Trapstep徹底解説:起源・音楽的特徴・制作テクニックとその進化

trapstepとは何か

trapstepは、アメリカ南部発祥の「トラップ・ミュージック」とイギリス発祥の「ダブステップ(およびより広義のEDM系ベースミュージック)」の要素を融合させたクロスオーバー・ジャンルを指す呼称です。明確な定義が学術的に確立されているわけではありませんが、一般にはトラップ由来の808キック、複雑なハイハットのパターン、スネアの配置やラップ寄りのフレーズ感と、ダブステップ由来の重いベースサウンド、ワブルやLFOによるモジュレーション、ドロップ中心の構成などが混在する音楽スタイルを指します。

歴史的背景と発展

トラップは2000年代にアトランタを中心にヒップホップのサブジャンルとして確立され、低域に重点を置く808ベースやスナップ/スネアのリズム、トリプレット系のハイハットなどが特徴です。一方でダブステップは2000年代後半にUKで発生し、140BPM前後のテンポでサブベースや重い低音の“ワブル”がアイコン化しました。

2010年代初頭、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)がグローバルに拡大する過程で、プロデューサーたちはヒップホップのトラップ要素とダブステップやEDMのデザイン手法を組み合わせ始めます。特に2012年頃には、Baauerの『Harlem Shake』や、TNGHT(Hudson MohawkeとLunice)、Flosstradamus、RL Grime、Yellow Claw といったプロデューサー/ユニットがシーンの注目を集め、フェスやクラブで高揚感を生む“ドロップ”志向のトラックが多く制作されました。これらの流れが俗に「trapstep」または「EDMトラップ(trap EDM)」と呼ばれるサウンドの形成につながっています。

音楽的特徴とサウンドデザイン

trapstepを構成する主な要素を分解すると、以下のようになります。

  • リズム&ドラム:トラップ由来のサブキックや808ベース、スネア/クラップの配置(多くは3拍目に重心)、高速または変拍のハイハットロール(16分音符やトリプレット)、ダブルスネアやプリロールが用いられる。
  • テンポ:トラップの原点は70〜80BPM(ダブルタイムで約140〜160BPM)ですが、trapstepは140前後を採ることが多く、ダブステップとの親和性を保ちながらトラップ感を出すことが多い。
  • ベース&ドロップ:ダブステップ由来のサブベースとリードベース(ワブル、フォルマント系の音色)、そして低音帯の強調が特徴。LFOやフィルター、位相変調、FM合成、歪み処理などで“噛みつく”ような低音を作る。
  • シンセ&テクスチャ:ボーカルチョップ(ピッチシフトやタイムストレッチ)、金属的なパーカッション、アグレッシブなリードシンセ、アンビエンス系のパッドやFXを重ねてドラマ性を演出する。
  • 構成:EDM的ビルドアップとドロップの構造を取り入れつつ、ヒップホップ的なグルーヴを維持する。ヴァースやラップパートを挟むトラックも多い。

代表的なアーティストとトラック(参考例)

trapstepというラベルが付く曲や影響を受けた楽曲は多岐に渡りますが、シーンを象徴するアーティスト/ユニットとしては次のような名前が挙げられます。

  • Baauer(例:Harlem Shake) — trap要素をポップに拡張し、バイラルな成功を収めた。
  • TNGHT(Hudson Mohawke & Lunice) — トラップとエレクトロニカ/ベースミュージックを融合した先駆的サウンド。
  • Flosstradamus — クラブ/フェス向けの“trap”サウンドを広めたプロデューサー集団。
  • RL Grime — トラップ/ベースの両面を高いクオリティで昇華させたプロデューサー。
  • Yellow Claw、Hucci、GTA など — 派生的なスタイルでシーンを拡大。

これらのアーティストはフェスティバルやクラブでの“フロア向け”トラックを数多く制作し、trapstep的アプローチを一般的にした点で影響力が大きいです。

制作テクニック(サウンドデザインとアレンジ)

trapstepを作る際に使われる実践的なテクニックをいくつか挙げます。

  • ベース設計:サブベースはサイン波を基調にしてローエンドを安定させ、上域の“噛む”部分はウェーブテーブル(Serumなど)やFM合成で作る。歪み、ビットクラッシャー、マルチバンドディストーションを併用してハーモニクスを付加。
  • ドラム処理:808キックはピッチをオートメーションで変えることでメロディックな動きを演出。ハイハットは細かいロールやピッチシフトで緊張感を作り、サイドチェインでキックと干渉しないようにする。
  • ボーカルチョップ:ボーカルを切り刻んでピッチを変え、リズム楽器のように配置する。グリッチ処理やフォームantシフト、リバーブの使い分けで空間を作る。
  • ドロップ構成:ビルドでホワイトノイズ、フィルターオートメーション、リズムの単純化を行い、ドロップで重低音とリズムが一気に開く設計が定番。
  • ミックスとマスタリング:低域のクリアネスを保つためにマルチバンドコンプレッション、サブローエンドのモノラル化、ミックス中のリファレンス・トラック比較を行う。低音はメーターで常時確認する。

使用される機材・プラグインの例

実務でよく使われるソフト/プラグイン例:Serum、Massive、FM8、Sylenth1(シンセ)、Kontakt(サンプラー)、FabFilter(EQ/Pro-C/Pro-L)、iZotope Ozone(マスタリング)、Soundtoys(エフェクト)など。サンプルパックでは808キックやライズ/FX、ハイハットロール系が重宝されます。

シーンの受容と批評的視点

trapstepやEDMトラップは短期間で広範に受け入れられ、フェスやクラブ文化に新たなダイナミクスをもたらしました。しかし一方で、トラップのブラックミュージックとしての社会的・文化的背景がある中で、商業化や文脈の剥離を批判する声もあります。ジャンル横断的なポップ化は支持を集める反面、オリジナル文化へのリスペクトやクレジット、サンプリング時の権利処理などの倫理的配慮が問われます。

現状と今後の展望

2010年代中盤以降、「trapstep」という呼称自体の浸透は限定的で、より広い「trap」「EDM」「bass music」といったラベルに包含される傾向があります。ただし、音楽的要素自体は多くのジャンルに吸収され、future bass、trap pop、hip house、trap metalなど多様な融合ジャンルが生まれています。今後も低音デザインやリズム操作の技術革新、AIを用いた制作支援、ライブでの即興的なベース処理などが進むことで、trapstep由来の表現は新たな形で派生していくでしょう。

実践的アドバイス(プロデューサー向け)

  • リファレンストラックを複数用意し、低域のバランスやパンチ感を常に比較する。
  • サウンドデザインはレイヤー化が鍵。サブベース、ミッドベース、アタック成分を別々に作ってから混ぜる。
  • ドロップは単なる「音量の最大化」ではなく、グルーヴの再構築を意識する。リズムに変化を与えることでフロア反応を高める。
  • 文化的出自を尊重し、サンプリングやコラボ時には適切なクレジットと権利処理を行う。

おすすめトラック(学習用)

  • Baauer — Harlem Shake
  • TNGHT — Higher Ground(などのEPトラック)
  • RL Grime — Core
  • Flosstradamus — Rollup(Baauer Remix)など

まとめ

trapstepはトラップとダブステップ/EDMの結びつきから生まれたサウンドであり、重低音、808ベース、ハイハットの精密な演出、そしてドロップ志向の構成が特徴です。ジャンル名としての寿命は必ずしも長くはないものの、その音楽的要素は現代のダンスミュージックに広く影響を与え続けています。制作においてはサウンドデザインと低域制御が最重要になり、同時に文化的リスペクトを忘れないことが求められます。

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参考文献