David Bowie「Blackstar」──最期の芸術的な遺言を深掘りする
はじめに
David Bowie(デヴィッド・ボウイ)によるアルバム「Blackstar」は、2016年1月8日にリリースされ、発表からわずか二日後の2016年1月10日に彼が亡くなったことで世界的に強い注目を浴びました。発売タイミングと内容の深さから、本作は「遺作」「意図的な別れの表明」として語られることが多く、音楽的・映像的・詩的側面のいずれもが密度の高い作品になっています。本稿では録音と制作、楽曲の分析、歌詞と象徴性、映像表現、受容と遺産の各側面を丁寧に辿り、Blackstarの芸術性とその位置づけを深掘りします。
制作の背景と録音メンバー
Blackstarはボウイの25作目のスタジオ・アルバムで、2015年に録音され、長年の共同作業者トニー・ヴィスコンティがプロデュースを務めました。録音にはジャズの影響を強く持つドニー・マクカスリン率いる一連のミュージシャンたちが参加しており、マクカスリン(サックス)、ティム・レフェーブル(ベース)、マーク・ジュリアナ(ドラムス)、ベン・モンダー(ギター)、ジェイソン・リンドナー(キーボード)らが主要プレイヤーとしてクレジットされています。これらのミュージシャンの即興性とジャズ的アプローチが、アルバムの音響的骨格を支えています。
サウンドと編成――ジャズとロックの融合
Blackstarのサウンドは、従来のロック/ポップ作品とは一線を画し、ジャズの即興性、不協和な和声、エレクトロニカ的なテクスチャー、実験的なリズムが混在します。タイトル曲「Blackstar」では長尺の展開と変拍子的な箇所、サックス主体のフレーズが前面に出ており、ロックのダイナミズムとアヴァンギャルドなジャズの緊張が同居しています。ほかにも細かな音響処理やサブベース的な低音、細部に配された不協和的なギター・モチーフが作品全体に不穏さを与えています。
主要楽曲の考察(選択的分析)
Blackstar(タイトル曲): 約10分の長尺曲。劇的なイントロから不穏な展開へと移り変わり、ジャズ的ソロとリフが繰り返される。楽曲の構造自体が物語性を持ち、終盤のフレーズは死や変容を示唆するように解釈されることが多い。
'Tis a Pity She Was a Whore: 短く鋭い曲。攻撃的で硬質なリズムと断片的な歌詞が特徴的で、社会的・宗教的イメージを断片的に提示する。
Lazarus: ブロンクスの劇場性を持つような楽曲で、シングル&ミュージックビデオが大きな注目を浴びた。歌詞と映像が結びつき、重層的な象徴(復活、天国、監獄的な閉塞感)が示される。
Girl Loves Me: 歌詞にナッドサット(アンソニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』の造語)やポラリ(イギリスのゲイ・スラング)などが散りばめられ、言語玩具的な側面と同時にアイデンティティの分裂を示唆する。
Dollar Days / I Can’t Give Everything Away: アルバム終盤は内省的で穏やかながらも諦念を含むトーン。特に最終トラックはタイトルと歌詞が象徴的で、全体の余韻を決定づける。
歌詞と象徴性――死、再生、宗教的モチーフ
Blackstarの歌詞世界は直接的に死を描く箇所があり、宗教的、あるいは寓話的なイメージが頻出します。曲名や歌詞の断片は旧約/新約的な象徴、医療的あるいは葬送的なイメージと結びつけられ、作品全体を通して「終焉」と「移行」をめぐるメタファーが反復されます。一方で言葉遊びや難解な引用(主人公的な語り、異なる言語やスラングの挿入)が多く、単純な読み替えを拒む複層的なテクストになっています。
映像表現と演出―― Johan Renck の映像世界
アルバムに伴うミュージックビデオ(特に「Lazarus」「Blackstar」)はスウェーデン出身の映像作家ジョアン・レンク(Johan Renck)が手掛け、病床のボウイや包帯に覆われた人物像、奇異な舞台装置といった強烈なイメージが散りばめられています。映像は楽曲の詩的な部分を補強しつつ、死と再生のモチーフを視覚的に強調しました。公開時期と彼の死という出来事が結びついたことで、ビデオの映像言語は多くの解釈を生みました。
批評的受容と受賞
Blackstarは批評的に高く評価され、多くのメディアがボウイのキャリアにおける重要作と位置づけました。作品はリリース後に複数のグラミー賞を受賞しており、技術面と芸術面の双方で国際的な評価を得ています。批評家は音楽的冒険心、映像との連携、詩的完成度を称賛する一方で、意図的な『遺作』性の解釈については様々な議論が続きました。
制作上の注意点と技術的側面
プロデューサーのトニー・ヴィスコンティは長年の盟友として、アナログ的な温度感を保ちながら現代的なエンジニアリングを取り入れる役割を担いました。演奏録音ではジャズ的即興を尊重しつつも、ポストプロダクションでの編集や音響処理によって作品の一貫したトーンが作られています。そのため、スタジオセッションの自由さとスタジオ編集の緻密さが同居する音像が実現しています。
解釈の可能性と現在的位置づけ
Blackstarはその時点から既にボウイの「遺産」の中心的作品となりました。歌詞や映像が死の前兆として読み替えられる一方で、音楽的にはボウイが常に志向してきた転換と実験の伝統を体現しています。作中に見える宗教的、文学的参照はオープンな解釈を可能にし、リスナーは個人の文脈に応じて作品を読み替え続けています。
まとめ
Blackstarは単なるアルバムの枠を超え、音楽、映像、言葉が密接に絡み合った総合的な芸術作品です。リリースのタイミングとその内容から「別れの挨拶」として語られることが多い一方で、楽曲の構造や音響的実験はボウイが生涯にわたって追求した創造性の集大成でもあります。本稿で示した各側面を踏まえると、Blackstarは音楽史における重要な境界点であり、今後も多くの再解釈を生む作品であり続けるでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Wikipedia: Blackstar (David Bowie album)
- Rolling Stone: Review of Blackstar
- The Guardian: David Bowie — Blackstar review
- BBC News: David Bowie dies aged 69
- Grammy.com: David Bowie and Blackstar awards


