メロディック・マイナー徹底解説：理論・モード・実践応用で深掘りするスケールの全貌

2025年12月14日 最終更新日時 : 2025年12月14日 エバープレイ編集部

メロディック・マイナーとは何か — 基本定義と歴史的背景

メロディック・マイナー（melodic minor）は、西洋音楽の短調（マイナー）の変化形の一つで、特に「上行形」と「下行形」で音階構成が異なる古典派以降の用法と、ジャズで用いられる単一形（上行形を上下両方向で用いる）という二つの主要な概念が存在します。クラシック音楽では上行時に第6音・第7音が長音（長6度・長7度）に上がり、下行時には自然短音階（ナチュラル・マイナー）に戻る処理が一般的です。一方ジャズ理論では、上行形（1, 2, b3, 4, 5, 6, 7）を上下とも同じ形で用いることが多く、これは「ジャズ・メロディック・マイナー」または単に「メロディック・マイナー」と呼ばれます。

音程構成と表記（インターバル表）

メロディック・マイナー（ジャズ型、上行形を基準にする場合）の音程構成は次の通りです（1がトニック）：1 — 2 — b3 — 4 — 5 — 6 — 7。半音列としては 0, 2, 3, 5, 7, 9, 11。例えばCメロディック・マイナーは C D Eb F G A B となります。

クラシックとジャズの違い

  • クラシック：上行で6度・7度を上げ、下行で自然短音階に戻す（和声的・旋律的機能に応じた使い分け）。
  • ジャズ：上行形（6度・7度が長）を上下どちらにも用いる。即興とコード・スケール理論との整合性を重視するため。

メロディック・マイナーの7つのモードと実用的意味

ジャズ理論では、メロディック・マイナーの各音から始める7つのモードが重要視され、各モードには特有の響きとコード対応が存在します。以下にモード名、音程、代表的なコード用途を示します（Cメロディック・マイナーを例にした構成音を元に説明）。

  • Mode I — Melodic Minor（メロディック・マイナー）

    音程：1 2 b3 4 5 6 7。コード：m(maj7)（例：Cm(maj7)）。用途：マイナー・メジャー7（マイナートニックでの微妙な“明るさ”を持つ響き）、映画音楽や現代ジャズのテーマに多用。

  • Mode II — Dorian b2（ドリアン・フラット2）

    音程：1 b2 b3 4 5 6 b7。コード：m7（フラット2を含むドリアン的響き）。用途：マイナー・コードで半音下からの緊張（エキゾチック、フラメンコ的ニュアンス）を出したいとき。

  • Mode III — Lydian Augmented（リディアン・オーギュメンテッド）

    音程：1 2 3 #4 #5 6 7。コード：Maj7#5（メジャーに増5度を含む）。用途：明るく浮遊感のある響き、拡張和音（メジャー#5）上でのソロ。

  • Mode IV — Lydian Dominant（リディアン・ドミナント）

    音程：1 2 3 #4 5 6 b7。コード：7#11（ドミナントの#11響き）。用途：ドミナント・コードでの代替スケールとして、IV→V等の和声進行に色彩を加える。

  • Mode V — Mixolydian b6（ミクソリディアン・フラット6）

    音程：1 2 3 4 5 b6 b7。コード：7b13（ドミナントのb13響き）。用途：ブルージーさと半音階的な向きが両立するドミナント・ソロで使用。

  • Mode VI — Locrian #2（ロクリアン・シャープ2、別名Aeolian b5あり）

    音程：1 2 b3 4 b5 b6 b7。コード：m7b5（ハーフディミニッシュ）。用途：半減7（ø7）や不協和を活かすハーモニーでの選択。

  • Mode VII — Super Locrian / Altered（スーパー・ロクリアン、アルタード）

    音程：1 b2 b3 3 #4 #5 b7（半音表記では 0,1,3,4,6,8,10）。コード：7alt（7(b9,#9,#11,b13)など）。用途：最も一般的なV7alt（テンション満載のテンションスケール）として、V7（解決前の最大の緊張）に適用。

コードとスケールの対応（Cメロディック・マイナーを例に）

Cメロディック・マイナーの音（C D Eb F G A B）に基づく代表的な7thコードと質は以下の通りです。

  • I（C）: Cm(maj7)（C-Eb-G-B）
  • II（D）: Dm7（D-F-A-C）
  • III（Eb）: Eb+Maj7（Eb-G-B-D）
  • IV（F）: F7#11（F-A-C-Eb、Bが#11）
  • V（G）: G7（G-B-D-F。スケール内のEbやAがテンションとして働く）
  • VI（A）: Am7b5（A-C-Eb-G）
  • VII（B）: Bm7b5（B-D-F-A）

このように、メロディック・マイナーは単に「マイナーの派生形」という枠を超え、多様なテンションと和音色を提供します。

実践的な用法と即興アプローチ

即興や作曲での使い方のヒントをいくつか挙げます。

  • マイナー・トニック上：i(maj7) のサウンドを活かして、7度（導音）と6度（長6度）を強調するフレージング。
  • ドミナントの代替：V7alt上でMode VII（Super Locrian）を使用することでb9,#9,#11,b13などのすべてのalteredテンションを含めたソロが可能。
  • IV7#11 響き：Lydian dominant（Mode IV）をVやIVに適用して、#11の浮遊感を活用。
  • モードを入れ替える：同一トニックに対し複数モードを重ねることで、和声的な色彩を変化させる（例：Cm(maj7)のテーマ→G7altでSuper Locrian → F7#11でLydian dominant）。
  • ターゲット音とガイドトーン：メロディック・マイナーは3rdと7th（特に7th）の関係が重要。ターゲットとしてコードトーンのガイドトーンを用い、隣接するテンションを経由するフレーズを作る。

練習課題（スケール練習・アルペジオ・フレーズ例）

  • 長音階と同様に、メロディック・マイナーを全調で上下に4度・3度・6度といったインターバルで練習する。
  • 各モードに対応する7thアルペジオ（m(maj7), m7, +Maj7, 7#11, 7, m7b5, altのテンションアルペジオ）を順番に弾く。
  • ドミナント7th（V7alt）に対してSuper Locrianでフレーズを作り、解決先（i）でメロディック・マイナーに滑らかに戻す練習をする。
  • メロディライン作成：スケールの特徴音（#4, #5, b2など）を小節内で短く提示し、解決へ導く練習。

和声理論上の位置づけ — なぜ重要か

メロディック・マイナーは、マイナー調における「上昇する導音」と「長6度の融和」を同時に提供し、ドミナントの代替や拡張和音のテンション供給源として非常に有効です。ジャズのコード・スケール理論では、特にテンション豊かなドミナント（V7alt）やメジャーの拡張和音（Maj#5, 7#11等）を構築するための基本素材になっています。

よくある間違いと注意点

  • クラシック流の上下使い分けとジャズ流の単一形の混同。文脈（クラシック曲の解釈かジャズ即興か）に応じて使い分けること。
  • アルタード・テンションをむやみに使用すると解決感が損なわれる。特にドミナント→トニックの解決でターゲット音（3度や7度）を明確にすること。
  • モード名の混同。Mode IIを「Phrygian #6」と呼ぶ流派もあるが、一般的にはDorian b2の名で理解すると運用が容易。

実例と参考となる作品・奏者の名前（一般的観察）

メロディック・マイナーやそのモードは現代ジャズの即興語法として広く用いられてきました。ビバップ以降のモーダル・ジャズやポストバップ以降の近代ジャズでは、ミュージシャンがメロディック・マイナー由来のテンションを多用しています（具体的な楽曲ごとの使用箇所は演奏解釈に依存するため、耳で確認することを推奨します）。

まとめ：理論と実践をつなげるために

メロディック・マイナーは単なる「別のマイナー音階」ではなく、和声的にも即興的にも多彩な表現を可能にする強力なツールです。理論としての理解（音程構成、モード、コード対応）と実践的訓練（スケール練習、アルペジオ、モード適用）を組み合わせることで、楽曲の色彩を豊かにできます。まずはCから全調に広げて、各モードを対応するコード上で試すことをおすすめします。

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