ウィーン作曲家の系譜と影響 — ウィーン古典派から20世紀まで
ウィーン作曲家とは:音楽都市ウィーンの背景
「ウィーン作曲家」という呼称は、単にウィーン生まれの作曲家を指すだけでなく、18世紀後半から20世紀にかけてウィーンを中心に展開した作曲様式や音楽文化圏を指すことが多い。ウィーンは神聖ローマ帝国、のちのオーストリア帝国の政治的・文化的中心地として宮廷音楽や劇場、サロン、協会コンサートなど多様な上演機会を持ち、作曲・演奏・出版の三位一体で独自の音楽文化を育んだ。ここでは主要な時代区分ごとに代表的作曲家とその特徴、社会的背景を概説する。
ウィーン古典派(Wiener Klassik)――ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン
18世紀後半、ウィーンを中心に展開した「ウィーン古典派」は、均整の取れた楽曲構造、明快な旋律線、ソナタ形式の発展を特徴とする。代表的な作曲家としては、ハイドン(Franz Joseph Haydn, 1732–1809)、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart, 1756–1791)、ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770–1827)が挙げられる。ハイドンは宮廷楽団(エステルハージ家)での長年の職務を通じて交響曲と弦楽四重奏の形式を確立し、モーツァルトはオペラ、ピアノ作品、室内楽や交響曲で多彩な様式を示した。ベートーヴェンは古典的様式を受け継ぎつつ革命的な拡張を加え、動機の徹底的な発展や形式の劇的変容を通じて“古典”を新たな表現へと転換した。
楽式と社会の変化:宮廷から市場へ
18世紀末から19世紀にかけて、封建的な宮廷パトロネージから市民的なコンサート文化へと移行が進んだ。個人的なサロンやコーヒーハウス、公演興行、楽譜出版の発展が作曲家の生計や作品の流通に影響を与えた。ベートーヴェン以後は作曲家がパトロン一名に依存するのではなく、複数の収入源(出版、出版権、パブリックコンサート)を前提に活動することが増えた。
ロマン派と19世紀ウィーン:シューベルトからヨハン・シュトラウスまで
19世紀前半は、フランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797–1828)がリート(歌曲)とピアノ作品、室内楽で新たな情感表現を切り拓いた。ウィーンで開催された「シューベルティアーデ(Schubertiade)」のような私的音楽会は、当時の作曲家と聴衆の密接な関係を示す。
19世紀中葉以降は、ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833–1897)やアントン・ブルックナー(Anton Bruckner, 1824–1896)、ヨハン・シュトラウス2世(Johann Strauss II, 1825–1899)などがウィーンの音楽シーンを彩った。ブラームスは古典的様式の深い涵養とロマンティシズムのバランスを追求し、ブルックナーは巨大な交響曲で宗教的・宇宙的なスケールを提示した。シュトラウス2世はワルツや舞曲で「ウィンナ・ワルツ」として知られる都市の舞踏文化を代表し、市民的娯楽音楽と芸術音楽の境界を曖昧にした。
都市の舞台と音楽制度:演奏団体と建築
ウィーンの音楽生活を支えた機関には、ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper、1870年頃建設・1869年開場)やウィーン楽友協会(Musikverein、ゴールデン・ホールは1870年開館)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(Wiener Philharmoniker、1842年創設)などがある。これらの施設と団体は、楽曲の上演機会を恒常的に供給し、作曲家・演奏家の国際的評価を確立する場となった。
20世紀:第二ウィーン楽派と前衛
20世紀初頭、アーノルド・シェーンベルク(Arnold Schoenberg, 1874–1951)を中心に展開した「第二ウィーン楽派」は、調性の崩壊、十二音技法(セリー主義)の体系化を通じて音楽の新しい秩序を模索した。アルバン・ベルク(Alban Berg, 1885–1935)やアントン・ウェーベルン(Anton Webern, 1883–1945)らは、表現主義的な要素とともに個別の語法を発展させ、20世紀の現代音楽に大きな影響を与えた。ウィーンはまた、グスタフ・マーラー(Gustav Mahler, 1860–1911)らによるオーケストラの拡張や劇場音楽の革新も経験した。
ウィーン作曲家に共通する技法的特徴
- ソナタ形式と動機の発展:ベートーヴェンに代表されるように、短い動機を全曲的に発展させる技法。
- 室内楽中心の文化:サロン文化や市民コンサートは弦楽四重奏やピアノ三重奏の需要を高めた。
- 舞曲と市民文化:ワルツやポルカなどの舞曲は、市民社会の祝祭やダンス文化と結びついた。
- 歌(リート)の重視:シューベルトやブラームスに見られる歌曲の深化は、ドイツ語詩と音楽の密接な結びつきを示す。
継承と現代への影響
ウィーンの作曲伝統は、大学・音楽院(例えばウィーン国立音楽大学)や音楽祭、レコード・出版・放送を通じて広く影響を及ぼしている。今日でもウィーンは世界的な音楽拠点であり、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのように伝統を世界に発信する役割を担っている。一方で第二ウィーン楽派の実験精神は戦後の現代音楽、教育、作曲理論に深く根付いている。
聞きどころと入門曲
初めてウィーン作曲家を聴く場合の代表的な作品例は次のとおりである。ハイドンの交響曲第94番「驚愕」、モーツァルトの『フィガロの結婚』序曲、ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』や第9番、シューベルトの歌曲『魔王』や交響曲第8番『未完成』、ブラームスの交響曲第1番、シュトラウス2世の『美しき青きドナウ』、シェーンベルクの『浄められた夜』など。これらはそれぞれの時代と作曲家の特色を端的に示す。
結語:多層的な「ウィーン作曲家」像
「ウィーン作曲家」は単一の様式を指す言葉ではなく、時代ごとの社会構造、上演制度、音楽技法が交錯して形成された多層的な伝統を指す。古典派の均整、ロマン派の感情表現、市民文化の娯楽性、そして20世紀の制度的・理論的革新が複合的に重なり合うことで、ウィーンは世界音楽史における重要な地点となった。歴史的文脈を踏まえて各作曲家の作品に触れることで、より豊かな聴取体験が得られるだろう。
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参考文献
- Joseph Haydn - Britannica
- Wolfgang Amadeus Mozart - Britannica
- Ludwig van Beethoven - Britannica
- Franz Schubert - Britannica
- Johannes Brahms - Britannica
- Johann Strauss II - Britannica
- Anton Bruckner - Britannica
- Gustav Mahler - Britannica
- Arnold Schoenberg - Britannica
- Alban Berg - Britannica
- Anton Webern - Britannica
- Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic) - Official Site
- Musikverein - Official Site
- Wiener Staatsoper - Official Site


