20バンドイコライザー徹底解説:仕組み・使い方・実践テクニック
はじめに — 20バンドイコライザーとは何か
20バンドイコライザーは、可変ゲインを持つ20の固定周波数バンドで音声信号の周波数特性を調整するイコライザーの一種です。主にグラフィックイコライザーとしてハードウェアやソフトウェアで実装され、音響補正、フィードバック抑制、音色の整形(クリエイティブな処理)など幅広い用途で使われます。20バンドは"細かすぎず粗すぎない"中庸の分解能を提供し、現場のPA、ホームスタジオ、ライブ、放送などで採用されることが多い構成です。
技術的背景:バンド配置と帯域幅(帯域分解能)
20バンドの中心周波数や帯域幅はメーカーや仕様によって異なりますが、設計上は可聴帯域(おおよそ20 Hz〜20 kHz)を等間隔(オクターブ分割や1/3オクターブに準拠)で分割する考え方が多く使われます。厳密に1/3オクターブを採る場合は31バンドが標準的ですが、20バンドでは1/3〜1/2オクターブ相当の間隔で代表周波数を並べることが一般的です。
各バンドのフィルター形状はグラフィックEQではおおむねベル(ピーク)形状または帯域通過的な特性になっています。Q(品質係数)やスロープは固定されることが多く、ユーザーは各バンドのゲインのみを上下させて音色を作ります。これに対しパラメトリックEQは中心周波数・Q・ゲインを自由に設定でき、より精密な補正が可能です。
20バンドEQの長所と短所
- 長所
- 視覚的で直感的:スライダーの形状が周波数特性をそのまま示すため、操作が分かりやすい。
- 広帯域の整形に向く:複数バンドを同時に調整して全体のトーンを素速く整えられる。
- ライブや速いワークフローで有効:短時間でフィードバック抑制やルーム補正ができる。
- 短所
- 周波数選択の自由度が限定される:中心周波数やQが固定されるため、非常に狭い帯域の"外科的"な処理には不向き。
- 隣接バンドの相互作用:複数バンドを操作すると位相やゲインの累積効果で意図しないピークやディップが生じることがある。
- 位相特性:アナログ実装では位相シフトが生じ、デジタル実装でも線形位相/最小位相などの選択が必要になる。
実践的な使い方 — 目的別アプローチ
20バンドEQは用途に応じて使い方が変わります。以下に代表的な場面ごとの考え方を示します。
ルーム補正・PAでの利用
会場の定在波やスピーカー特性を補正する際、RTA(リアルタイムアナライザー)などで測定を行い、過度に強調されている周波数を抑える(カットする)方法が基本です。狭い帯域の問題(例:定在波)にはノッチ的に強めにカットすることが効果的ですが、グラフィックEQでは隣接バンドにも影響が出やすいため、カット量と範囲を慎重に設定します。逆に低域の不足を補う際は広めのバンドで穏やかにブーストするのが自然です。
ミックス・マスタリングでの使い方
ミックス段階では楽器毎の役割を明確にするためのトーンメイクに使います。20バンドはマスターやサブミックスのトータルトーンを整える際に有効ですが、楽器単体の微調整はパラメトリックEQを併用するのが一般的です。マスタリングでは微妙な広域ブーストやローエンドの整えに便利ですが、大きなカット/ブーストは避けるべきです(特に+/-3 dB程度を目安に)。
フィードバック抑制
ライブでハウリングが発生した場合、発生周波数に該当するバンドを素早くカットします。20バンドは現場での迅速な対応力に優れ、問題周波数が明確なときは非常に有効です。ただし、耳だけで判断するよりもRTAと組み合わせると確実です。
楽器別・周波数帯別の実例ガイド(目安)
- キック:アタックは2–5 kHz付近、ローエンドのパンチは40–100 Hz帯を調整。過多なら100–300 Hz帯を軽くカット。
- ベース:50–200 Hzでボディ感、700–1.2 kHzで存在感。低域の濁りは200–400 Hzを抑える。
- スネア:200 Hz付近の太さ、2–5 kHzのスナップ感。不要な低域はハイパスで除去。
- ボーカル:200–500 Hzの濁りは削り、1–3 kHzで明瞭度、6–10 kHzでシルキーさや空気感を調整。
- ギター:ローの濁りは100–250 Hzでカット、2–4 kHzで存在感を与える。
※上記はあくまで一般的な目安で、楽曲や編成、音量により最適値は変わります。
注意点:位相、累積ゲイン、耳と測定の両輪
イコライザーの調整では位相変化に注意が必要です。アナログ系のEQは最小位相特性を持ち、ピークやディップ周波数の近傍で位相が大きく変化します。デジタルEQは線形位相タイプを選べば位相変化を抑えられますが、処理に遅延(レイテンシー)を伴う場合があります。
また、複数バンドを重ねてブーストすると累積で過度なゲイン増加やクリッピングを招くため、ゲイン構成(ゲインステージング)に注意してください。耳だけでなくRTAやスペクトラムアナライザーを併用することで客観的な判断が可能です。さらに、人間の聴感特性(ラウドネス感)は周波数依存で変わるため、特に低音を強調すると知覚上の音量が増す点も考慮します(等ラウドネス曲線を参照)。
デジタル実装における留意点:CPU・レイテンシー・ビット深度
ソフトウェア版20バンドEQは各バンドを複数のフィルターで実現するためCPU負荷が高くなることがあります。高サンプルレートや線形位相処理を選択するとさらに負荷増。ライブ用途では低レイテンシー実装を選ぶ、制作段階では高品質(線形位相)を選ぶなど用途に応じた選択が重要です。また、内部演算のビット深度やフィルター設計によりノイズフロアや歪みが変わるため、信号レベルの余裕(ヘッドルーム)を確保することが望ましいです。
ワークフローの提案:効率的な使い方のステップ
- 目的を明確にする(補正か創作か)。
- 測定(RTA)と耳で問題の周波数を特定する。
- まずはカットから始める(不要な帯域を削る)。
- 必要なら広域で穏やかにブーストする。小さなブーストを重ねすぎない。
- 設定後は前後比較(バイバイ)で効果を確認する。多くの場合、バイパス前後でのルート平均二乗(RMS)やラウドネスが変わるため、主観比較時は音量を揃えること。
- 最終チェックは他のシステム(スピーカー、ヘッドホン)で行う。
応用テクニック:M/S処理やオートメーションとの組み合わせ
20バンドEQはステレオトラック全体のトーン調整に向きますが、Mid/Side(M/S)処理を組み合わせれば中央成分と側方成分で個別にEQが可能です。例えばボーカルが中央に集中している場合、Midの特定帯域を微調整して明瞭度を上げ、Sideは空間感を強化するような使い分けができます。また、楽曲ごとにEQをオートメーションで変化させることで場面ごとのダイナミクスやトーンのコントラストを演出できます。
まとめ
20バンドイコライザーは、視覚的に扱いやすく迅速にトーン補正ができる優れたツールです。固定周波数の利便性と一定の帯域分解能により、PA現場からミックス、マスタリングまで幅広く使えます。一方で自由度や外科的処理能力ではパラメトリックEQに劣るため、用途に応じて併用したり、測定器具や耳で確認しながら使うのが最善です。位相や累積ゲイン、CPUやレイテンシーといった実務上の制約にも注意し、目的(補正・創作)を明確にして操作することで、20バンドEQは非常に強力な音作りの武器になります。
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参考文献
- Equalization (audio) — Wikipedia
- Graphic equalizer — Wikipedia
- Parametric equalizer — Wikipedia
- Equal-loudness contour (Fletcher–Munson) — Wikipedia
- ISO/IEC 標準(1/3オクターブバンド等) — ISO
- How EQ Works — Sound On Sound(技術解説記事)


