ハーモニックマイナー徹底解説:理論・和声・実践的使い方

はじめに

ハーモニックマイナー(harmonic minor)は西洋音楽の小調体系において重要な役割を果たすスケールであり、クラシックからフラメンコ、ジャズ、メタル、映画音楽まで幅広いジャンルで使われます。本稿ではスケールの構造、和声的特徴、具体的な和音形成、演奏・作曲への応用、注意点までを詳しく解説します。音楽理論の基礎知識がある前提で書いていますが、専門用語には要点を補足します。

ハーモニックマイナーとは何か

ハーモニックマイナーは自然短音階(ナチュラルマイナー、エオリアン)の第7音を半音上げた形のスケールです。これにより導音(leading tone)が出現し、属和音が長三和音化して強いドミナント機能を発揮できるようになります。例としてAハーモニックマイナーは音階がA B C D E F G#となります(対してAナチュラルマイナーはGナチュラル)。

音程パターンと理論的特徴

ハーモニックマイナーの半音ステップ配列は次の通りです(ルートから上へ): 2 1 2 2 1 3 1(半音単位で表すと2,1,2,2,1,3,1)。6度と7度の間に増2度(3半音)が入ることが最大の特徴で、この増2度が独特の異国情緒的な響きを生みます。また7度が半音上がることで、和声的に属音(V)が長三和音になり、V→iの完全終止が可能になります。これはクラシック音楽における小調の終止感を支える重要な要素です。

スケールから生まれる和音(トライアドと四和音)

ハーモニックマイナー上に構成される主要な三和音と七の和音を、Aハーモニックマイナーを例に説明します。

  • 三和音: i(A C E)- 小三和音、 ii°(B D F)- 減三和音、 III+(C E G#)- 増三和音、 iv(D F A)- 小三和音、 V(E G# B)- 長三和音(属和音)、 VI(F A C)- 長三和音、 vii°(G# B D)- 減三和音
  • 四和音(七の和音): iΔ7(A C E G#)- マイナー/メジャー7、 iiø7(B D F A)- ハーフディミニッシュド7、 III+M7(C E G# B)- 増三和音+長7、 iv7(D F A C)- マイナー7、 V7(E G# B D)- ドミナント7、 VImaj7(F A C E)- メジャー7、 vii°7(G# B D F)- ディミニッシュド7

注記: iの七の和音がマイナー・メジャー7となる点は、古典和声では特殊扱いされることが多く、20世紀以降の和声語法やジャズでは有益に使われます。

旋律上の特徴と表現

ハーモニックマイナーが与える旋律的特性は二つあります。第一に7度の引上げにより導音が形成され、上行・下行ともに強い解決感を生みます。第二に6度-7度の間に増2度が存在するため、そこが旋律上の跳躍点として現れると異国的・ドラマティックな響きを作ります。クラシック作曲家はこの増2度を滑らかに処理するために、しばしば奏者へ分割音や装飾音を与えます。また、民俗音楽的なニュアンスを意図して増2度を強調することも多いです。

モードと派生スケール

ハーモニックマイナーから派生するモード群の中で特に有名なのは五度から始まるモード、通称フリジアンドミナント(Phrygian dominant)です。Aハーモニックマイナーの五度(E)から始めるとE F G# A B C Dとなり、これがフラメンコや中東的な響きに直結します。その他のモードも現代音楽やジャズで利用され、オルタードなテンションや増五の響きをもたらします。

ジャンル別の使用例

  • クラシック: ドミナント感を得るために広く使用。バロック〜ロマン派での終止や旋律の装飾、20世紀の調性拡張で頻出。
  • フラメンコ: フラメンコや中東由来の音楽で多用される。フリジアンドミナント系の響きが代表的。
  • ジャズ: マイナー・キーでのドミナント(V7)やドミナント代理に対してハーモニックマイナーのスケールがソロやコンピングで参照される。iΔ7やV7altを含む和音色彩として使われる。
  • メタル/ロック: 暗くエキゾチックでドラマティックなフレーズ作りに好まれる。リフやソロでの使用が顕著。
  • 映画音楽: 緊張感や異国情緒、悲劇性を演出する標準的なツール。

作曲・編曲での実践的アドバイス

  • 終止感を強めたい場合は属和音V(長三和音またはV7)を明確に用いる。ハーモニックマイナーはまさにV→iのための語法。
  • 増2度の扱いに注意する。旋律で6度→7度の跳躍を使うときは前後の音で滑らかに繋ぐか、装飾音を用いて減衝する。
  • 和声のバランスをとるために、ナチュラルマイナー(6度と7度が両方ナチュラル)や旋律的短音階(上行で6度と7度を上げる)と組み合わせて使うことが多い。実際の楽曲では単一のスケールだけで全てを賄わないことが多い。
  • モード混合による効果: フリジアンドミナントやハーモニックマイナーの他のモードをパッセージ単位で挿入すると色彩的に豊かになる。

声部進行と和声法上の注意点

クラシック和声法の観点からは、導音(7度上げること)によって生じる和声的問題を解消するために声部進行を慎重に設計する必要があります。例えばG#が含まれる場合、G#はAへ解決することが望ましく、近接する高次の声部も同様に導音に従うと安定した終止が得られます。逆に増5度や増2度を含む和音は過度に同時鳴りさせると不安定に聞こえるため、転回や分散和音でコントロールします。

実践例: 代表的なコード進行

いくつかの典型的な進行例(Aハーモニックマイナーを想定):

  • i - iv - V - i (A minor - D minor - E major - A minor)
  • i - VI - VII - i (A minor - F major - G#dim/またはG#° - A minor) フレーズ次第でドラマティックな戻りが得られる
  • ii° - V - i (Bdim - E - Am) クラシック的な機能進行
  • VI - V - i (F - E - Am) ロック/メタルで多用されるベースライン

比較: ハーモニックマイナーと旋律的短音階・自然短音階

ハーモニックマイナーは主に和声的な機能(特にV→i)を重視します。旋律的短音階(メロディックマイナー)は上行で6度と7度を上げ、下行で自然短音階に戻るという使い方をするため、旋律的な滑らかさが得られます。自然短音階は6度と7度が下がっているため、和声的なドミナント機能は弱いです。作曲やアレンジではこれらを場面に応じて使い分けることが重要です。

まとめと応用のヒント

ハーモニックマイナーは短調において確固たるドミナントを与え、独特な増2度による色彩を持ちます。クラシックでは終止や機能和声のため、近現代〜現代音楽やジャズではテンションや和声色彩のため、民俗やフラメンコ的表現では旋律素材として幅広く利用されます。作曲時には増2度の扱いと導音の解決を意識し、必要に応じてナチュラルマイナーや旋律的短音階と併用すると実用的です。

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参考文献