日立と建築・土木:技術・実績・スマートインフラから見る現在地と今後

はじめに

日立(Hitachi)は1910年の創業以来、電機を核に成長してきた総合電機メーカーです。近年は単なるハードウェア供給にとどまらず、ITやAIを活用した社会インフラの最適化(いわゆる“社会イノベーション事業”)を重視しています。本コラムでは、建築・土木分野に関連する日立グループの技術・事業領域、代表的な実例、デジタル化や脱炭素への取り組み、今後の課題と展望を整理して解説します。

日立の歴史と企業構造(建築・土木との関係から)

日立製作所(以下、日立)は多くの関連会社・グループ会社を持つ複合企業体です。建築・土木に直接関わる事業は、日立本体のインフラ事業や、グループの各社(例:日立建機、日立レール、日立ビルシステム、日立プラントテクノロジー等)を通じて展開されています。これらは製品提供(エレベーター・建設機械・鉄道車両等)、システム提供(発電・送配電・上下水道制御等)、およびデジタルソリューション(IoT/デジタルツイン等)という三つのレイヤーで建築・土木分野に関与しています。

建築・土木分野における主な事業領域

  • 建設機械:日立建機(Hitachi Construction Machinery)は油圧ショベルやホイールローダー等の大型建設機械を製造・販売しており、現場の生産性向上や燃費改善、電動化・自動化の技術開発を進めています。
  • 鉄道・輸送インフラ:日立レールは車両設計・製造、信号・電力システムの提供まで行い、高速列車や通勤車両、都市交通システムの導入で世界的に実績があります。
  • 建築設備:エレベーター・エスカレーター、空調・監視制御などのビル設備は日立の重要な事業で、建物の安全性・快適性・省エネに寄与しています。
  • エネルギー・上下水・環境プラント:発電設備(火力・再エネ関連装置)、送配電、上下水処理プラント、廃棄物処理システムなど、土木インフラのライフサイクルに関わる技術を提供しています。
  • デジタルソリューション:Lumada(ルマーダ)を中核に、IoT、ビッグデータ解析、デジタルツイン、予知保全などのサービスを通じて、インフラの維持管理や都市運営の高度化を支えています。

代表的な技術・製品とその特徴

日立グループが提供する技術はハードとソフトの連携が特徴です。いくつかの代表分野を挙げます。

建設機械の電動化・自動化

日立建機は国内外で油圧ショベル等の主力製品を供給する一方、エネルギー効率の高いハイブリッド機や電動機の開発、遠隔操作・自律運転技術の導入を進めています。これにより現場のCO2排出削減や、安全性・生産性の向上を目指しています。

鉄道車両と輸送システム

日立の鉄道車両は、日本国内はもちろん欧州・アジアなどで導入実績があります。近年では車両の軽量化、高効率駆動システム、採電・蓄電システムの最適化、信号・運行管理のデジタル化により、輸送効率と信頼性が向上しています。英国向け長距離高速車両など海外案件でも実績を積んでいます。

ビルディング設備とスマートビル

エレベーター・エスカレーターだけでなく、ビル全体のエネルギー管理(BEMS)、設備の遠隔監視・保守サービスを提供します。IoTによる稼働データ収集と解析で省エネ運用や予防保全を実現し、ビルオーナーの運用コスト低減に貢献します。

上下水・プラント技術

日立は水処理プラントや廃棄物処理技術を通じて都市インフラの循環型化を支援。制御システムと連動した運用最適化により、運転コストの低減・安定供給を達成します。

デジタルツールと予知保全(Lumada)

Lumadaは日立のIoTプラットフォームで、センサーから得られる稼働データを蓄積・解析し、故障予測や運用最適化、デジタルツインによるシミュレーションを可能にします。橋梁やトンネル、鉄道車両、建築設備など、長寿命化と維持コスト低減を目指す土木・建築資産管理に応用されています。

実際の導入事例(抜粋)

  • スマートシティ:柏の葉(Kashiwa-no-ha Smart City) — 日立は柏の葉地区でのスマートシティ構想に参画し、エネルギー管理やモビリティ、健康・医療分野を連携させた実証を行っています。IoTやデータ活用を通じて都市の持続可能性向上を図る代表例です。
  • 鉄道プロジェクト(海外含む) — 日立レールは欧州やアジアで車両・信号システムを供給しており、運行制御の高度化やエネルギー効率改善に寄与しています。
  • 建設機械の現場適用 — 日立建機の遠隔・自動化技術は鉱山や大規模工事現場での実証が進み、無人操縦や自律作業による生産性向上が確認されています。

耐震・災害対応と安全性

日本は地震多発国であるため、日立グループは構造物の耐震設計支援や、インフラの被害予測・復旧支援システムの提供を行っています。センサーによる揺れの計測、インフラの健全性評価、被害発生時の迅速な運用切替や復旧支援を組み合わせることで、都市のレジリエンス(回復力)強化に貢献しています。

サステナビリティと脱炭素への取り組み

日立は事業活動全体でのCO2削減目標を掲げ、製品の省エネ化、再生可能エネルギー導入支援、建設機械の電動化等を推進しています。インフラのライフサイクルで排出を抑えるための設計・運用改善や、デジタル化による運用効率化は脱炭素への重要な手段です。

課題と留意点

  • グループ構造の複雑さ:日立は多くの関連会社を持つため、製品・サービスの提供範囲や責任範囲が分かれます。ユーザーは事業主体(例:日立本体、日立建機、日立レール等)を明確に確認する必要があります。
  • 標準化と相互運用性:異なるシステム間でのデータ連携や標準化は依然課題で、特に官民連携やレガシー設備が入り混じる現場では検討が必要です。
  • サイバーセキュリティ:インフラのデジタル化に伴い、サイバー攻撃のリスクが高まるため、堅牢なセキュリティ設計が必須です。

今後の展望

人口減少・都市の老朽化・気候変動といった課題に対して、日立はデジタル技術と物理設備の統合により、予防保全や効率的な資源配分を実現する方向に舵を切っています。特にデジタルツインやAIによる運用最適化は、将来のインフラ維持管理コストを低減し、耐災害性や環境性能を高める鍵となるでしょう。また、建設現場の自動化・遠隔化により労働力不足への対応が進むことも期待されます。

まとめ

日立は建築・土木分野でハード(機器・プラント)とソフト(IT・解析・サービス)を組み合わせた総合的なソリューションを提供できる強みを持ちます。だたし、グループ企業間の事業範囲や標準化・セキュリティの課題を踏まえた上で、適切なパートナー選定と要求仕様の明確化が重要です。今後はデジタル化・脱炭素対応を通じて、より高度な「社会インフラの最適化」が求められます。

参考文献