ナチュラルマイナー（自然短音階）徹底解説：理論・和声・作曲での活用法

2025年12月14日 最終更新日時 : 2025年12月14日 エバープレイ編集部

ナチュラルマイナーとは何か──定義と基本性質

ナチュラルマイナー（自然短音階、Natural Minor）は、長調（メジャー）の平行調にあたる短調のうち、和声的変化を加えない自然な形の短音階を指します。音階の構成音は、長調の第6音を主音にしたもので、同じ調号を共有する点が特徴です。西洋音楽理論ではアイオニアン（長調）に対してエオリアン（Aeolian）というモード名が付与されており、ナチュラルマイナーはこのエオリアン・モードと同一視されます。

音階の構成（インターバル）

ナチュラルマイナーは、全音（W）と半音（H）の並びで表すと次のようになります：W - H - W - W - H - W - W。つまり、1→2（全音）、2→b3（半音）、b3→4（全音）、4→5（全音）、5→b6（半音）、b6→b7（全音）、b7→1（全音）となります。例えばAナチュラルマイナーはA - B - C - D - E - F - G（Aの全音階）です。

ナチュラルマイナーと平行長調／相対長調の関係

あるナチュラルマイナーの調（例：Aマイナー）は、同じ調号を持つ平行長調（相対長調：Cメジャー）と密接に結びついています。これは、ナチュラルマイナーがそのまま長調の第6音から始める形で得られるためです。この関係を理解すると、転調やモードの入替え、コード進行の借用がしやすくなります。

和音の構成（トライアドと7thコード）

ナチュラルマイナーに基づくダイアトニック（音階内）和音は、長調とは異なる性格を示します。スケール上の各度に積み重ねられる三和音（トライアド）は次の通りです：

  • I（1度）: m（短三和音）
  • II（2度）: dim（減三和音）
  • III（3度）: M（長三和音）
  • IV（4度）: m（短三和音）
  • V（5度）: m（短三和音）
  • VI（6度）: M（長三和音）
  • VII（7度）: M（長三和音）

七和音に拡張すると、1度に基づく和音はm7（マイナー7）、2度は半減7（m7♭5）、3度はM7（メジャー7）などの色合いになります。特にVII度にできる和音はドミナント的特性を一部持つことがあり、VII7（長三和音に小7を加えた形）は短調進行に特徴的な味付けを与えます。

和声機能と限界──導音（leading tone）の不在

ナチュラルマイナーの最も重要な特徴の一つは、主音へ向かう際に通常期待される導音（長7度）がスケール内に存在しないことです（例：AナチュラルマイナーではGはG#にならない）。その結果、完全終止（V→i）の強い解決感が生まれにくく、伝統的な機能和声に基づく「ドミナント→トニック」の解決が弱まります。

作曲や編曲ではこの点を補うために、しばしば5度の和音（V）を強める目的で第7音を半音上げて導音を作る（E→E7やE major in A minor 等）ことが行われます。これがハーモニック・マイナーやメロディック・マイナーの使用動機の一つです。

代表的なコード進行と機能的な使用法

ナチュラルマイナーの色彩を活かした典型的なコード進行には次のようなものがあります（Iは短調の主音）。

  • i - VII - VI - VII：ロック／ポップでよく使われるループ。下降するラインが暗く印象的。
  • i - iv - v - i：純粋にナチュラルマイナーだけで作る場合の基本進行。ただしvは導音を持たないため終止感は穏やか。
  • i - VI - III - VII：メロディアスでドラマティックな響き。ホーンセクションやストリングスで有効。

なお、終止を強めたい場合やドミナントの機能を戻したい場合は、vをV（短調の五度に長三和音を導入）に置き換えることが多く、これがハーモニック・マイナーの採用へとつながります。

メロディにおけるナチュラルマイナーの扱い

旋律を書く際、ナチュラルマイナーは素朴で叙情的な印象を与えます。導音がないために「浮遊感」や「悲哀」を演出しやすく、フォークや一部のポップス、アンビエント、民謡的な表現で好まれます。反対にクラシックやジャズなどで強い終止感・推進感が欲しい場合は、場面に応じて6度・7度の上昇（メロディック・マイナーやハーモニック・マイナーの借用）を行います。

歴史的背景：モード体系から短音階へ

中世・ルネサンス音楽では、現在の長短調システムが確立する以前に、教会旋法（モード）と呼ばれる体系が用いられていました。エオリアン（Aeolian）はその一つで、ナチュラルマイナーはこのエオリアン・モードと同義となります。近代の和声法が発展する過程で、ナチュラルマイナーはハーモニーの都合上において変化（導音の導入や6度の補正）を受けつつも、旋律的・色彩的な存在として現在まで残っています。

応用テクニック：借用、モード・ミキシング、転調

  • 借用和音：ナチュラルマイナーのコードをメジャー曲に借用することで、微妙な暗さや重厚感を与えられます（例：I（メジャー）→i（短三和音））。
  • モード・ミキシング：Dorian・Phrygianなど他の短調系モードと混ぜて使うと、色の幅が広がります。例えばDorianの6度を借用するとより明るい短調的響きが得られます。
  • 転調の戦略：ナチュラルマイナーは相対長調への転調が容易。平行長調（相対長調）に一時的に移ることで、調性感を曖昧にする演出が可能です。

実践：作曲・即興での練習メニュー

ナチュラルマイナーを使いこなすための実践練習例：

  • スケール練習：メトロノームでゆっくりから速く、上下行を正確に掃いて音階の各音の色を確認する。
  • アルペジオ練習：ナチュラルマイナーのダイアトニック・トライアドと7thをアルペジオで弾き、和声感を身体に覚えさせる。
  • 即興練習：i - VII - VI - VII のループ上でメロディを即興。導音を使わないフレーズと、あえて導音を入れるフレーズを比較する。
  • コード置換：曲の一部をナチュラルマイナーに置き換えて響きの変化を観察する。

よくある誤解と注意点

ナチュラルマイナーを単純に「暗い＝悲しい」と結びつけるのはやや短絡的です。扱い方によっては力強さ、神秘性、民族的な色彩など多様な表現が可能です。また、短調の楽曲はナチュラル・ハーモニック・メロディックの3種を場面に応じて混用することが多く、楽曲全体をナチュラルマイナーだけで説明するのは不十分な場合がある点に注意してください。

まとめ

ナチュラルマイナー（エオリアン）は、西洋音楽の基本的な短音階であり、導音を持たないために独特の情緒を生むスケールです。和音や進行、モード間の関係、実践的な練習法を理解することで、作曲・編曲・即興表現の幅を広げることができます。必要に応じてハーモニック・マイナーやメロディック・マイナーを適切に借用することで、より豊かな和声的効果を得られます。

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