リコーの進化と戦略:プリントメーカーからDXパートナーへの転換を深掘りする
概要:リコーとは何をする企業か
リコーは、複合機やプリンターなどのオフィス向けハードウェアで広く知られる日本発のグローバル企業です。従来の「ハードウェア販売」中心のビジネスモデルから、サービス提供やソフトウェア、ITソリューションを組み合わせた事業へとシフトしており、多様な業界での業務プロセス改革(BPO)、ドキュメントマネジメント、ワークプレイス改革(Workplace Services)などの領域で企業顧客にソリューションを提供しています。
沿革と成長の軸(概観)
リコーは感光材料や写真関連の技術にルーツを持ち、事業の柱を徐々に複合機・プリンターへ広げてきました。海外展開や合併・買収を通じて販売網とソリューション提供力を強化し、特に北米・欧州市場での事業基盤を拡大しました。代表的な買収には、米国の大型オフィス機器ディストリビューターであるIKONの買収(2008年)があり、これにより北米での販売・サービス基盤が飛躍的に強化されました。また、カメラブランドのPENTAX事業(光学・イメージング領域)を取得したことにより、光学・イメージング分野での技術的多様性を拡大しています。
事業構成と主力領域
リコーの事業は大きく分けて以下のような領域で構成されています。
- オフィス向けソリューション:複合機、プリンター、関連ソフトウェア、保守サービス(Managed Print Services)
- デジタルサービス・ITサービス:文書管理、クラウドサービス、業務プロセスのデジタル化、RPAやAIを活用した業務改善支援
- 産業用印刷・プロダクションプリント:商業印刷やパッケージング市場向けの高付加価値印刷ソリューション
- イメージング・高機能材料:光学機器(PENTAX等)、電子部品、感光材料など
ビジネスモデルの変化:ハードからサービスへ
プリンター・複合機市場は、ペーパーレス化やコスト意識の高まりにより成長率が鈍化しています。リコーはこの環境変化に対応するため、ハード販売に依存するモデルから、サブスクリプションや定額保守、クラウドサービスを組み合わせたサービス型モデルへ転換を進めています。Managed Print Services(MPS)はその代表で、機器の稼働管理・コスト最適化・文書セキュリティを一括で提供することで継続的な収益化を図っています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み
リコーは自社内外でDXを推進し、ドキュメントのデジタル化だけでなく、業務プロセスの自動化、データ活用による業務改善を支援します。顧客のワークプレイス環境を再設計するWorkplace Servicesや、請求書処理などのバックオフィス業務を代行・自動化するBPOサービス、さらにAIを活用した画像解析やセキュリティ強化など、多段階のソリューション提供を行っています。これにより、単なる印刷機の納入ではなく、顧客の業務成果(効率化・コスト削減・働き方改革)に直結する価値を提供しています。
グローバル戦略とM&Aの役割
海外市場でのシェア拡大は長年の戦略であり、地域ごとの販売・サービス拠点強化が行われています。戦略的なM&Aは現地での即時対応力や顧客基盤獲得に寄与しており、IKONの買収はその典型例です。加えて、ソフトウェア/サービス系の企業買収や提携によって、製品ポートフォリオのデジタル化を加速しています。買収後の統合(PMI)により、既存のハードウェア販売チャネルを通じてデジタルサービスを展開する手法が取られています。
サステナビリティとESGへの取り組み
環境配慮はリコーの製品開発・事業運営の重要な柱です。省エネルギー機器の開発、資源のリサイクルや長寿命化設計、サプライチェーンでの環境負荷低減への取り組みなどが進められています。企業としてのCO2削減目標やサステナブルな製品ライフサイクルの推進は、顧客からの要求にも合致しており、入札・調達の面でも競争力になっています。
直面している課題
リコーが抱える代表的な課題は以下の通りです。
- 市場の構造的縮小:オフィス向け印刷需要の減少に伴う売上プレッシャー
- サービス化への収益転換のスピード:ハード中心の収益構造からの移行は一朝一夕には進まない
- グローバル競争:大手ITベンダーや新興のソフトウェア企業との競合が激化
- 人材と組織文化:ソフトウェア/クラウド領域の人材獲得と、従来のハード指向文化からの変革
事業機会と将来の展望
逆に、これらの課題は新たな事業機会でもあります。企業のリモートワーク化や働き方改革、業務のクラウド移行に伴い、ドキュメント管理やセキュリティ、業務自動化の需要は高まっています。リコーは既存の顧客基盤とフィールドサービス網を活かして、従来とは異なる付加価値型サービスを拡大できるポテンシャルがあります。さらに、産業用・パッケージ印刷や特殊材料、光学技術を組み合わせた新領域の開拓も期待されます。
企業がリコーから学べること(ビジネス示唆)
- 既存ビジネスの強みを起点にする:長年の顧客接点や保守ネットワークはサービス転換時の大きな武器になる。
- ハードとソフトの組合せが鍵:物理製品を軸に、クラウド・ソフトウェア・サービスをセットで提供することで単価や継続収益を改善できる。
- 顧客成果(アウトカム)を売る発想:単なる機器提供ではなく、業務改善やコスト削減という成果を訴求することが競争力に直結する。
- サステナビリティを差別化要因に:環境配慮は顧客の調達判断にも影響するため、早期に取り組むことが強みになる。
まとめ:変革期におけるリコーの位置付け
リコーは、伝統的なオフィス機器メーカーから脱皮し、IT・デジタルサービスを組み合わせたソリューションプロバイダーへと変貌を図っています。市場環境の変化は厳しい一方で、既存のアセット(顧客基盤、サービス網、光学技術)を生かして新たな収益基盤を築く余地は大きいです。重要なのは、スピード感を持ってサービス化を進め、ソフトウェア・クラウド領域の人材と組織設計を整え、顧客の業務成果にコミットすることです。これが実現できれば、リコーは単なる機器メーカーではなく、企業の働き方改革と業務変革を支える戦略的パートナーとしての地位をより確かなものにできるでしょう。
参考文献
- Ricoh Official Website(英語)
- Ricoh - History(公式)
- Ricoh - Sustainability(公式)
- Ricoh - Investor Relations(公式)
- Ricoh - Wikipedia(英語)
- 日本経済新聞(業界ニュース検索など)


