RTSの歴史と設計論──戦術・AI・eスポーツまで深掘り

はじめに:RTSとは何か

RTS(リアルタイムストラテジー、Real-Time Strategy)は、プレイヤーが時間経過とともに即時に意思決定を行い、ユニットの操作や資源管理、基地建設、技術開発を通じて勝利を目指すゲームジャンルです。ターン制とは異なり、全員が同時に行動でき、反射神経的な操作(マイクロ)と戦略的な計画(マクロ)の両方が要求されます。

起源と発展の歴史

RTSのルーツは1980年代後半から1990年代前半にさかのぼります。コンソール向けの先駆け的作品としてしばしば挙げられるのが1989年の『Herzog Zwei』で、ユニットの直接操作と資源・拠点の概念を導入しました。しかし、現在一般的に「RTSの祖」とされるのは1992年の『Dune II』で、アイコンベースのユニット選択、建設・生産体系、ミニマップ、テクノロジーツリーといった要素を確立しました。その後、1995年の『Command & Conquer』やBlizzardの『Warcraft』シリーズ、そして2000年代の『StarCraft』シリーズがジャンルを大衆化し、競技シーン(eスポーツ)を作り上げました。

コアゲームデザイン要素

RTSの設計にはいくつかの基本要素があります。以下は主要なものです。

  • 資源管理:資源の採取・蓄積は経済の核。効率と拡張(expansion)のタイミングが勝敗を左右します。
  • ユニット生産と編成:ユニットごとの役割(軽量歩兵、重騎兵、遠距離攻撃、支援など)とそれらの相互作用(相性・カウンター)が戦術的深みを生みます。
  • テクノロジーツリー:研究・アップグレードにより戦術の幅が広がり、長期的な計画の価値が生まれます。
  • マップと視界(フォグ・オブ・ウォー):視界の制限は情報戦を発生させ、偵察の重要性を高めます。
  • 操作インターフェースとホットキー:効率的なUIとショートカットは上級プレイヤーの技術を支える基盤です。

マクロとマイクロ:二層の技術

RTSは一般に「マクロ」と「マイクロ」の二つのプレイ領域で語られます。マクロは経済管理、拠点配置、長期戦略など大局面の判断であり、マイクロは個々のユニット操作(エイム、回避、スキル回しなど)や小規模部隊の瞬時の指示です。優れたプレイヤーは両者を同時に行い、時間配分と注意の分散を最適化します。設計側はこれらの両面に対し、学習コストと操作量のバランスを調整する必要があります。

AIと経路探索の技術

RTSにおけるAIは主に二段階で設計されます。戦略レベルの意思決定(資源配分、攻撃のタイミング、分隊の役割)と、ユニットレベルの行動(移動、攻撃、回避)です。経路探索には一般にA*(エースター)アルゴリズムが多用され、障害物回避や衝突回避のための補助アルゴリズムと組み合わせられます。近年は機械学習を用いた研究も盛んで、DeepMindのAlphaStarはStarCraft IIにおいてプロプレイヤーと戦えるレベルに達したことで注目を浴びました。AIの設計はプレイヤー体験にも直結するため、人間らしい不確実性や誤差を意図的に導入することもあります。

マップデザインとバランス

マップは攻略ルート、資源配置、地形効果により戦略を大きく左右します。公平性(フェアネス)を保つためにはリソースの初期配置、チョークポイント(通路の狭さ)、高低差などを慎重に配慮する必要があります。また、ユニット間の相性やコスト・生産時間のバランスは継続的なテストとパッチによって調整されます。ランクマッチ環境では、メタ(最適戦術)が形成されるため、開発側は更新で多様性を促すことが求められます。

ユーザーインターフェースと操作性の工夫

RTSの操作性は勝敗に直結します。効果的なUIは情報の過負荷を避け、迅速な意思決定を支援します。代表的な設計要素は以下の通りです。

  • 多重選択とグループ登録(コントロールグループ)
  • ミニマップによる状況把握
  • スマートな命令キューとスプリット操作
  • ホットキーやカスタマイズ可能なキー割り当て

これらはプレイヤースキルに関する障壁を上下させるため、競技性と新規参入のしやすさのバランスを取ることが重要です。

マルチプレイヤーとeスポーツ化

RTSは早くから対人プレイに適しており、StarCraftシリーズは韓国を中心にプロシーンを形成しました。高い読み合いと瞬時の操作が視聴性の高い対戦を生み、観戦文化や解説の発展を促しました。eスポーツとしての成功には、マッチメイキング、公平なマッププール、リプレイ機能、観戦用UIなど運営インフラが不可欠です。

モダンなトレンドとジャンルの融合

近年、RTSは純粋な形だけでなく、他ジャンルと融合する事例が増えています。代表例は以下の通りです。

  • RTSとMOBAの融合:『Warcraft III』のカスタムマップから生まれたMOBAジャンルは、RTSのユニット管理とRPG的なヒーロー育成を組み合わせました。
  • リアルタイムタクティクス(RTT):基地建設を省き、小規模部隊の戦闘と戦術に集中する設計。
  • ハイブリッドなUI/自動化:一部自動化された経済や簡略化されたマイクロで、カジュアル層に訴求する設計。

設計上の課題と解決アプローチ

RTS開発には多くの課題があります。主なものと対処法を挙げます。

  • 学習コストの高さ:チュートリアル、段階的なミッション、AI難易度設定で敷居を下げる。
  • マッチングとレーティングの精度:ELO系やTrueSkill系のレーティングを用いて近い実力同士を結びつける。
  • ユニットAIと経路問題:複合的な行動選択と局所回避アルゴリズムを組み合わせ、ナビゲーションメッシュやウェイポイントを活用する。
  • パフォーマンス:多数ユニットの同時処理は最適化が必須。レプリケーションとシミュレーションの負荷分散が重要。

デザインのベストプラクティス

成功するRTSの設計原則をまとめます。

  • 情報の優先度を明確にし、UIでの視認性を高める。
  • マクロとマイクロの学習曲線を別々に設計し、段階的にプレイヤーを導く。
  • 多様な戦術が成立するようにユニットの役割を明確化し、カウンターデザインを用意する。
  • リプレイや観戦機能を充実させ、コミュニティと競技性を育む。

将来展望:AI、クラウド、そして新しいプレイ体験

今後はAI支援による新規プレイヤー向けの対戦補助や、自動最適化されたマップ生成、クラウドによる大規模マルチプレイの実現が期待されます。機械学習によるNPCの学習、プレイヤー習熟度に応じた動的難度調整(Dynamic Difficulty Adjustment)も普及するでしょう。また、モバイルやタブレットなど入力方式の違いに対応した操作体系の最適化も鍵になります。

まとめ

RTSはリアルタイムでの意思決定と複合的なシステム設計が魅力のジャンルです。歴史的にはDune IIやHerzog Zwei、Command & Conquer、StarCraftといった作品が進化を牽引してきました。設計者は資源・マップ・ユニット・UI・AIの各要素を統合して、プレイヤーに公平かつ深い戦略体験を提供する必要があります。技術の進化により、RTSはこれからも新しい形で拡大していくでしょう。

参考文献