建築・土木で使う天然ゴムの基礎と設計実務――性質・加工・適用例と維持管理のポイント

天然ゴムとは:基本概要と原料

天然ゴム(Natural Rubber, NR)は主にゴムの木(Hevea brasiliensis)から採取されるラテックスを原料とする高分子材料で、主成分はシス-1,4-ポリイソプレネ(cis-1,4-polyisoprene)です。ゴムの木は東南アジア(タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど)が主要生産地であり、ラテックスを定期的に「タッピング」して採取し、凝固・乾燥して板・クレープ・薄片などの原料形態(RSS、TSRなど)に加工します。

天然ゴムは高い伸長性、弾性回復性(弾性率)およびエネルギー散逸(損失係数)を持つため、衝撃吸収や振動減衰、シール性に優れています。一方で、オゾン・紫外線・熱・油・酸化性環境には弱く、適切な配合や処理による改善が必要です。

材料特性と試験項目(設計上重要なパラメータ)

土木・建築設計で確認すべき代表的な性質は以下の通りです。

  • 引張強さ(MPa)・伸び(%):ゴムの耐荷重性と安全率設定に直結します。
  • 圧縮永久ひずみ(compression set):長期荷重下での形状保持性を評価します。
  • 硬さ(ショアA):支持剛性や接触圧分布の設計に用います。
  • 動的特性(損失係数、動弾性率):振動・地震時のエネルギー吸収性能評価に重要です。
  • 耐候性・耐オゾン性・耐油性・温度依存性:使用環境に応じ素材選定で考慮します。

加工と化学処理:実務で知っておくべき点

天然ゴムはそのままでは実務用途に適さないため、硫黄による加硫(バルカナイゼーション)で架橋し、機械的強度と耐熱性を向上させます。さらに充填剤(カーボンブラック、シリカ)、加速剤、アンチオゾン剤、老化防止剤などが配合され、用途に応じた物性が調整されます。

建築・土木用コンポーネント(例:橋梁用ゴム支承、免震ゴム、伸縮継手、振動アイソレーター)では、層間に鋼板を挟んだ積層ゴム(ラミネートタイプ)や高減衰ゴム配合などの複合構造が用いられ、垂直支持力と水平方向の変位許容を両立させます。

土木・建築での代表的な適用例

  • 免震・制振装置:積層ゴム支承は建物や橋梁の免震・制振に広く使われます。自然ゴムは低周波域で高い損失係数と復元力を示すため、地震エネルギーを吸収する役割に適しています。
  • 橋梁支承・座金:荷重支持と動的応答の調整に使用されます。鋼板を挟んだ積層構造で圧縮剛性と横力柔軟性を確保します。
  • 伸縮装置・防振ゴム:配管や構造物の熱伸縮・振動絶縁に用いられます。
  • シーリング・防水材:天然ゴムはシール性に優れますが、耐候性の観点から用途によってはEPDM等の合成ゴムが選ばれることが多いです。

設計上の留意点と選定ガイド

天然ゴムを構造部材として選定する際は、以下を検討してください。

  • 使用温度域:一般に天然ゴムは低温で硬化・割れが発生しやすく、高温では弾性が低下します。設計温度範囲を確認し、必要ならば合成ゴム(NBR、EPDM、CRなど)やブレンドを検討します。
  • 化学環境:油や溶剤にさらされる場合はNBR等の耐油性材料を優先します。アルカリや酸の腐食性がある現場も要注意です。
  • 耐候性対策:屋外での長期使用時は遮蔽、塗装、被覆や抗酸化剤の配合が必要です。
  • 荷重・変位条件:静荷重中心か、繰返し動荷重かで材料選定と厚さ・寸法を最適化します。長期クリープや圧縮永久ひずみの影響を評価してください。
  • 維持管理性:期限付きの交換計画、定期的な点検(亀裂、硬化、剥離)と記録を設けること。

耐久性と劣化メカニズム

天然ゴムの主な劣化要因は酸化、オゾン割れ、熱加水分解、UV劣化です。これらは表面から亀裂を発生させ、材料の引張強度や伸びを低下させます。加硫の程度や充填剤、アンチオゾン剤の有無で耐久性は大きく変化します。また、応力集中部や折り曲げ部分は亀裂が発生しやすく、詳細なディテール設計が重要です。

維持管理と点検の実務手順

現場での点検は目視と触診を基本とし、定期的に以下を確認します。

  • 亀裂・切欠きの有無
  • 硬化・脆化(触って弾性を確認)
  • 接着部や鋼板との剥離
  • 変色・表面粉化の有無(紫外線・酸化の兆候)
  • 変形や永久ひずみの累積

重大な劣化が見られる場合は、材料試験(硬さ、引張、圧縮永久ひずみなど)を実施し、交換判断や改修設計を行います。

環境・持続可能性と代替材料

天然ゴムは植物由来であるため再生可能資源ですが、プランテーションの土地利用や農薬管理、輸送に伴う環境負荷を無視できません。近年はトレーサビリティや天然ゴムの持続可能な供給(ラバーサステナビリティ)に関する取り組みが進んでいます。一方で、耐候性・耐油性を求められる場面ではEPDMやNBR、合成ゴムとの併用・代替が実務上有効です。

実例と設計者への提言

橋梁の積層ゴム支承や建物の免震ゴムは、天然ゴムの優れた力学特性を活かした代表例です。設計者は材料特性だけでなく、製造ロット差、現場での据付誤差、長期クリープと温度履歴を考慮した保守計画を立ててください。特に高荷重・大変位を扱う場合は、供給メーカーと協議して試験片による実機相当の疲労試験や長期圧縮試験を行うことを推奨します。

まとめ

天然ゴムは建築・土木分野で振動吸収、免震、シール性に優れた材料として高い価値を持ちますが、そのまま使うと耐候性や耐油性に課題があるため、配合設計、物性試験、適切な保守計画が不可欠です。用途に応じて合成ゴムとの比較・併用を行い、安全で長寿命な設計を心がけてください。

参考文献