マルチエンディングの設計論:分岐構造・実装・プレイヤー心理まで徹底解説
マルチエンディングとは何か
マルチエンディング(多重結末)は、プレイヤーの選択や行動によって物語の結末が複数に分岐するゲームの仕組みを指します。単純な分岐から複雑なステート管理に基づくものまで多様で、プレイヤーに「選択の重み」を感じさせる手法として広く用いられます。代表的な例には『Chrono Trigger』や『Mass Effect』シリーズ、『Undertale』などがあり、ジャンルを問わず見られます(参照:Wikipedia: Multiple endings)。
歴史的背景と代表作
- 初期のテキストアドベンチャーとゲームブック:『Choose Your Own Adventure』やテキストアドベンチャーは分岐の原型であり、プレイヤー選択で複数の結末を生む仕組みを早くから実践していました。
- コンシューマRPGとアクションの事例:『Chrono Trigger』(1995)は多彩なエンディングで知られ、プレイヤーの行動とタイミングで最大13種類の結末が生じます。『Silent Hill 2』や『Heavy Rain』も分岐の重みを前面に出した作品です。
- 現代の進化:『Mass Effect』シリーズはトリロジーを跨ぐ選択の帰結で論争を呼び、『Undertale』はプレイスタイル(殺す/救う)により物語と世界観を根本から変える例として注目されました。
分岐の構造と設計パターン
分岐設計には主に以下のパターンがあります。どれを採用するかで制作コスト、物語の一貫性、プレイヤー体験が大きく変わります。
- ツリー型(完全分岐):選択ごとに枝分かれし、末端で異なるエンディングに到達する方式。表現の自由度は高いが、分岐数に応じて制作負荷が指数的に増加します。
- フォールドバック型(枝の再合流):一定の分岐後に主要ラインへ再合流することで、分岐の数を抑えつつ選択の感触を与えます。多くのゲームで採用される実務的な手法です。
- パラメトリック/スコア型:複数の内部変数(例:好感度、善悪ポイント)を積算し、しきい値によってエンディングを決定する方式。直感的な決断が結果に反映されやすい一方で「数値化された選択」はプレイヤーに違和感を与えることもあります。
- 状態機械・フラグ管理:細かなフラグ(イベント発生の有無、NPCの生死など)を組み合わせて条件判定する方式。複雑な物語制御に向きますが、検証が難しくバグが発生しやすい点に注意が必要です。
物語性とプレイヤー心理への影響
マルチエンディングはプレイヤーに「選択の意味」を感じさせ、再プレイ(リプレイ)意欲を高めます。しかし、単にエンディング数を増やすだけでは満足度は必ずしも上がりません。重要なのは「違いの質(quality)」です。
- 意味のある対比:結末同士にテーマ的・感情的な差異があり、プレイヤーが自分の選択軸を振り返れると満足度が上がります。
- 選択の可視化と予見性:選択が即座に結果に結びつく場合と、遠因として後で顕在化する場合があり、両者は別の緊張感を生みます。ただし「結果が全く見えない」場合、プレイヤーは無意味に感じることがあります。
- 閉塞感とカタルシス:開かれた結末(余白を残す)と閉じた結末(明確な結論)はそれぞれ利点があり、作品のテーマに合わせて使い分ける必要があります。
実装上のポイント(エンジン設計とデータ管理)
技術的にマルチエンディングを支える実装上の留意点は次の通りです。
- フラグと状態変数の命名規則:可読性を保つために統一した命名やコメントを徹底し、どのフラグがどの結末に影響するかをドキュメント化します。
- テストの自動化:分岐が多いほど人手での網羅テストは困難。自動化テストで主要な分岐パスを回してエラーや矛盾を発見します。
- セーブ/ロード戦略:複数の分岐を体験させたい場合、クイックセーブや複数スロットの活用、あるいはリプレイしやすいチェックポイント設計が重要です。
- パフォーマンスへの配慮:分岐ごとに大きく異なるリソースを用意する場合、メモリやロード時間の最適化が必要です。
デザイン上の注意点とよくある落とし穴
- エンディング数=良さではない:量より質。微差しか生まさない多数のエンディングはプレイヤーに「徒労感」を与えることがあります。
- イリュージョン・オブ・チョイス(選択の幻影):表面的には選択肢が多く見えても、実際には同じ結果に収束する場合、プレイヤーは裏切られたと感じることがあります。設計段階でどの程度の自由度を与えるかを明確にしましょう。
- 整合性の崩壊:分岐を増やすと物語の因果関係が裂けやすくなります。再合流点や世界設定を乱さない工夫が必要です。
評価指標とユーザーテスト
マルチエンディングの評価には定性的・定量的両面が必要です。
- 定量的:各エンディングの到達率、リプレイ率、平均プレイ時間などを計測。
- 定性的:プレイヤーの満足度、選択の理解度、物語の一貫性に関するフィードバックを収集。プレイテストでどの選択が誤解されやすいかを洗い出します。
事例から学ぶベストプラクティス
- 『Chrono Trigger』:早期に終了できるエンディングを含め、多様な結末を用意することでプレイヤーに探索の動機を与えました(バランス調整と分岐の手触りが評価されている)。
- 『Undertale』:プレイヤー行為が世界観・NPCの反応自体を変える設計で、単なる別エンディング以上の「体験の変化」を生みました。
- モダンな会話ツールキットの活用:Twine、Ink、Fungusなど対話や分岐を扱うツールを使うことで、非エンジニアのライターも分岐設計に参加できます。
まとめ:設計で最も大事なこと
マルチエンディングを成功させるには「プレイヤーにとって意味ある差を作る」こと、そして「制作側が検証できる設計」を両立させることが不可欠です。単なるエンディングの数稼ぎではなく、物語のテーマとプレイヤー体験(再プレイの動機、選択の理解、感情的なカタルシス)に即した分岐設計を行ってください。
参考文献
- Multiple endings - Wikipedia
- Branching storyline - Wikipedia
- Chrono Trigger - Wikipedia
- Mass Effect - Wikipedia
- Undertale - Wikipedia
- Interactive fiction - Wikipedia
- Heavy Rain - Wikipedia
- Game Developer(Gamasutraの後継) — 分岐設計に関する記事群


