ガス入りペアガラスとは|性能・寿命・導入メリットと選び方を徹底解説
概要:ガス入りペアガラスとは何か
ガス入りペアガラス(ガス充填複層ガラス)は、2枚以上の板ガラスの間に空気の代わりに不活性ガス(主にアルゴンやクリプトン)を封入し、複層ガラス(ペアガラス=二重ガラス/トリプルガラス=三重ガラス)として組み立てたものです。空気に比べるとガスの熱伝導率が低いため、熱貫流(熱の出入り)を抑え、断熱性能を高めることができます。住宅や商業建築において、エネルギー効率の向上や結露の抑制、快適性の改善を目的に広く用いられています。
構造の要点:ガラス、空気層、ガス、スペーサー、シーリング
- ガラス板: 通常フロート板ガラスが用いられ、Low-E(低放射)膜を施したものを組み合わせることで断熱効果が大きく変わります。
- 空気層(空洞幅): ガラス間の間隔は一般に6〜20mm程度が多く、最適な幅は充填ガスや用途によって異なります。
- 充填ガス: アルゴン(Argon)が最も一般的。熱伝導率が空気より低くコストパフォーマンスが良い。性能を追求する場合はクリプトン(Krypton)や混合ガスを用いることがあります。
- スペーサー(フレーム): ガラス辺縁の間隔を保持する部材で、断熱性に影響する。金属製スペーサーは熱橋になりやすいが、樹脂系の“ウォームエッジ(Warm Edge)”スペーサーは熱橋を抑制し結露防止に有効。
- シーリング: 一般に二重シール構造(一次シールはポリイソブチレン等の湿気バリヤ、二次シールはポリサルファイド・シリコーン等の構造シール)で、ガスの保持と水蒸気侵入防止を担います。
なぜガスを入れるのか:熱の伝わり方と効果
熱は伝導、対流、放射の3つの経路でガラスを通過します。ガス充填は主に対流と伝導を抑える効果があります。アルゴンは空気より熱伝導率が低いため、同じガラス構成でも単に空気層のままよりU値(熱貫流率)が改善されます。加えてLow-Eコーティングを組み合わせると、赤外放射の抑制により冬期の室内熱保持や夏期の日射熱カットに大きな効果が得られます。
代表的な充填ガスと使い分け
- アルゴン(Argon): コストと性能のバランスが良く、住宅用の主流。一般的に充填率は約80〜90%程度とされることが多い。
- クリプトン(Krypton): 熱伝導率がさらに低く、薄い空洞幅でも高い断熱効果を発揮するがコストが高い。高性能なトリプルガラスや狭い空洞で有利。
- 混合ガス: アルゴンとクリプトンの混合など、コストと性能のバランスをとるために用いられる場合があります。
断熱性能の目安(U値・熱貫流率)とLow‑Eの重要性
ガス充填だけの効果は構成によって差が出ますが、同じ複層ガラス構成で空気からアルゴンへ変えるだけでU値が5〜20%改善されることが多いとされています。さらにLow‑E膜(低放射膜)を内側のガラス面に施すことで、放射による熱損失が大きく抑えられ、総合的な性能向上はさらに大きくなります。設計ではガラスの枚数、空洞幅、ガス種類、Low‑Eの有無、スペーサーの材質などを総合してU値や日射熱取得率(g値/SHGC)を評価します。
結露対策とウォームエッジの効果
ガラス端部は熱橋になりやすく、結露発生の原因となります。金属スペーサーは端部を冷やし結露を促す可能性があるため、樹脂系スペーサー(ウォームエッジ)を採用することで表面温度を上げ、結露リスクを低減できます。複合的にLow‑Eや適切なガラス厚・空洞幅を選定することで室内表面温度を高め、結露防止に寄与します。
耐久性・寿命とガス保持性
ガラスユニットの寿命はシーリング材の耐久性や生産・施工品質に大きく依存します。一次シールと二次シールの複合構造によってガスの拡散や水蒸気の侵入を防いでいますが、長期ではわずかな透過やシール劣化でガスが抜けることがあります。メーカー保証は一般に10〜20年程度が多く、この期間にガス保持や結露の発生が評価されます。実務上は定期的な目視点検で曇りや結露、端部の劣化がないか確認することが推奨されます。
遮音性への寄与
ガス入りであること自体が大幅な遮音改善をもたらすわけではありませんが、ガラス構成や空洞幅の最適化、異厚板ガラスの組合せなどと併用することで遮音性能を高めることができます。ガスの種類よりもガラス厚・間隔・ラミネートの有無が遮音に影響します。
製造・充填方法と品質管理
- 組立て時にガスを充填する「充填アセンブリ方式」と、予めセルに封入してから組立てる方式がある。充填時の圧力管理や充填率の確認が重要。
- 生産ラインでの乾燥処理(デシカント)や高品質の二次シール材を用いることで長期密封性を確保する。
- 出荷前に目視・加圧試験・水蒸気透過等の検査を行うメーカーもあるため、信頼できる製品を選ぶことが重要。
施工上の注意点(新築・既存窓の取り替え)
- サッシとの組合せ:サッシの気密性・断熱性が十分でないと期待した性能が出にくい。トリプルガラスや高性能ガラスを導入する場合はサッシも合わせて検討する。
- 取り替え(リプレイス)時:既存枠に収めるリフォーム用は、ガラスユニットの厚みや取り付け方法に注意。施工不良は結露やガス抜けの原因になる。
- 日射取得とブラインドとの関係:冬に日射を取り込みたい場合はLow‑Eの選択を慎重に。建物の方位や用途に応じてg値(可視光透過率や日射熱取得)を検討する。
コストと費用対効果(導入判断のポイント)
ガス入りペアガラスは空気入りと比べて材料・製造コストが上がりますが、暖房負荷削減やエネルギーコスト低減、快適性向上による居住性の改善といった効果をもたらします。費用対効果を評価する際は、年間の暖房・冷房費削減見込み、耐用年数、補助金や省エネ基準への適合(場合によっては税制優遇や補助制度の対象)などを総合的に判断します。
安全性・防災面
ガス自体は不活性であり人体に有害ではありません(密閉状態での取扱いを前提)。ただし、破損時はガラス破片による危険があるため、防犯・防災の観点で強化ガラスや合わせガラス(ラミネート)を併用することも検討されます。
選び方の実務チェックリスト
- 目的(断熱重視、遮音重視、結露対策)を明確にする。
- U値、g値、可視光透過率(Tvis)を製品仕様で確認する。
- スペーサー材、シーリング材、ガスの種類と初期充填率、メーカー保証年数を確認する。
- サッシとの組合せや施工方法、メンテナンス/点検体制を確認する。
- 補助金や地域の省エネ基準(自治体の助成制度など)を確認する。
実務的な導入事例と期待効果
住宅リフォームで窓をペアガラス+アルゴン充填に替えると、冬場の窓面の表面温度が上がり、暖房効率の改善、結露減少、室内の快適性向上が期待できます。新築では、窓の断熱性能向上が建物全体の一次エネルギー消費量削減に直結し、外皮改修や省エネ等級の達成にも寄与します。
まとめ:メリット・デメリットと現場での判断
ガス入りペアガラスは、比較的低コストで断熱性・快適性を高める有効な手段です。アルゴンは費用対効果に優れ、クリプトンは高性能を求める場面で有効。重要なのは単にガラスを変えることだけでなく、Low‑Eの有無、スペーサーやシーリング、サッシ性能などを含めたシステム全体で性能を評価することです。製品仕様の確認、信頼できるメーカー・施工業者の選定、そして実際の用途(新築・改修・防音・結露対策)を踏まえた最適設計が成功の鍵となります。
参考文献
- U.S. Department of Energy: Windows, Doors, and Skylights (Energy Saver)
- Wikipedia: Insulated glazing
- Engineering Toolbox: Thermal Conductivity of Gases
- Insulating Glass Manufacturers Alliance (IGMA)
- Glass for Europe


