ダイナミックマイク徹底ガイド:原理・使い方・定番機と選び方
ダイナミックマイクとは:概要と特徴
ダイナミックマイクは、音声や楽器の収音で最も広く使われているマイクの一種です。頑丈で高い耐久性、大音圧に強い点、安価で扱いやすい点が特徴で、ライブPAやスタジオの楽器収音、放送やポッドキャストなど幅広い用途で活躍します。一般的に「ダイナミック=動作原理がダイナミック(動的)」なマイクで、主にムービングコイル(移動コイル)方式が採用されています。
動作原理:ムービングコイル方式の仕組み
ダイナミックマイクの代表的な方式はムービングコイル方式です。薄いダイアフラム(振動板)に小さなコイル(ボイスコイル)が取り付けられ、その周囲に磁石が配置されています。音圧でダイアフラムが振動するとコイルが磁場内を移動し、ファラデーの電磁誘導の原理で電流が発生します。この微弱な電圧がマイクの出力となり、プリアンプで増幅されて音声信号になります。
構造のポイント
- ダイアフラム:音波を受けて振動する膜。材質や厚みによって感度や周波数特性が変わる。
- ボイスコイル:ダイアフラムに連結され、磁場中を動いて電圧を生む。
- マグネット:磁場を供給するための永久磁石。強い磁石ほど効率が良い。
- グリルとウインドスクリーン:風やポップノイズを防ぐための構造。
- ハウジング:衝撃や外乱から内部を保護する堅牢な筐体。
指向性と周波数特性
多くのダイナミックマイクは単一指向性(カーディオイド)ですが、モデルによってはスーパーカーディオイドやハイパーカーディオイド、双指向性(フィギュア・オブ・8)などもあります。指向性は位相やオフアクシスの特性に影響し、収音の使い分けに重要です。
周波数特性は概してコンデンサーマイクよりも狭く、高域の伸びは控えめな傾向がありますが、設計によっては近接での低域ブースト(プロキシミティ効果)や明瞭度のためのプレゼンスブーストを持つものもあります。
プロキシミティ効果(近接効果)について
指向性のあるダイナミックマイクは、音源に近づくと低域が強調される「プロキシミティ効果」が発生します。ボーカルで近接して豊かな低域を狙う場合に有効ですが、近すぎると音が濁ったりポップノイズが増えたりするため、距離や角度を調整することが重要です。
利点と欠点
- 利点:耐久性が高く、落下や湿気に強い。高SPL(大音圧レベル)に耐え、アンプやドラムの収音に適する。電源(ファントム)を必要としない機種が多くライブ向き。
- 欠点:感度が低く、微細なニュアンスや高域の伸びではコンデンサーマイクに劣る場合がある。スタジオの繊細なボーカル録音では補助的に使われることが多い。
用途別の使い方とセッティング
用途による代表的な収音テクニックをまとめます。
- ライブボーカル:マイクを口元から5〜15cm程度。角度を少しずらしてポップノイズを抑える。手持ちの場合はハンドルにマイクホルダーを使い、ハンドリングノイズ対策を行う。
- アコースティックギター:サウンドホールから少しずらして12〜30cmに配置。プレイヤーの指やブリッジの音を避ける。
- ギターアンプ:スピーカーコーンの中心は明るい音、エッジ寄りは暖かい音。SM57のような定番を軸に、角度や距離で音色を決める。
- ドラム(スネア、タム):ダイナミックマイクはスネアトップやタム近傍に使われ、大音圧や衝撃に耐える。
- ブロードキャスト・ポッドキャスト:話し手のダイナミックマイク(例:SM7B、RE20)は室内の反射を拾いにくく、ライブ感や近接感が出せる。
配置と録音のコツ
- オフアクシス音の特性を理解し、不要な音源を回避する方向でマイクを向ける。
- ポップガードやウインドスクリーンでプップ音を抑える。ボーカルでの距離管理を徹底する。
- ショックマウントやスタンドクランプでハンドリングノイズや床振動を軽減する。
- プリアンプのゲインを十分に確保する。ダイナミックマイクは感度が低めなので、良質なプリアンプやインターフェースが重要。
メンテナンスと取り扱い注意
- グリルやウインドスクリーンは定期的に清掃する。外せるモデルなら外して洗浄可能。
- 湿気や汗はコイルや磁石に悪影響を与えるため、使用後は乾燥させる。ケースやバッグに入れて保管する。
- 落下や強い衝撃はボイスコイルの位置ずれや磁石の破損を招くので注意する。
- 接点(XLR)は腐食しやすいので、外す前に電源を切り、定期的に接点洗浄を行う。
トラブルシューティング
- 出力が小さい:ケーブルの断線、接続不良、プリアンプのゲイン不足を確認する。ダイナミックは感度が低いためゲインを多めに必要とする。
- ハムやノイズ:グラウンドループや周辺機器の干渉。ケーブルをシールドし、別の入力やケーブルで確認する。
- 歪みや音がこもる:プリアンプのクリッピング、またはプロキシミティ効果で低域が強すぎる可能性あり。距離やPAD(入力アッテネータ)を試す。
コンデンサーやリボンマイクとの比較
コンデンサーマイクは高感度で高域特性に優れ、スタジオでの繊細な収音に向きますが、湿気や高SPLには弱くファントム電源が必要です。リボンマイクは滑らかで自然な音だが非常にデリケートで大音圧に弱いものがあるため注意が必要です。ダイナミックは堅牢性と高SPL耐性が強みで、用途に合わせて選ぶことが重要です。
代表的な定番機種と用途例
- Shure SM58:ライブボーカルの定番。耐久性と安定した音色で最も普及している。
- Shure SM57:楽器(ギターアンプ、ドラム)で広く使われる。SM58と同じカプセル系だがグリルと風防が異なる。
- Shure SM7B:ブロードキャストやボーカル録音で人気のダイナミック。近接での暖かい音が特徴。
- Electro-Voice RE20:放送やスタジオで定評。低域のコントロールが良く、トーク番組やベースの収音にも使われる。
- Sennheiser e835:扱いやすいライブ向けボーカルマイク。
購入時のチェックポイント
- 用途(ライブ、スタジオ、放送)を明確にする。
- 指向性とオフアクシス特性を確認する。ステージ環境や部屋の反射に合わせる。
- SPL耐性と感度のバランス。大音量楽器の収音には高SPL耐性が必要。
- 実機での試奏が可能なら必ず試す。メーカーの周波数特性グラフやレビューも参考にする。
- 付属品(ウインドスクリーン、マウント、ケース)や保証も確認する。
まとめ
ダイナミックマイクは、堅牢性・高SPL耐性・扱いやすさが魅力で、ライブPAや楽器の収音、放送・ポッドキャストのボイス収音など幅広く使えます。限界や特性を理解し、適切な距離・角度・プリアンプとの組合せを工夫することで、そのポテンシャルを最大限に引き出せます。用途に応じてコンデンサーやリボンと使い分けることで、より高品質な音作りが可能です。
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参考文献
- Shure — How Do Microphones Work?
- Shure SM58 製品ページ
- Shure SM57 製品ページ
- Shure SM7B 製品ページ
- Electro-Voice RE20 製品ページ
- Sennheiser e835 製品ページ
- Sound on Sound — Recording Vocals
- Wikipedia — Dynamic microphone
- Sweetwater — Dynamic Microphone Overview
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