Hammond B-2(B-3との違いを含む)徹底ガイド:歴史・構造・音作り・メンテナンス
はじめに — "B-2"という表記について
インターネット上や口語で「Hammond B-2」と表記されることがありますが、歴史的に広く知られ、音楽文化に大きな影響を与えたモデルは「Hammond B-3」です。本コラムでは、まずこの混同について明確にしたうえで(一般にB-2として言及される場合はB-3の誤記であることが多い)、Hammond B-3を中心に、トーンホイール式オルガンの原理、サウンドの作り方、代表的な演奏法、保守・修理、購入時の注意点、現代的な代替案までを詳しく解説します。
Hammondオルガンの基本原理(トーンホイールとアナログ回路)
Hammondオルガンの核は「トーンホイール(tonewheel)」という機械的発振器と、それを電気的に取り出すピックアップ群です。円盤(ホイール)に刻まれた溝が回転し、磁力とコイルの相互作用で純粋な周期波形を発生します。これらを組み合わせることで、パイプオルガンに似た豊かな倍音構造を作り出します。
また、Hammondの音作りの重要要素にドローバー(drawbars)があります。ドローバーは特定の倍音成分の音量を調節するフェーダーで、組み合わせにより無限に近い音色バリエーションを実現します。加えてパーカッション回路、コーラス/ヴィブラート回路、パワーアンプやスピーカー(通常はLeslie)との相互作用が、典型的なHammondサウンドを形成します。
Hammond B-3の主な特徴(B-3を中心に)
- 二段鍵盤(two manuals):上段(swell)と下段(great)の二段鍵盤を持ち、手の分配やレジストレーション切替に使います。
- ドローバー:各マニュアルに9本ずつのドローバー(ベーシックなモデル)で倍音バランスを調整。
- パーカッション機能:アタックを強調するパーカッション回路があり、オルガンの立ち上がりに明瞭さを加えます。
- コーラス/ヴィブラート:独特の揺らぎを作る回路(スピード切替付)が搭載。
- トーンホイール発振:物理的なトーンホイールによる音源は、ウォームで倍音に富んだ音が特徴。
- レスリー(Leslie)スピーカーとの組合せ:回転スピーカーによるドップラー効果で音に立体感と動きを与えるのが定番。
Leslieスピーカーとの相性とその効果
HammondとLeslieの組合せは歴史的に不可分です。Leslieスピーカーはロータリー式のホーンとバスバッフルを内蔵し、回転速度(Slow/Fast)を切り替えることで音色を劇的に変化させます。回転による位相差やピッチの揺れ、空間的な広がりが、B-3の倍音構造と相まって独特の"生きている"音を生みます。
代表的なプレイヤーと音楽的影響
B-3はジャズ、ゴスペル、ブルース、ロックなど幅広いジャンルで中心的役割を果たしました。代表的な奏者にはJimmy Smith(ジャズでのB-3の地位を確立)、Booker T. Jones(ソウル/リズム&ブルース)、Keith Emerson(プログレ)などが挙げられます。これらのプレイヤーはドローバーの使い分け、右手のリズム/ソロ、左手とフットペダルによるベースライン操作などを駆使して、多彩な表現を行ってきました。
演奏テクニックと音作りの実践
以下はB-3に特有の実用的テクニックです。
- ドローバーの基本設定例:ジャズでは "888000000" 的なフルサウンドや、より控えめな "888100000" などのパターンが使われます(数値はイメージ)。
- パーカッションの使い方:ソロでアタックを強調したい場合にオン。速いフレーズでは切ることで音の混濁を避ける。
- マニュアルの分配:リズムとコードを下段、リードやフレーズを上段で担当させる配置が一般的。
- 足鍵盤(pedalboard):ベースを足で弾くことで左手を自由にし、よりリズミックなプレイが可能。
- レスリーのスイッチング:イントロでSlow→Fastに切り替えてクレシェンドを演出するなど、曲のダイナミクス表現に必須。
メンテナンスと主要な故障箇所
トーンホイール式オルガンは機械的構造や古い電気部品が多いため、定期的なメンテナンスが必要です。主な注意点は次の通りです。
- 潤滑とクリーニング:トーンホイール軸やベアリングの潤滑、ホコリや汚れの除去。
- コンデンサと抵抗の劣化:長年使用されると音質に変化をもたらすため、交換が必要になる場合がある。
- B-3特有のコネクタやリレーの接点不良:接点洗浄や交換で復活することが多い。
- レスリーのメンテ:モーターやベアリングの点検、配線の確認。
- 調律(voicing)は機械的な調節より回路の健全性の確認が優先される。
修理やレストアは経験豊富な専門家に依頼するのが安全で、誤った分解は永久的な損傷を招く恐れがあります。
レストレーションと改造(レストアの考え方)
ヴィンテージのB-3は音色的魅力がある一方で、エレクトロニクスの不具合や筐体の劣化が避けられません。レストレーションではオリジナル性を重視するか、実用性(信頼性、モダン接続)を重視するかで選択が分かれます。一般的な改造例は次の通りです。
- 電源回路の安全対策(アース強化、ヒューズの見直し)
- MIDIやセクション分割の追加(演奏性向上のため)
- プリアンプやDI出力の追加(PAに直結するため)
- レスリーの電動モーターを交換し静音化や可変速度コントロールを追加
これらは価値観によって賛否が分かれますが、ライブ用途なら実用性を取り入れることが多いです。
購入ガイド:中古市場でのチェックポイント
ヴィンテージB-3の購入を検討する際は次をチェックしてください。
- 外観だけでなく、トーンホイールの回転音、キーごとの音の抜け、ノイズの有無を実演で確認する。
- レスリーの状態(モーター音、回転のスムーズさ)を確認する。
- シリアル番号や製造年、過去のレストア履歴を確認。完全オリジナルか修理済みかで価値が変わる。
- 重さ・搬入経路を事前に確認。B-3 + Leslieは非常に重いので運搬コストがかかる。
価格は状態、オリジナリティ、付属品(レスリー等)によって大きく変動します。専門店や経験者に同行してもらうと安心です。
現代の代替(デジタル・クローンとソフトウェア)
トーンホイールの物理的魅力は唯一無二ですが、現代ではデジタルで非常に良質なエミュレーションが可能です。クローンハードウェア(Nord、Suzuki/Hammondの現行機種等)やプラグイン(IK MultimediaのB-3Xなど)、サンプルベースの音源は、保守の手間や搬送コストを抑えつつB-3系の音色を再現できます。ただし、アナログの微細な挙動やレスリーとの物理的相互作用までは完全には代替できないことが多いです。
まとめ:B-3(B-2表記の混同)を理解する意義
もしあなたが「Hammond B-2」と出会ったら、多くの場合それは「Hammond B-3」を指しているか、個別の改造機を指す可能性があります。B-3を理解することは、20世紀以降の多くの音楽ジャンルのサウンドを深く理解することにつながります。本稿で紹介した構造・メンテナンス・演奏テクニックを参考に、実機に触れたり、現代のクローンを試したりして、Hammondサウンドの奥行きを体感してください。
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参考文献
- Hammond organ — Wikipedia
- Hammond B-3 — Wikipedia
- Tonewheel organ — Wikipedia
- Leslie speaker — Wikipedia
- Hammond-Suzuki (公式サイト)
- IK Multimedia — B-3X


