マイキング徹底ガイド：録音で音を決める基本原理と実践テクニック

2025年12月14日 最終更新日時 : 2025年12月14日 エバープレイ編集部

マイキングとは — 定義と重要性

マイキング（miking）は、音源から空気振動を電気信号に変換するマイクを適切に配置・選択する技術を指します。レコーディングやライブ環境において、マイキングは音色、空間感、ダイナミクスを最終的な音に大きく影響させるため、ミックス前の“音作り”として非常に重要です。

マイクの種類と指向性の基礎

マイキングを語る上でまず押さえるべきはマイクの種類と指向性です。代表的なマイクの種類には以下があります。

  • ダイナミックマイク：耐入力が高く丈夫。ドラムやギターアンプ、ライブボーカルで多用されます（例：Shure SM57/SM58）。
  • コンデンサーマイク：高感度で高域の解像度が高い。スタジオボーカルやアコースティック楽器に適します（例：AKG C414、Neumann U87）。
  • リボンマイク：自然で滑らかな特性。ギターアンプやドラムのオーバーヘッド、ストリングスに好まれます（例：Royer R-121）。

指向性（カーディオイド、オムニ、フィギュアエイトなど）も音の取り方を決めます。オムニは周囲の音を均一に拾うため自然な音場を得やすく、カーディオイドは前方の音を強調し不要音を減らせます。フィギュアエイトは前後を拾い中間の音を減衰させるため、ステレオやMS収録で役立ちます。

基礎原則：距離、角度、位相

以下の基本原則を理解するとマイキングが格段にやりやすくなります。

  • 距離と近接効果：指向性マイクは近接効果により低域が強調されます。低域をコントロールしたい場合は距離で調整します。
  • 角度：マイクの角度でアタック感やブライトネスが変わります。斜めに当てると高域が落ちやすく、正面を向けると攻撃的になります。
  • 位相とポラリティ：複数マイクを使う場合、音の到達時間差で位相干渉が発生します。位相のズレは音が薄くなる原因になるため、3:1ルールや位相チェックを行います。

楽器別マイキングテクニック

ボーカル

スタジオボーカルではコンデンサーマイクを中心に選択し、ポップフィルター、適切な距離（通常15〜30cm程度）を保ちます。ダイナミックマイクは強い声やライブで有効です。ポップノイズ対策、ルーム音のコントロール、ハイパスフィルターで不要低域を削るのが一般的な処方です。

アコースティックギター

ブリッジ周辺の豊かな倍音を狙うか、12フレット付近でバランスを狙うかで位置を決めます。コンデンサーマイクをボディの12フレット方向に向けると自然な音。ルームマイクを併用すれば空間感が得られます。

エレキギターアンプ

ダイナミック（例：SM57）をスピーカーコーンの中心寄りに当てると明るくアタックが強く、コーンのエッジ寄りだとやや丸くなります。リボンマイクは丸みと自然さを与えます。DI（ダイレクト）とアンプマイクをブレンドすると、クリーンな輪郭とアンプ特性の両方が得られます。

ドラムセット

ドラムは多数のマイクを使う代表例です。一般的なセッティング：

  • キック：フロントにダイナミック（穴の有無や内外の位置で低域やアタックを調整）。
  • スネア：トップにダイナミック、ボトムに小型コンデンサーでスナッピーを拾う。位相の関係に注意。
  • タム：トップにライトなダイナミックを使用。
  • オーバーヘッド：ステレオペア（XY、ORTF、ABなど）でシンバルとステレオイメージを収録。

3:1ルール（あるマイク同士の距離が、音源からのマイク距離の3倍以上であること）を意識するとクロストークによる位相問題が減ります。

ピアノ・ストリングス・アンサンブル

ピアノは内部の打弦と外装の反射を狙う位置で音色が大きく変わります。グランドピアノは弦寄りと響板寄りのバランスを見てステレオで取り、アップライトはサウンドホール付近と上部の反射を検討します。弦や弓楽器はリボンや小型コンデンサで自然さを出すのが一般的です。

ステレオマイキング技法

ステレオで立体感を出す主な手法：

  • XY（近接ペア）：位相が安定しやすい。ライブやドラムオーバーヘッドで多用。
  • ORTF：間隔と角度を規格化した手法で、自然なディテールとステレオ幅を両立。
  • AB（距離ペア）：広がりが大きく、ルームキャプチャに向くが位相管理が必要。
  • Blumlein（フィギュアエイトのクロス）：非常に自然な空間再現が可能だが反射に敏感。
  • MS（Mid-Side）：後処理でステレオ幅を自在に調整できる柔軟性がある。

プラクティス：チェックリストとトラブルシュート

セッション前に確認すべきポイント：

  • 目的の音を定義する（リードかアンビエンスか、タイトかルーズか）。
  • マイクの指向性と種類が目的に合っているか。パッドやハイパスの有無も確認。
  • 位相チェックを必ず行う。複数マイクはモノラルで位相を確認してから録音。
  • ゲイン構成（プリアンプで無理のないレベル）とクリップを避ける設定。
  • ルームノイズや不要な反射を事前に抑える。必要なら吸音やデッドニングを行う。

よくあるトラブルと対処：

  • 音が薄い・定位がおかしい：マイクの位相反転（フェーズ）をチェック。
  • 低域が膨らむ：近接効果、または部屋の定在波。マイク距離を調整し、ハイパスを検討。
  • 過度の反射音：マイクの指向性を変える、ルームトリートメント、不要マイクの位置変更。

まとめ：耳と理論の両輪で磨く技術

マイキングは理論（指向性、位相、ステレオテクニック）を理解することと、多くの試行錯誤で得られる「耳」が両輪になります。同じ楽器でもマイクや位置を変えるだけでキャラクターが大きく変わるため、目的を明確にして最短で試せるチェックリストを整えておくと制作効率が上がります。録音は音作りの最初の段階であり、ここでの判断がミックスや最終サウンドの可能性を大きく左右します。

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