建築・土木における「動圧(動的圧力)」の理論・計算法と実務への応用

はじめに

動圧(動的圧力)は流体が運動することによって生じる圧力成分であり、建築・土木の設計では風荷重や流水・波浪による荷重評価の基本となります。本コラムでは動圧の物理的定義から設計計算への適用、測定方法、実務での注意点までを詳しく解説します。

動圧の定義と基礎式

動圧 q(パスカル, Pa)は流体の密度 ρ(kg/m³)と速度 V(m/s)を用いて次式で表されます:

q = 1/2 · ρ · V²

大気中(標準状態、ρ ≈ 1.225 kg/m³)では係数 1/2·ρ ≒ 0.613 となるため、風速 V の二乗に比例して動圧が増大します。つまり、q ≒ 0.613 · V²(単位:N/m² = Pa)。流体力学では、ベルヌーイの定理により「全圧 = 静圧 + 動圧(+ 位置エネルギー項)」として扱うことが多く、ピトー管は動圧を測定する代表的な器具です。

静圧・動圧・全圧の違い(建築的意義)

  • 静圧:流体が静止しているときに受ける圧力。建物内部・外部の静的な大気圧差に相当する。
  • 動圧:流速に起因する圧力成分。風が当たる面で力を発生させる主要因。
  • 全圧:静圧+動圧。ピトー管で測定されるのはこの全圧で、静圧を差し引くことで動圧が得られる。

建築・土木設計では、外装材に作用する瞬間的な風圧や流体による衝撃力の評価に動圧が直接利用されます。

風荷重計算での動圧の適用

建築物の風荷重を簡易に評価する際、まず基準的な速度圧(velocity pressure) qz を求めます。一般的な形としては次のように表されます:

qz = 1/2 · ρ · Vz²

ここで Vz は基準高さ z における設計風速。設計標準(例:ASCE 7、EN 1991-1-4、日本の基準類)では、地表粗度、地形効果、風圧係数、ガスト係数(G)などを掛け合わせて実効的な設計圧力を得ます。実務でよく使われる単純形は:

設計圧 p = qz · G · Cp

ここで Cp は圧力係数(形状、方位、高さに依存)、G は突風効果を表すガスト係数です。外力としての総力 F は面積 A を乗じて求められます:

F = p · A = qz · G · Cp · A

例:海岸近くで風速 V=30 m/s、ρ=1.225 kg/m³ とすると q ≒ 0.613·30² ≒ 551.7 Pa。外壁面積 A = 10 m²、代表的な正圧 Cp=0.8、G=0.85 と仮定すると、F ≒ 551.7·0.85·0.8·10 ≒ 3.76×10³ N(約3.8 kN)になります。

圧力係数(Cp)の実務的意味

Cpは局所的な圧力が基準動圧に対してどれだけの割合かを示す無次元量です。建物の形状(平板、角張り屋根、丸みのある外形など)、角度、風向、面の位置(正面・側面・屋根など)により大きく変わります。典型的には:

  • 正面中央:正圧(+)
  • 屋根・角部:吸引(負圧)が強くなることが多い
  • 内圧:開口があると内部圧力が外圧に影響を与え、総合的な荷重が変化する

このため実際の設計では標準値を使う場合の他に、風洞模型実験やCFD解析で局所Cp分布を求め、外壁・屋根・開口部の詳細な設計を行います。

土木・水理分野での動圧

水中の動圧も同様に q = 1/2 · ρ · V² で表されますが、ρ が水の場合は約1000 kg/m³となるため同じ速度でも大きな圧力になります。例えば水流速度 V=2 m/s のとき:

q = 0.5 · 1000 · 2² = 2000 Pa(2.0 kPa)

河川構造物、護岸、橋脚、取水構造物ではこの動圧に加えて波圧、飛沫圧、流体衝撃(流入・落水による急激な圧力変動)、付加質量(流体の慣性が構造物に与える効果)を考慮する必要があります。特に波や流れの乱れによる瞬時圧力は単純な1/2ρV²では表現しにくく、実験や詳細解析が必要です。

測定手法と解析手段

  • ピトー管/ピトー・スタティック管:動圧と静圧の差を直接測定でき、風速の正確な把握に有効。
  • 圧力タップ付き模型の風洞試験:建物模型の表面に多数の圧力センサを配置し、局所Cpを測定する。外皮設計で標準的。
  • CFD(数値流体力学):風洞では困難な大規模・複雑形状や周辺地形の影響評価に有効。ただしメッシュ・乱流モデル等の精度管理が必要。
  • 現地計測(フルスケール):風速計、圧力センサ、加速度センサを用いた長期モニタリングで実際の荷重・応答を確認。

設計上の留意点(実務的アドバイス)

  • 速度の二乗則:風速が2倍になると動圧は4倍になるため、地域の設計風速の妥当性確認は重要。
  • 局所負圧(吸引)の評価:屋根端部や庇、開口部は吸引が強く、剥離・めくれを起こしやすい。
  • 内部圧力の影響:開口部が多い建物は内部圧力の上昇で外皮に大きな負荷がかかる。内外の圧力差を正しく扱う。
  • ガスト・乱流:短周期の突風は構造の動的応答を誘発するため、静的圧力だけでなくガスト係数や風による振動(風揺れ、渦励振)評価が必要。
  • 流体の密度差:高温や高高度では空気密度が下がるため動圧が変化する。特に高層建築や異常気象時は注意。

特殊現象:渦励振・共振・風による損傷

円柱状の構造物や細長い塔状構造では、流れによる渦の発生(Kármán渦列)が周期的力を生み、共振に至ると疲労破壊や大きな振幅を引き起こします。これらは単純な静的動圧評価では捕捉できないため、風洞におけるモデル試験や時刻歴解析、スペクトル解析が必要です。

簡単な計算例(風と水)

1) 空気中:V = 25 m/s のとき q ≒ 0.613·25² ≒ 383 Pa。外壁面積 20 m²、Cp=0.7、G=0.85 の場合の力 F ≒ 383·0.85·0.7·20 ≒ 4.56 kN。

2) 水中:V = 1.5 m/s のとき q = 0.5·1000·1.5² = 1125 Pa。幅 3 m、高さ 2 m の壁に均等に作用すると総力は F = q · A = 1125 · 6 ≒ 6.75 kN。

計算上の注意:圧縮性と非圧縮性の境界

風速が音速の約0.3倍(約100 m/s)を超えると空気の圧縮性が重要になり、単純な q = 1/2ρV² の用い方では補正が必要になります。一般的な建築・土木分野の風速レベル(数十m/s)では非圧縮性流体の仮定で十分です。

まとめ

動圧は建築・土木設計で非常に重要な概念であり、q = 1/2ρV² という単純な式から出発して、圧力係数、ガスト係数、地形や乱流特性などを組み合わせることで実務で使える設計圧力が得られます。風洞試験やCFD、現地計測などの手段を適切に組合せ、局所的な吸引や動的応答(渦励振など)を確認することが安全かつ経済的な設計につながります。

参考文献