30バンドイコライザー徹底解説:仕組み・使い方・現場での実践テクニック
30バンドイコライザーとは
30バンドイコライザーは、音声信号を複数の周波数帯域に分割してそれぞれの帯域ごとに増減を行うグラフィックイコライザーの一種です。一般的には1/3オクターブ程度の帯域幅をもつ複数の固定中心周波数(バンド)で構成され、各バンドにスライダーやノブが並ぶ操作系を持ちます。30バンドという表現は製品や用途によって多少の変動がありますが、概ね低域から高域まで細かく分割して音色を直感的に調整できる点が特徴です。
技術的な特徴と周波数配列
30バンドイコライザーは、いわゆる1/3オクターブ幅に相当する中心周波数を持つ帯域を多数並べています。一般的な30バンド構成の中心周波数の例は次の通りです(Hz):
- 20, 25, 31.5, 40, 50, 63, 80, 100, 125, 160
- 200, 250, 315, 400, 500, 630, 800, 1k, 1.25k, 1.6k
- 2k, 2.5k, 3.15k, 4k, 5k, 6.3k, 8k, 10k, 12.5k, 16k
上記は一例で、31バンド(20Hz〜20kHzまでの1/3オクターブ)を採るモデルも多く存在します。30バンドモデルは最上位を16kHz程度までにしている場合があり、用途や設計によって微妙に異なります。各バンドのQ(帯域幅)は固定されており、パラメトリックEQのようにQを変更することはできないのがグラフィックEQの特徴です。
グラフィックEQ(30バンド)とパラメトリックEQの違い
グラフィックEQは固定中心周波数と固定Qを持ち、視覚的に周波数応答が分かりやすい一方で、任意の周波数に鋭く切り込んだり極端にQを変えたりすることはできません。対してパラメトリックEQは中心周波数、ゲイン、Qを自由に設定でき、狭帯域のノッチや鋭い補正が可能です。用途に応じて使い分けるのが基本です。
使用用途と現場での役割
30バンドEQは次のような場面で有用です。
- ライブ音響:スピーカーアレイや会場全体の周波数特性を粗く整えるのに便利。特にサウンドチェックでRTAや測定結果と見比べながら全体のトーンを合わせるのに向く。
- PAのフィードバック対策:ピークを抑えることでハウリングを減らすが、狭帯域の問題にはパラメトリックの方が有効な場合がある。
- ブロードキャスト/インストール音響:定常的なチャンネル補正や送出音声の微調整。
- ミックス作業やリハーサルルーム:楽器やボーカルのキャラクターを素早く確認・調整するためのツール。ただし最終段の微調整やマスタリングではパラメトリックEQやマルチバンドコンプレッサが使われることが多い。
実践的な使い方ガイド
30バンドEQを効果的に使うためのステップは以下です。
- 基準をフラットに戻す:まず全スライダーを0dB(フラット)にして基準を作る。
- 測定と耳の併用:RTAや測定マイクで部屋やシステムの周波数特性を把握し、耳で聞いて違和感のある帯域を探る。
- 減算から始める:問題となるピークを削る(-3〜-6dBなど)ことで他帯域のバランスが見えやすくなる。過度なブーストはノイズや歪みを引き起こすため注意。
- 複数バンドでなだらかなカーブを作る:広域的な補正は隣接する複数のバンドを少しずつ動かし、急峻な変化を避ける。
- ABテスト:EQのオン/オフや設定前後を繰り返し聞き比べ、実際に音楽の文脈でどう変化しているかを確認する。
- モノチェック:ステレオ感や位相関係に悪影響が出ていないか、モノラルでも確認する。
活用のコツと応用テクニック
より実用的なテクニックをいくつか挙げます。
- ボーカル周りの整理:ボーカルの明瞭さを出すために2k〜5k帯の軽いブーストや、低域の不要な帯域(200Hz以下)を切るとマスクが減る。
- キックとベースの分離:50〜200Hz帯域でベースとキックのピークを調整し、互いに干渉しないようにする。
- 明瞭度と艶出し:8k〜12.5kあたりを少し上げると「艶」が出るが、過剰に上げると耳障りなシビランスやノイズが増える。必要に応じて歯切れの向上に留める。
- 会場補正:定在波や低域ピークが強い場合、30バンドで該当する低域バンドを下げることで改善するが、根本対策は吸音や拡散などのルームチューニング。
注意点と落とし穴
30バンドEQは強力ですが、誤用による副作用もあります。
- 位相変化と時間領域の歪み:特定の周波数を強く補正すると位相応答が変化し、音像の安定性やトランジェントが損なわれることがある。リニアフェーズEQを用いると位相影響を最小化できるが、遅延が生じる。
- 過度なブーストによるノイズ増加とクリッピング:ブースト量が大きいと信号レベルが上がり、歪みやノイズが目立つ。必要なら出力でゲイン調整を行う。
- 狭帯域の問題には不向きな場合がある:特定の周波数で発生する鋭いフィードバックや共振は、よりQの高いパラメトリックEQやノッチフィルタで対応する方が有効。
- 「見た目」で調整し過ぎない:全てのスライダーをグラフで極端な形にするのは危険。最終的には「聴感」で判断する。
デジタルとアナログの違い
近年の30バンドEQはアナログ回路の製品もありますが、デジタル実装が主流です。デジタルEQは精度や再現性、プリセット保存、リモート操作、リニアフェーズモードなどを提供することが多いです。アナログは固有の音色変化(飽和や倍音付加)が魅力となる場合があります。用途に応じて選択してください。
マスタリングや制作での使い分け
マスタリングでは狭帯域の補正や位相管理が重要になるため、一般的にパラメトリックEQやリニアフェーズEQが好まれます。30バンドEQはマスタリング工程の前段階でミックスのトーンを整えたり、番組制作やライブ録音のクイック補正に適しています。プロの現場ではグラフィックEQを“粗調整”に使い、細かな処理はパラメトリックで行うワークフローが多いです。
実機選びのポイント
選ぶ際のチェックポイントは以下です。
- 周波数レンジ(20Hz〜16/20kHzなど)とバンド数
- 最大ブースト/カット量(例±12dB、±15dBなど)
- ノイズフロアやS/N比、ヘッドルーム
- デジタルならサンプリング精度、内部処理モード(リニアフェーズなど)
- 入出力端子・ルーティング(インサート、ラックマウント、ステレオ/モノ)
まとめ
30バンドイコライザーは、細かい帯域分割によって直感的に音の輪郭を整える強力なツールです。ライブPAやブロードキャスト、リハーサルや現場での素早い音作りに向きますが、位相変化やノイズ増加といった副作用にも注意が必要です。より鋭い補正や位相管理が必要な場合はパラメトリックEQやリニアフェーズEQと併用すると良いでしょう。実際の運用では測定と耳を組み合わせ、減算的アプローチとAB比較を基本にすることをおすすめします。
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参考文献
- グラフィックイコライザー - Wikipedia(日本語)
- イコライゼーション (音響) - Wikipedia(日本語)
- Graphic equalizer - Wikipedia(英語)
- Room EQ Wizard (測定とルーム補正ソフトウェア)
- Octave band - Wikipedia(英語)


