ウンベルト・ジョルダーノとヴェリズモ — 『アンドレア・シェニエ』を中心に読み解く
ウンベルト・ジョルダーノ — 生涯概観
ウンベルト・ジョルダーノ(Umberto Giordano、1867年8月28日 - 1948年11月12日)はイタリアのオペラ作曲家で、ヴェリズモ(写実主義)オペラの主要作曲家の一人として知られています。南イタリアのフォッジャ(Foggia)生まれのジョルダーノは、19世紀末から20世紀前半にかけて活動し、世俗的で現実的な題材を扱うオペラ作品により広く認知されました。その代表作『アンドレア・シェニエ』は、現在でも世界のオペラ・レパートリーに残る名作です。
主要作品とその背景
ジョルダーノのキャリアは、写実主義(ヴェリズモ)の潮流と密接に結びついています。初期作品の『Mala vita』(マラ・ヴィータ、1892年)は都市の貧困や人間の暗部を真正面から描き、当時の保守的な観客から批判を受けましたが、作曲家としての関心領域と文法を明確に示しました。その後の作品としては、『アンドレア・シェニエ』(Andrea Chénier、1896年)と『フェドーラ』(Fedora、1898年)があり、特に『アンドレア・シェニエ』は今日に至るまで上演され続けています。
- Mala vita(1892年頃) — 初期の問題作。社会的リアリズムを前面に出したことで論争を呼んだ。
- Andrea Chénier(1896年) — ジョルダーノの代表作。フランス革命期の詩人アンドレア・シェニエを題材にした歴史悲劇。
- Fedora(1898年) — 恋愛と復讐を主題とするドラマティックな作品。原作戯曲を下敷きにしている。
『アンドレア・シェニエ』 — 構造と音楽的特徴の深掘り
『アンドレア・シェニエ』は、作曲家としてのジョルダーノの成熟を示す作品です。台本はルイージ・イリカ(Luigi Illica)が関与したことが知られており、劇的構成と人物造形が緻密に練られています。楽曲は、印象的な旋律、情動の高まりに対応するオーケストレーション、そして台詞的な歌唱を活かした宣言的な場面のバランスに特徴があります。
特に有名なアリア「La mamma morta」(「亡き母よ」)は、ドラマ性と叙情性が同居する名場面で、主人公マッダレーナの内面告白として機能します。このアリアは、20世紀後半に映画や舞台で引用される機会が増え、作品全体への関心を高める一因ともなりました。
構成面では、ジョルダーノは長大な伝統的アリア――回想――合唱という古典的枠組みを完全に踏襲する一方、場面転換のテンポ感や対話的な仮面劇法(台詞に近い歌唱)を用いることで、より現代的なドラマ運びを実現しています。オーケストレーションは補助的に留まらず、心理描写や場面の陰影を強めるための色彩を与える重要な役割を担います。
『フェドーラ』『マラ・ヴィータ』──題材と受容
『フェドーラ』は、愛と裏切りを巡るドラマで、当時の観客にとって魅力的な主題を扱っています。原作戯曲をオペラ化する際の劇的凝縮が功を奏し、上演当初から一定の成功を収めました。一方で『マラ・ヴィータ』は、都市の下層社会を露骨に描いたため賛否が分かれ、後に改訂が試みられています。これらの作品群は、ジョルダーノが社会的現実と個人の感情をどう結びつけるかというテーマに一貫して取り組んできたことを示しています。
作風の特徴 — ヴェリズモの系譜と独自性
ジョルダーノはヴェリズモの文脈に位置付けられるものの、単なる模倣者ではありません。彼の音楽は感情の即時性を重視しつつ、伝統的なイタリア・オペラの抒情性を捨て切らない点で独自性を持ちます。具体的には以下の点が挙げられます。
- 旋律の記憶性:ドラマの高まりに合わせて、耳に残る主題を繰り返し配置する手法。
- 語りと歌の融解:台詞的な歌唱とアリア的な要素を柔軟に行き来させることで、劇的リアリズムを保つ。
- オーケストレーションの色彩感:単なる伴奏にとどまらず、心理描写や場の雰囲気作りに寄与する。
- 現実的題材への志向:愛、貧困、復讐、忠誠といった生々しいテーマを躊躇なく扱う。
上演・演奏上の留意点
ジョルダーノのオペラを歌う際には、次のような点が重要になります。第一に、主要役にはスピント〜ドラマティックな歌唱力が求められます。声は表現力とともに耐久力が必要で、長いシーンを歌い抜く力が不可欠です。第二に、テンポ管理とダイナミクスの精密さ。ジョルダーノのスコアは場面の転換が巧みで、テンポの揺れや呼吸の置き方で劇的効果が大きく左右されます。第三に、演出面では写実的な場面設定と共に象徴的な表現を併用することで、作品の持つ普遍性を引き出すことができます。
reception と遺産
ジョルダーノは生前は一定の名声を得たものの、20世紀中盤以降はレパートリーの中心からやや外れることがありました。しかし、『アンドレア・シェニエ』の名場面群は世界中の歌手やオーケストラによって取り上げられ続け、ヴェリズモの代表作の一つとして位置づけられています。現代の研究・演出では、当時の社会状況や政治的背景を踏まえた再評価が進み、上演機会も徐々に回復しています。
演奏と録音を楽しむためのヒント
初めてジョルダーノに接するリスナーには、まず『アンドレア・シェニエ』のハイライトを通して作風を掴むことを勧めます。オペラ全曲を通して聴く際は、台本(日本語訳)を手元に置き、登場人物の心理変化を追いながら聴くと、ジョルダーノの抒情と劇性がより鮮明に感じられます。
結語 — ジョルダーノの現代的意義
ウンベルト・ジョルダーノは、イタリア・オペラの長い伝統を受け継ぎつつ、写実的な題材と強い感情表現によって新しい世代の聴衆に訴えかけました。『アンドレア・シェニエ』に代表される彼の作風は、声楽技術とドラマティックな構成を高度に両立させ、現在でも多くの歌手・演出家にとって重要なレパートリーであり続けています。
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参考文献
- Encyclopedia Britannica: Umberto Giordano
- Wikipedia: Umberto Giordano
- IMSLP: Umberto Giordano(楽譜)
- AllMusic: Umberto Giordano(作品解説と録音案内)


