【完全ガイド】指向性マイクとは?仕組み・種類・使い方と選び方
指向性マイクとは
指向性マイクは、音源の方向に対する感度(録音しやすさ)が異なるマイクの総称です。周囲の不要な音を減らし、目的の音だけを拾いやすくするため、ライブPA、スタジオ録音、野外収録、放送や映像制作など幅広い用途で用いられます。マイクの指向性は『無指向(オムニ)』『単一指向(カーディオイド等)』『双指向(フィギュア8)』『ローバー/ショットガン(ローブやローバー)』などに分類され、用途や設置環境に応じて使い分けられます。
指向性の基本原理
指向性は主にマイクの動作方式(圧力型 vs 圧力差型)とカプセル設計、あるいは干渉(位相差)を利用する構造により決まります。
- 圧力型(Pressure): 音圧(音波の圧力変化)を受けて動作する方式で、基本的に無指向性の特性を示します。低周波から高周波まで比較的一定の指向性を保ちます。
- 圧力差型(Pressure-gradient): カプセルの前後で音圧差を検出する方式で、波長や入射角により感度が変化し、単一指向性や双指向性などの指向性を得やすい構造です。圧力差型は近接効果(低域の増強)を生じやすいという特徴があります。
- 干渉/位相差を利用する方式: 特にショットガンマイクのように干渉管(インターフェレンスチューブ)を用いて特定方向の音波を強調・他方向を打ち消すことでローブ状の狭い指向性(ローバーパターン)を実現します。ただしこの効果は周波数依存性が高く、低周波では効果が落ちます。
主な指向性パターンと特徴
代表的な指向性パターンには以下があります。それぞれメリットと注意点があります。
- 無指向性(Omnidirectional): 360度ほぼ均等に音を拾います。自然な音場を得られ、風やハンドリングノイズに比較的強い。近接効果がほぼないため、近距離での低域の不自然な盛り上がりが起きにくい。
- カーディオイド(Cardioid): 前方に高感度で側面・後方は感度が落ちるハート形状のパターン。ボーカルや楽器の分離に優れるが、後方からの低域や反射音に注意が必要。
- スーパーカーディオイド/ハイパーカーディオイド: カーディオイドより指向性が強く、側面の感度も低くできる代わりに後方に小さな感度ローブが出ます。遠距離やノイズ源が側方にある場合に有利だが、後方のノイズに影響されることがある。
- 双指向性(Figure-8): 前後の2方向に感度が高く、側面はほぼゼロ。ステレオ収音(ブリュームラインやMS法の一要素)や対向する2人の対談収音などで使われます。
- ショットガン(Lobar/Interference tube): 細長い干渉管で前方に極端に鋭い指向性を持たせたもの。映画・テレビのブーム収音や屋外での遠距離収音に使われますが、低域では指向性が落ちる、オフ軸での周波数特性変化(色付け)が起きやすい点に注意。
- 境界面マイク(Boundary/PZM): 壁や床などの境界面に設置して半球状に音を拾う。定常的な会議室や舞台床からの収音などに使われ、位相干渉を減らして明瞭度を高めます。
周波数依存性とオフ軸の音色変化
重要な点は、指向性は周波数に依存することです。高周波ほど波長が短く、構造的な遮蔽や位相干渉によって指向性が強くなる一方、低周波では波長が長いため指向性が弱まりほぼ無指向に近づきます。結果としてショットガンなどは高域で非常に鋭い指向性を示すが、低域では周囲の音を拾いやすくなります。
また、オフ軸(軸外)から入る音は周波数特性が変化しやすく、特定周波数が減衰したりピークが生じて音色(ティンギーさ、暗さなど)が変わります。録音時は『オン軸の音を録る』ことを意識し、楽器やボーカルのベストな角度を探すことが大切です。
近接効果(プロキシミティ効果)と対処法
圧力差型(カーディオイドやフィギュア8等)では、音源に近づくほど低域が増強される「近接効果」が起きます。ボーカルの豊かな低域を狙う場合は有効ですが、不自然なブーミーさや濁りを招くこともあります。対処法は以下の通りです。
- 距離を適正に取る(通常ボーカルは3〜15cm、楽器は用途による)。
- マイクにハイパス(ローカット)フィルターを用いる(80Hz〜200Hzなど適宜)。
- 無指向性マイクを選ぶか、スイッチで指向性切替できるモデルを使う。
- EQで不要な低域を補正する。
指向性マイクの種類(構造別)
同じ指向性でもカプセルやトランスデューサの方式により特性が大きく変わります。
- ダイナミック(可動コイル)マイク: 丈夫で高SPLに強く、PAやドラムの近接録音で多用。ハンドリングノイズや周波数特性はコンデンサに比べ控えめ。
- コンデンサ(コンデンサー)マイク: 高感度で広帯域、繊細な音の再現が得意。ファンタム電源(一般に48V)を必要とするモデルが多く、ボーカルやスタジオ楽器録音で標準的に使われる。
- エレクトレット・コンデンサ: 小型で電源要件が異なる(バイアス電源や小型電池を内蔵するものも)ためラベリア(ピンマイク)やハンドヘルド型に多い。
- ショットガン(干渉管)マイク: フィールドレコーディングや映像収録のブームワークに特化。方向性は干渉管長と構造で決まる。
- ラベリア(ラップル)マイク: 衣服に取り付ける小型マイクで、無指向や小さな単一指向を採ることが多い。衣擦れ対策が重要。
接続・電気的注意点とスペックの見方
機材接続時には以下のポイントを確認してください。
- 出力形式: XLR(バランス)とミニジャック(アンバランス)でノイズ耐性や長距離伝送の可否が変わります。プロ用途ではXLRバランス接続を推奨します。
- 電源: コンデンサは通常ファンタム電源(48V)を必要とします。一部の機材は12Vや24Vの可変ファンタムやプラグインパワーに対応するので確認を。
- インピーダンス: 出力インピーダンスが低い(例: 150〜600Ω)ほうがプリアンプとの相性が良く、ケーブル長の影響も受けにくいです。
- 感度とS/N比: 感度(dBV/PaまたはmV/Pa)は信号レベルの目安、自己雑音(A特性dB)は静かな録音環境で重要です。高S/N比は微小音の録音に有利です。
- 最大SPL: 大音量の楽器(ドラム、アンプ)を録る場合はマイクの最大許容音圧レベルを確認してクリッピングや歪みを避ける。
実践的なマイキング技術
用途ごとの基本的なアプローチは以下の通りです。
- ボーカル(スタジオ): カーディオイドの大型ダイアフラム・コンデンサを用いることが多く、ポップフィルター+ショックマウント+反射板を用意。距離はポップに応じて調整。
- ボーカル(ライブ): 耐久性のあるダイナミック・カーディオイド(例: SM58タイプ)が定番。ハウリング対策としてモニタースピーカーの配置やEQ調整が重要。
- アコースティック楽器: 楽器の形状や鳴りを考え、オン軸とオフ軸の音色差を確認してマイク位置を決定。コンデンサで細部を、ダイナミックで音圧を押さえる場合がある。
- ドラム: スネアやタムにダイナミック、オーバーヘッドにコンデンサ(カーディオイドやオムニ)を使い、位相関係に注意して定位を整える。
- フィールド/映画収録: ショットガンで狙いを定め、ブームワークで音源との距離や角度をコントロール。ウィンドシールドやウィンドジャマー(フォーム+ファー)を必ず使用。
屋外収音の実務的対策
屋外では風雑音、衣擦れ、環境ノイズが問題になります。対策は次の通りです。
- ウィンドシールド(フォーム)+ファー風防(ウィンドジャマー)を併用する。
- ショットガンは指向性が鋭いが、突風やバイノーラルな反射でノイズが残るため風速計や配置で入念にチェックする。
- ラベリアは衣服への取付位置とケーブルの処理が重要。衣擦れ防止のためクリップ位置を工夫するか粘着式で固定する。
マイク配置と位相(フェーズ)の注意点
複数マイクを使う際には位相整合が非常に重要です。マイク間のパス差による位相ずれは特定周波数の打ち消し(ディップ)や強調を生み、音色やパンニングの不自然さにつながります。常套手段としては:
- マイクの距離法(3:1ルールなど)を活用して漏れ音と位相をコントロールする。
- 録音後の位相チェック(フェーズインバータの切り替え)や波形確認で問題を検出する。
指向性マイクの選び方(用途別のポイント)
選定時の主要な判断基準は次の通りです。
- 録音対象: ボーカル、アコースティック楽器、アンプ、フィールド音…用途に最適な指向性とトランスデューサを選ぶ。
- 設置環境: 反射が多い室内ならカーディオイドやハイパーカーディオイド、自然なルームトーンを活かすならオムニ。
- 運用の柔軟性: 切替式の指向性やスイッチで低域カットができるモデルは現場で便利。
- 機材の耐久性と予算: ライブでのハンドリングや屋外使用を想定する場合は堅牢なダイナミックを検討。
最新技術と発展(デジタル/ビームフォーミング)
近年はアレイマイクやデジタル信号処理(DSP)を用いて電子的に指向性を形成する技術も普及しています。会議用マイクロフォン・アレイやスマートフォンのビームフォーミングは、複数のカプセルの信号を遅延・加算して特定方向の感度を高め、ノイズや反響を抑制します。これらは物理的な指向性と比べて柔軟性やアルゴリズムによる補正が可能ですが、遅延や処理ノイズ、自然さの損失などのトレードオフもあります。
まとめ(実務でのチェックリスト)
指向性マイクを選ぶ・使う際の実務的なチェックリストは次の通りです。
- 目的の音源に合った指向性とカプセル(ダイナミック/コンデンサ)を選ぶ。
- オン軸での音色とオフ軸での色付きを確認する。
- 近接効果が問題になる場合は距離調整かハイパスを使う。
- 屋外では必ず適切なウィンド対策を施す。
- 複数マイク使用時は位相チェックと配置(3:1ルール等)を徹底する。
- スペック(感度、S/N、最大SPL、インピーダンス、電源)を機材選定で比較する。
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参考文献
- Shure: Microphone Polar Patterns
- Sennheiser: Directional Characteristics of Microphones
- Audio-Technica: Microphones 101
- Rycote: Wind and Wind Noise
- Audio Engineering Society (AES) — Standards and Articles
- Wikipedia: Microphone Polar Patterns (参考としての概要)
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