキングの解消)。

よく使われる周波数目安(楽器別の典型レンジ)

以下は目安です。音源やアレンジで可変するため、必ず耳で確認してください。

  • サブベース:20–60 Hz(存在感と低域の重さ)
  • キックのロー:60–100 Hz(アタックやパンチ)
  • ベース・ミッド:100–250 Hz(重さと太さ)
  • ボーカルのボディ:200–500 Hz(厚み)
  • ボーカルのプレゼンス:2–5 kHz(明瞭さ、語感)
  • シンバルや空気感:6–12 kHz(ブリリアンス・エアー)

楽器別の具体的なEQ処方例

これはあくまで出発点です。

  • キック:ハイパスはほぼ不要だが、30–40 Hz以下をカットして低域を整理。60–100 Hzでブーストしてパンチ、3–6 kHzでビット感を調整。
  • ベース:低域のサブを明確にするなら40–80 Hzを強調。250–500 Hzを少し削って他楽器と干渉しないようにする。
  • スネア:200 Hz付近のモコモコをカット、1.5–3 kHzでスナップ感を調整、8–12 kHzでスナップの上を足す。
  • ギター(歪み):100–250 Hzの濁りを軽く削り、2–5 kHzで存在感を出す。広いQでの微ブーストが自然。
  • アコースティック・ギター:100–250 Hzでボディ、3–6 kHzでピッキングの明瞭さ。不要なボワつきは500–800 Hzあたりでカット。
  • ボーカル:ハイパスで超低域を整理(60–120 Hz)。200–500 Hzの濁りをコントロールし、2–4 kHzで前に出す。8–12 kHzでエアーを追加。

ダイナミックEQとマルチバンドコンプの使い分け

・ダイナミックEQは特定周波数帯のみが一定の閾値を超えたときにのみゲインを変えるため、問題が瞬間的で可変する場合に有効です。例えば、ボーカルの特定の子音が毎回突出する場合など。

・マルチバンドコンプレッサーは周波数帯ごとに圧縮比率やアタック/リリースを設定してダイナミクス全体をコントロールします。EQ的な調整と動的処理を組み合わせたいときに用います。

よくある誤りと注意点

  • 過剰なブースト:+6 dB以上の大きなブーストはフェーズ問題やクリッピングを招く可能性がある。まずはカットで問題を解決する考え方が安全。
  • 視覚依存:スペクトラムが綺麗でも耳で不自然と感じることがあるため必ずA/Bする。
  • モニタリング環境に依存する判断:スピーカーやルームでの周波数特性の偏りを補正せずにEQするとミックスが他のリスニング環境で崩れる。
  • リニアフェーズの乱用:位相問題を解決するためのツールだが、プリリンギングの影響を考慮すること。

実践的なチェックリスト

  • ハイパスで不要低域をカットしたか。
  • 問題の周波数を狭いQで見つけてカットしたか。
  • ブーストは必要最小限にし、広いQで自然に行ったか。
  • 他トラックとのマスキングは解消されているか(ソロだけで判断しない)。
  • 位相やステレオイメージをバイパスで確認したか。

まとめ:EQカーブを使いこなすための心構え

EQカーブは見た目で分かりやすく強力ですが、最終的には耳が最も重要です。基本を押さえた上で「なぜその操作が必要か」を常に意識し、視覚ツールと聴覚を併用して調整してください。狭いQで問題を切り取り、広いQで音楽的に整える。位相やダイナミクスの影響を理解し、必要に応じてリニアフェーズやダイナミックEQを選択する。これが堅実なミックス作業の道筋です。

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参考文献