ネオリアリズモとは何か：起源・代表作・技法と現代への影響を徹底解説

2025年12月15日 最終更新日時 : 2025年12月15日 エバープレイ編集部

概説 — ネオリアリズモ（イタリア・ネオリアリズモ）とは

ネオリアリズモ（イタリア語: Neorealismo）は、第二次世界大戦後のイタリアで1940年代中盤から1950年代初頭にかけて成立した映画運動であり、戦争と占領によって荒廃した社会の現実を映画言語で写し取ろうとした一群の作品群を指します。華やかなスタジオ演出や文芸的な脚色ではなく、日常生活に根差した素材、ロケ撮影、非職業俳優の起用などを特徴とし、映像表現の新たな可能性を示しました。

歴史的背景と成立要因

イタリアのネオリアリズモは、戦時・戦後の社会的・経済的条件と密接に結びついています。戦争で多くの映画スタジオや設備が損傷し、資金も不足した結果、監督たちは都市や田舎の実景での撮影を余儀なくされました。物資不足や検閲緩和、社会不安の広がりが、従来の「作られた現実」から「ありのままの現実」へと映画の焦点を移行させました。

重要な先行作としては、ルキノ・ヴィスコンティの『オッセンツィオーネ』（1943）がしばしば挙げられ、ロッセリーニの『ローマ、開かれた都市（Roma città aperta）』（1945）が国際的認知を得てネオリアリズモの象徴的出発点と見なされることが多いです。

主要な監督と代表作

  • ロベルト・ロッセリーニ（Roberto Rossellini） — 『ローマ、開かれた都市』（1945）、『パイザ』（1946）、『ドイツ零年（Germany Year Zero）』（1948）
  • ヴィットリオ・デ・シーカ（Vittorio De Sica） — 『自転車泥棒（Ladri di biciclette）』（1948）、『ミラノの奇蹟/ウーベルト・D.（Umberto D.）』（1952）
  • ルキノ・ヴィスコンティ（Luchino Visconti） — 『大地（La terra trema）』（1948）、先行作『オッセンツィオーネ』（1943）
  • 脚本家・理論家としてはチェーザレ・ザヴァッティーニ（Cesare Zavattini）が特に重要で、デ・シーカと組んでネオリアリズモ的脚本の方針を提示しました。

美学と技法 — 具体的特徴

ネオリアリズモの美学は、いくつかの技法的・物語的特徴によって成り立っています。

  • ロケ撮影：スタジオではなく、戦後の街や村、工場、廃墟など現実の場で撮影することで、リアリティを強調しました。
  • 非職業俳優の起用：実際の市民や労働者を俳優として使うことで自然な演技と生活感を獲得しました。もちろんプロ俳優も用いられますが、比率が高かった点が特徴です。
  • 社会的主題：貧困、失業、復興の困難、戦争の余波、道徳的ジレンマなど、具体的な社会問題を正面から扱います。
  • 簡素な物語構造：大仰なプロットよりも日常の断片や小さな出来事を通じて人物の内面や社会の構造を示す手法を採用しました。結末が明確に解決しないことも多いです。
  • 自然光と長回し：照明や編集にも抑制的な手法が用いられ、観客に“見たまま”の印象を与えます。

代表作のケーススタディ

・『ローマ、開かれた都市』（ロッセリーニ、1945） — ナチ占領下のローマを舞台にした群像劇で、レジスタンスと市民生活の断片をリアルに描き、国際的な注目を浴びました。戦争直後の実景とリアリズムが強烈な共鳴を生み、政治的メッセージと映画表現が結びついた作品です。

・『自転車泥棒』（デ・シーカ、1948） — 戦後の失業者が自転車を盗まれたことから始まる父と子の物語。チェーザレ・ザヴァッティーニの脚本思想に基づき、個人の小さな悲劇を通じて社会構造の無情さを描き出します。シンプルなプロット、非劇的な演出、日常の細部への執着が特徴です。

・『ウーベルト・D.（Umberto D.）』（デ・シーカ、1952） — ネオリアリズモの“終局”と評されることが多い作品で、高齢者の孤独と尊厳の問題を静かに掘り下げます。商業的成功を目指さない姿勢が明確で、ネオリアリズモの理想が徹底されています。

批評と議論 — ネオリアリズモは何を達成したか

ネオリアリズモは映画表現を社会現実へと結びつける点で重要な役割を果たしました。ジャン＝ポール・サルトルやアンリ・ラングロワら批評家・理論家からの賛辞のみならず、当時の保守的な観点や一部の同時代作家からは政治的偏向や芸術性の欠如を指摘されることもありました。さらに『ネオリアリズモ』というラベル自体が一枚岩ではなく、監督ごとの美学や立場の差異も大きかったため、統一的な定義は難しいという議論が続いています。

衰退とその理由

1950年代中盤以降、イタリア映画産業が復興し、観客の嗜好も変化するとともに、ネオリアリズモ的作法は次第に商業映画や別の芸術潮流に置き換えられていきます。プロダクションの回復、アメリカ映画の再流入、国の再建による社会問題の変容、さらには観客がより明確なエンターテインメントを求めたことが、一因とされています。

国際的影響と遺産

ネオリアリズモは、フランス・ヌーヴェルヴァーグをはじめ世界各地の映画運動に大きな影響を与えました。実際の街頭撮影や非職業俳優の使用、社会的リアリズム志向は、インドのサタジット・レイ、ラテンアメリカのシネマ・ノーヴォ、日本の一部のポスト戦後作、さらには現代のリアリズム志向の監督たちに受け継がれています。また、映画理論における「現実の再提示」や「映画と社会の関係」についての議論にも長期的影響を及ぼしました。

現代におけるネオリアリズモの読み替え

近年、経済的格差や移民問題、都市の変貌など現代的課題が顕在化する中で、ネオリアリズモ的手法を再評価し応用する作品が増えています。撮影機材の小型化やデジタル技術の普及によって、昔よりも簡便にロケ撮影や非職業俳優の起用が可能となり、いわゆる“ニュー・ネオリアリズモ”とも言える潮流が誕生しています。

まとめ — ネオリアリズモの位置づけ

ネオリアリズモは単なる歴史的ムーヴメント以上の意味を持ちます。戦後という特異な時代背景の中で生まれた美学と実践は、映画が社会とどう関わりうるかを示した劇的な実験でした。強烈な社会的共感と映像表現の可能性を提示した点で、現代映画を語る上で不可欠な参照点となっています。

参考文献

カテゴリー
映画・ドラマ
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