プリプロ徹底解説:録音前にやるべきことと現場で役立つ実践ガイド
はじめに — プリプロとは何か
プリプロ(プリプロダクション、pre-production)は、レコーディングやリリース前に行う準備全般を指します。楽曲の最終形を固めるための作業であり、アレンジ、構成、テンポ、キー、演奏指示、デモ制作、スケジュールや予算の調整、必要な機材や人員の確定などが含まれます。プリプロのクオリティは、スタジオ録音の効率と最終音質に直結するため、時間とコストを節約しつつクリエイティブな質を高める非常に重要な工程です。
プリプロの目的と期待される成果
曲の完成像を共有する:バンド、プロデューサー、エンジニアが同じビジョンを持つ。
無駄なスタジオコストの抑制:練り込まれていないアイディアで高額なスタジオ時間を浪費しない。
アレンジの最適化:不要なパートの削除や追加、構成変更による楽曲の強化。
パフォーマンスの準備:ミュージシャンの役割分担、難所の事前練習で録音の成功率を上げる。
テクニカルな準備:テンポ、クリック、キー、スコア(チャート)やガイドトラックの準備。
プリプロのタイムラインと段階
アイディア段階:デモ作成(ボーカル/ギター/ピアノ中心の簡易録音)を制作。ここでメロディ、コード進行、歌詞の基礎が生まれる。
アレンジ検討:構成(イントロ/ヴァース/コーラス/ブリッジ等)の見直し、楽器編成の仮決定、ダイナミクスの検討。
プレプロダクション・デモ:MIDIやソフト音源を用いた仮ミックスを作り、テンポやサウンドの方向性を確認。
リハーサル&最終確認:演奏者が最終アレンジに慣れるためのリハ。スタジオに持ち込むガイドトラックやクリックの最終化。
ロジスティクス:スタジオ予約、エンジニア・プロデューサー・ミュージシャンのスケジュール調整、予算確定。
具体的な作業項目(チェックリスト)
デモ録音の作成:スマホでも良いので最低限の構成を録音。歌詞やフレーズが固まっているか確認する。
テンポの決定とテンポマップの作成:曲の全体テンポ、テンポチェンジ箇所を決め、DAW上でテンポマップを作る。
キーの最終決定と楽曲の表現に合わせた転調の検討。
コード・スコア/チャートの用意:ミュージシャンやセッションプレイヤー向けの譜面やコード譜を作成する。
リファレンス曲の選定:音色、ミキシング、イントロの作り方など、目指すサウンドの例を共有する。
ガイドトラック(ガイドボーカル、ガイドギター等)の作成:演奏の目安となるトラックを用意する。
MIDIモックアップの制作:ストリングスやブラスなど本番前にサウンドを試すためにMIDIで再現する。
クリックの強さや種類の決定:ドラム主体か打ち込み系かでクリックの設定を調整。
録音・機材要件の明確化:マイクの種類、プリアンプ、インストゥルメント、アンプの選定。
ファイル管理ルールの確立:サンプルレート/ビット深度、命名規則、バックアップ手順の策定。
プリプロでよく使われるツールとワークフロー
主要DAW(Pro Tools、Logic Pro、Cubase、Ableton Liveなど)はプリプロの中心ツールです。これらを用いてガイドトラック、テンポマップ、MIDIモックアップ、簡易ミックス(プリミックス)を作成します。オンラインコラボレーションにはクラウドストレージ(Dropbox、Google Drive、WeTransfer)や、サンプル共有プラットフォーム(Splice)を使用することが一般的です。
プレイヤーと役割分担
プリプロ段階での明確な役割分担は成功の鍵です。
プロデューサー:楽曲の方向性、アレンジ、最終的な判断を行う。
エンジニア:技術的な準備(テンポマップ、ファイル形式、録音チェイン)を整える。
アレンジャー/作編曲者:楽器編成やハーモニー、スコア作成を担当。
ディレクター的役割のリーダー(バンドの場合):演奏の統率、練習の管理。
セッションミュージシャン:難所のクリアランスや代替案の検証。
ジャンル別のプリプロの注目点
ロック/ポップ:バンドアレンジの密度、ドラマーとベーシストのロックソリッドなパートが重要。テンポは揺れを最小化する。
エレクトロニカ/ダンス:サウンドデザイン、サブベースの確認、キックとスネアの位置関係、ループの最終化。
ジャズ/アコースティック:曲のダイナミクスと即興の範囲を明確にし、譜面の指示を細かく用意する。
ヒップホップ/R&B:トラックのグルーヴ、サンプルのクリアランス、ボーカルの位置づけ。
リモートプリプロの進め方
近年は遠隔でのプリプロが一般的です。ポイントは明確なコミュニケーションとファイル管理です。ガイドトラックをステム(ドラム、ベース、ガイドボーカル等)で分けて送る、バージョン管理を徹底する、コメントやタイムスタンプで修正箇所を共有する、という運用が有効です。また、リアルタイムでのディスカッションにはZoomやSlackを使い、DAWプロジェクトは共通のオーディオフォーマットでやり取りします。
テクニカルな注意点
サンプルレートとビット深度:スタジオと合わせる。プロジェクト開始時に決定し変えない。
ファイル命名:曲名_BPM_パート_バージョン.wav のような一貫性のある規則を設定。
テンポマップとメトロノーム:テンポチェンジやループ箇所を正確に書き出す。
バックアップ:外付けHDDやクラウドに最低2拠点保存。
参照音量の統一:LUFSやdBFSで基準を決め、リファレンス曲と比較する。
よくある失敗とその回避法
準備不足でスタジオ入りする:プリプロで最小限の完成度を保証し、リハーサルを義務化する。
意思決定が現場で長引く:主要決定(テンポ、キー、アレンジ)はプリプロで確定しておく。
ファイル管理の混乱:命名規則とバージョン管理を事前に定め、共有ドライブを一本化する。
コミュニケーション不足:リファレンスやメモ、チャートで意思を可視化する。
現場で役立つ実践的なコツ
小さなループで試す:問題のある箇所は短いセクションで繰り返し録って確認する。
プリミックスを作る:最終ミックスの方向性を共有するための簡易ミックスを作成しておく。
ボーカルのプレプロは特に重要:歌詞、フレージング、マイク選定の検討を入念に行う。
スケジュールに余裕を持たせる:予備日や予備時間を確保してトラブルに備える。
代替プランを用意する:機材故障や人員欠落に備え、代替案(別マイク、別プレイヤー)を決めておく。
チェックリスト(プリプロ完了時に確認すべき項目)
最終デモとガイドトラックが揃っている。
テンポとキーが確定している。
演奏者が全パートを理解し演奏できる。
必要機材・マイクリストとスタジオ要件が決まっている。
ファイル命名規則、サンプルレート、バックアップ戦略が確立している。
スケジュールと予算の最終合意が取れている。
まとめ
プリプロは「時間をかけて準備することで時間とお金を節約する」工程です。楽曲の魅力を最大化し、レコーディング本番の成功率を高めるために不可欠なプロセスであり、プロデューサー、エンジニア、演奏者が早期に共通認識を持つことが重要です。入念なプリプロは創造性を阻害するのではなく、むしろアイデアを具体化し、より大胆な制作判断を可能にします。
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