「neurostep」とは何か――神経系サウンドが半拍に落ちるときの音楽論
neurostepとは:定義と位置づけ
neurostep(ニューロステップ)は、厳密な意味で音楽学的に定義された単一のジャンルではなく、リスナーやプロデューサーの間で便宜的に使われる用語です。一般には、ドラムンベースのサブジャンルである「neurofunk(ニューロファンク)」に代表されるような複雑で精巧なベース設計・サウンドデザインの志向を、ダブステップや140BPM帯のベースミュージックのリズム感(半拍/ハーフタイムの感触)に持ち込んだ音楽群を指します。
要するに、音響的にはneurofunk的な“神経を刺激する”ような細かいモジュレーションや金属的・有機的なテクスチャを持ちながら、テンポやグルーヴはダブステップ寄り、あるいはハーフタイム感覚を重視する作品群が「neurostep」と呼ばれやすい、ということです。厳密な定義が共有されていないため、タグやプレイリストの文脈で用いられることが多く、2010年代以降のオンライン・コミュニティ(SoundCloudやYouTube、Redditなど)で認知が広まっていきました。
歴史的背景:なぜこの融合が生まれたか
背景を理解するには、neurofunkとダブステップそれぞれの起源を見る必要があります。neurofunkは1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ドラムンベースの中でテクニカルかつダークな方向性として発展しました。サウンドの尖鋭化、複雑なベースライン、精緻なフィルタリングとモジュレーションが特徴で、Ed Rush & Opticalのようなアーティストがその基礎を築きました。一方、ダブステップは2000年代初頭のロンドンで生まれ、重いサブベースとハーフタイムのグルーヴ、スペース感のあるアレンジが特徴です。
2010年代に入ると、制作環境のデジタル化(高機能なソフトシンセやDAW、プラグインの普及)により、サウンドデザインの手法がジャンルの境界を越えて流通しやすくなりました。neurofunk的な複雑なベースデザインを140BPM帯のダブステップの枠に落とし込む試みは、リスナーやプロデューサー双方の「異種混交への好奇心」と、ネットを介したタグ付け文化の中で自然発生的に起きた現象と考えられます。
音楽的特徴:サウンドの要素を分解する
- テンポとリズム:neurostepは概ねダブステップ寄りのテンポ(約130〜150BPM、典型は140BPM)を採用しつつ、ビートはハーフタイム感覚を保つことが多い。スネアやスナップの位置取り、オフビートを活かしたグルーヴ作りが重要です。
- ベースサウンド:neurofunkに由来する複雑なベースデザイン(短い周期で変化するLFOやエンベロープ、位相差・FM的変調、フォルマント加工、マルチバンド歪みなど)を持ちながら、低域はダブステップ的な強力なサブベースと併存することが多い。
- テクスチャとディテール:高周波の金属音的シンセテクスチャ、グリッチ、クリック、ホワイトノイズを利用したスパークル(粒子感)の付与など、ミクロな情報量が多いのも特徴。
- 空間表現:リバーブやディレイを用いたステレオワイドネスと深い残響処理を組み合わせ、強い低域と対比させることでドラマを生む。
制作テクニック(サウンドデザイン)
以下はneurostep的なサウンドを作る際によく使われる手法です。実践的な手順として参考にしてください。
- 主音色の設計:Wavetable synth(例:Xfer Serumなど)やFMシンセでベースの原音を作る。複数のオシレーターを組み合わせ、位相やウェーブテーブルの位置をモジュレートして色彩を作る。
- 荒立てる・整える:ソフトクリプトや波形レベルでのディストーションを複数段にかけ、次にマルチバンドのコンプレッションやEQで帯域ごとに整える。中域にピークを作りすぎないように注意する。
- 複雑なモジュレーション:LFOを複数レイヤー(周期のずれたLFO、ランダムLFO、サイドチェイン的な短いエンベロープ)で同期させ、時間ごとに音色が変化するようにする。
- フォルマントとボコーダー処理:フォルマントフィルタやボコーダー処理を施すことで“声のような”テクスチャをベースに与え、独特の有機性を出す。
- リサンプリング:生成した音を一度オーディオに書き出し、再び加工するリサンプリング手法は、予測不能で複雑なテクスチャを作るのに有効。
制作テクニック(ビートとグルーヴ)
neurostepのドラムは、ダブステップ的なハーフタイム感とドラムンベース的な推進力を両立させることが求められます。
- キックとスネアの配置:キックは低域を支える一発で、スネアは2拍目(および場合によっては4拍目)に強く置くのが基本。スネアのレイヤー(トップ・ボディ・アタック)で存在感を作る。
- ハイハットとパーカッション:細かい16分やトリプレットのハイハット、ゴーストノートやフランジ効果でグルーヴを複雑化する。ハイハットの微妙なタイミングのずらし(ヒューマナイズ)で“跳ね感”を演出。
- サウンドのコントラスト:ベースの重さとドラムのアタックを両立させるために、トランジェントシェイパーやパラレルコンプレッションを使ってアタックとサステインを別々に制御する。
アレンジとダイナミクス
neurostepはサウンドデザインが中心に据えられがちですが、良いアレンジはリスナーの注意を効果的にコントロールします。イントロ→ビルド→ドロップ→ブレイクというEDMの基本構成に沿いつつ、各パートで音色の情報量を調整し、ドロップで最大のインパクトを与えるのが典型です。ドロップ前の“間”や低域のカット(サブ除去)で聴感上のダイナミクスを大きくするテクニックは特に有効です。
ミキシング/マスタリングのポイント
- サブ低域の管理:強いベースがあるため、サブベースは単一のレイヤーにまとめ、他の要素は低域をカットしてクリアにする。
- ステレオ幅の調整:低域はモノにまとめ、上帯域に対してステレオ幅を広げる。ベースの中域成分はややセンター寄せにすると定位が安定する。
- 参照トラック活用:音圧や周波数バランスを調整する際、似た音楽性の参照トラックを用いると目標が明確になる。
文化的文脈とシーン
neurostepはクラブカルチャーの伝統的な場(レコードショップやクラブ)だけでなく、ネット上のコミュニティやプレイリスト文化に支えられて成長しました。ジャンル横断的な開放性を持つ若い世代のプロデューサーたちが、新旧の技術や美学を組み合わせて実験的なトラックを作り、その結果として“neuro”系の音響美学が140BPMに乗る形が自然発生しました。
リスナー/プロデューサーへの実践的アドバイス
- サウンドデザインを学ぶ際は、まず波形やフィルタの基本を理解し、次に複数のモジュレーションを組み合わせる演習を行うこと。
- ミックスでは“何を聴かせたいか”を常に優先し、過度なエフェクトで主題を曖昧にしない。
- 他ジャンルの楽曲を幅広く聴き、リズムや音色の取り入れ方を観察する。neurostepは異素材の接着で生まれるため、引き出しの多さが重要です。
将来展望
音楽ジャンルの境界がますます曖昧になる現代において、neurostep的な融合は一過性のトレンドというよりも、制作技術の共有が生み出す一つの表現形態として定着する可能性があります。AIやリアルタイム音声処理技術の進化により、さらに複雑で動的なベースデザインが容易になれば、neuro的要素を取り入れた低域表現は他ジャンルにも波及していくでしょう。
まとめ
neurostepは「neurofunk的な音響的複雑さ」と「ダブステップ的なハーフタイムのグルーヴ」を融合させた、ネット由来の便宜的なジャンル名です。制作面では高度なサウンドデザイン技術と伝統的なビートワークの両方が要求され、ミキシングやアレンジの工夫がその完成度を左右します。厳密な定義は存在しないため、タグやプレイリストで触れてみて、自分なりの解釈を深めるのが最も早い理解方法です。
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参考文献
- Neurofunk — Wikipedia
- Drum and bass — Wikipedia
- Dubstep — Wikipedia
- Ed Rush & Optical — Wikipedia
- Wavetable synthesis — Wikipedia
- Frequency modulation synthesis — Wikipedia
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