Deathstepとは何か?起源・特徴・制作テクニックからシーンまで徹底解説

はじめに

Deathstep(デスステップ)は、ダブステップを母体にしつつ、デスメタルやインダストリアル、デスコアなどヘヴィなメタル表現を取り込んだエレクトロニック・ミュージックの一派的な呼称です。公式に厳密な定義が確立されたジャンルというより、サウンドの「極端にダークで攻撃的な側面」を指すタグとして、シーンやリスナーの間で使われてきました。本コラムでは起源・音響的特徴・制作テクニック・代表的なアーティスト例・ライブ文化・他ジャンルとの違い・今後の展望まで、できる限り客観的に整理して解説します。

起源と歴史

Dubstep自体は2000年代初頭に英国で生まれ、その重心となる低域とスイングするリズムが特徴でした。2000年代後半から2010年代にかけて、プロデューサーたちはより荒々しく、ノイズや歪みを強調した方向へと音像を拡張していきます。この流れの中で、デスメタルやインダストリアル的なテクスチャ(極端な歪み、低域の圧力、金属的なノイズ)、そして金属系ボーカルやギターサンプルを取り込むケースが増え、「death-(デス)」の冠が付くことがありました。

重要なのは、deathstepが「一人の発明者による新ジャンル」ではなく、複数のプロデューサーとインターネット(SoundCloud、YouTube、Bandcampなど)を媒介にして生まれたクロスオーバー表現だという点です。ソーシャルメディアとプレイリスト文化が、ダブステップのヘヴィ側面をメタルリスナーに届け、逆にメタルの熱量をEDM側に持ち込む役割を果たしました。

サウンドの特徴

  • テンポと拍子感:基本はダブステップ由来の70〜75 BPM(2倍速表記で140〜150 BPM相当)の半拍めが強調されるハーフタイム感。ただし曲によってはテンポや拍感を変化させ、より激しいブレイクやダブルタイムを用いることもあります。
  • 低域とベース:サブベースは極めて重厚で、リース(Reese)系やフォルマント変化を伴うベース、強いディストーションやサチュレーション処理を重ねた「咆哮する」ベースが前面に出ます。低域管理(サイドチェイン、マルチバンド処理)が重要です。
  • 歪みとノイズ:ギターアンプ風の歪み、ノイズレイヤー、ハイレゾのノイズ・サンプルが適宜重ねられ、金属的で攻撃的なテクスチャを生み出します。
  • ギター/メタル表現:生ギターのサンプルやレコーディングを用いることがあり、トレモロピッキングやダウンチューニング的なサウンドがトラックに組み込まれることがあります。ただし多くはシンセで代替されたり、ギター音を加工して作られます。
  • ボーカルとグロウル:デスメタル由来のグロウルやシャウト、スクリームをサンプリングして使う場合があり、これがジャンルイメージを強化します。一方でボーカルを持たないインストゥルメンタル中心の作品も多いです。
  • 雰囲気(アトモスフェア):暗く陰鬱、冷たく工業的な空間表現が好まれ、リヴァーブやディレイの使い方で広がりと閉塞感を同時に演出することが多いです。

制作・サウンドデザインのポイント

Deathstep制作では「密度」と「パンチ力」の両立が鍵になります。以下に代表的なテクニックを挙げます。

  • ベースレイヤリング:サブベース(純粋な低域)+ミッドベース(歪ませたリード的低音)+高域のアタック(クリックやトランジェント)で構成。各レイヤーをEQで分離し、相互干渉を避けます。
  • 歪み処理の多段化:ひとつのディストーションで済ませず、異なるキャラクターの歪みを複数重ねることで複雑な倍音を作ります。マルチバンドで歪みを分けると低域が潰れにくくなります。
  • ギター的表現の再現:リアルなギター録音を用いる場合はアンプシミュレーターやIR(インパルスレスポンス)を使い、さらにコーラスやフランジャーで金属的なうねりを作ることがあります。ギターが無い場合でもFMシンセやノイズジェネレーターで類似感を出せます。
  • ドラムの質感:キックは低域の輪郭を太くしつつ、スネアやスネア代替のメタルヒットにコンプ+サチュレーションを掛けて“体感できる衝撃”を演出します。ブラス系や工業的なヒットサンプルを加えると独特のメタリック感が増します。
  • 空間処理とリズム変化:巨大なリヴァーブで背景を作りつつ、重要なパーツは短いリヴァーブやプリディレイで明瞭さを保ちます。ブレイクでは一時的に音数を減らし、その後の落差で「破壊力」を強調します。
  • マスタリングとラウドネス:強い歪みと重低域があるため、マスタリングでは低域の過負荷を避けるために慎重なマルチバンドコンプ、リミッティング、ステレオ幅管理が必要です。クラブ再生を想定した低音の密度調整も重要です。

代表的なアーティストと傾向(例)

ジャンルタグとして「deathstep」が使われることのあるプロデューサーや、ヘヴィでメタル寄りのダブステップ路線を掲げるアーティストは複数存在します。例としてしばしば挙げられる名前には、強烈なベースサウンドやメタル的表現を取り入れたプロデューサーが含まれます。これらはあくまで一例であり、個々の作品は多様です。

  • Svdden Death:激しい低域とダークなデザインで知られるプロデューサー。ハードなベースミュージック領域で人気があります。
  • Code:Pandorum:ダークで重いベースラインを特徴とするアーティスト。シーン内で暗黒的な作品を多数発表しています。
  • Sullivan King:エレクトロニックとエレクトリックギターを融合し、ライブでギターを演奏するスタイルで知られる。厳密に「deathstep」とラベルされない場合もありますが、メタル×EDMの交差点的存在です。

重要なのは、これらのアーティストが「死のように重い」音像を提示する点では共通しているものの、曲ごとに手法や美意識が異なり、ジャンル境界は流動的だということです。

ライブと文化的側面

Deathstep的なサウンドはクラブやフェスで激しい身体反応を引き起こします。ヘッドバンギング、モッシュ、ジャンプが起きやすく、メタルの観客文化とEDMのダンス文化が交差する場面が見られます。ライブではDJセットに生ギターやラップ/スクリームを取り入れる形、またはフルバンド編成でエレクトロニック要素を再構築する形など、多様な表現が試されています。

他ジャンルとの違い・境界

Deathstepはbrostep(スクリレックスらに代表される、鋭いウィブルや攻撃的な音色を強調したダブステップ)、riddim(反復的なリフとミニマルな構造を持つベースミュージック)と混同されることがあります。簡潔に言えば:

  • Brostep:尖ったウィブルや劇的なサウンドデザイン、派手なビルドとドロップ。エンターテインメント性重視。
  • Riddim:より反復的でグルーヴを重視。構造がミニマル。
  • Deathstep:メタル的なダークネス、歪み、ノイズ、高い破壊力。楽曲のムードや音響テクスチャでメタル文化に接近。

ただし上述の通り、境界はあいまいであり、多くの作品が複数のタグで分類されます。

制作における注意点(倫理・著作権)

メタルのボーカルやギターサンプルを用いる際は、サンプルの出所・権利処理に注意が必要です。無断で他アーティストの録音を流用すると著作権侵害になります。コラボレーションやライセンス取得、または自分で演奏・録音して利用することが望ましいです。また、過度な低音やモンスターサウンドはPAや再生環境によっては聞こえ方が著しく変わるため、複数環境での試聴を推奨します。

今後の展望

EDMとメタルのクロスオーバーは継続的に進化しています。サウンドデザイン技術の向上、より自由なライブの表現、そしてジャンル横断的なコラボレーションにより、deathstep的な表現は細分化・多様化するでしょう。加えて、ゲーム音楽や映画音楽との親和性が高く、映像作品やゲームサウンドトラックへの採用も増える可能性があります。

まとめ

Deathstepは明確に定義された単一のジャンルではなく、ダブステップを起点にメタル的要素を強く取り入れたサウンドの総称的な呼び名です。サウンド面では極端な歪み、重低音、メタリックなノイズ、時にメタル由来のボーカルを特徴とし、制作面ではレイヤリングや多段歪み、空間処理が重要になります。シーンはインターネットを介して拡散・進化しており、今後も他ジャンルとの融合を通じて多様化していくでしょう。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献