Casio CZシンセ完全ガイド:位相歪み(PD)合成の仕組みと実践的音作り

はじめに — CZシリーズとは何か

Casio CZ(CZシリーズ)は、1980年代中盤にカシオが投入したデジタルシンセサイザー群で、独自の位相歪み(Phase Distortion, PD)合成を採用している点で知られます。価格性能比に優れ、ミニ鍵盤のCZ-101からフラッグシップのCZ-1まで多彩なラインナップを持ち、当時のポップ/シンセポップ系サウンドに広く使われました。本稿ではCZの歴史的背景、テクノロジーの核であるPD合成の原理、各モデルの特徴、実際の音作りや活用法、現代における再現/活用事情までを詳しく解説します。

歴史的背景

1980年代初期、YamahaのFM(周波数変調)合成は大きな注目を集めましたが、Casioは別のアプローチでデジタル音源化を試みました。CZシリーズは“位相歪み”という方式を採用し、アナログ的なフィルタの代替となる波形操作で多彩な音色を作り出すことを目的としました。CZ-101(ポータブルモデル)やCZ-1000(フル鍵盤)、CZ-3000/CZ-5000といった中位機、そしてより表現力を高めたCZ-1などがラインナップされ、コストを抑えながら個性的な音を提供しました。

位相歪み(Phase Distortion:PD)合成の技術解説

位相歪み合成の基本コンセプトは「正弦波の位相を時間的に変化させることで波形を変形し、倍音構成を得る」ことです。これはFM(周波数変調)と混同されがちですが、PDは位相(time-domain)に直接変形を与える手法で、結果的に波形の拾い上げ方が異なります。具体的には、波形の1周期における位相進行を非線形に変える“位相順序生成器”と、それを制御するエンベロープ(CZではDCW:Digital Controlled Wave)を組み合わせます。

CZ独自の要素として重要なのは、従来のアナログ・フィルタ(特に共振を持つローパスフィルタ)を持たない代わりに、DCWで波形の形状を時間的に変化させる点です。これによりフィルタを模したような動的な倍音変化が得られ、さらにDCA(Digital Controlled Amplifier)による音量のエンベロープで最終的な輪郭を整えます。

構成要素と演算の流れ

  • オシレーター/波形:各音声は内部であらかじめ用意された波形を参照し、位相歪みによりその形状を変える。
  • DCW(デジタル制御ウェーブ):波形の位相変形量をエンベロープで制御する。いわば「時間軸上での波形フィルタリング」。
  • DCA(デジタル制御アンプ):従来のアンプエンベロープで音量のタイミングを制御。
  • LFO、ポルタメント、デチューン:モジュレーション類は一般的なシンセ同様に搭載され、音色に動きを与える。

CZシリーズ各モデルの特徴(概観)

CZ-101:携帯性重視のミニ鍵盤モデル。コストを抑えつつPDの音色を提供したため、FMに比べて扱いやすく即戦力となるサウンドが得られた。演奏系の機能はシンプル。

CZ-1000:フル鍵盤版。より演奏向けの鍵盤と外部制御端子を備え、CZ-101との基本音源は共通。

CZ-3000 / CZ-5000:メモリ数やパラメータの拡張、マルチティンバーなど性能強化を図った中位機。用途に応じたプリセットや編集の自由度が上昇。

CZ-1:シリーズ内で最上位に位置する機種で、より豊富なパラメータ、アフタータッチや高品位なキーボードを備えるなど表現力に優れる。

(各機種の細かな仕様はモデルによって異なるため、購入や整備時は個別のマニュアル/仕様表を参照してください。)

サウンドの特徴と音作りのコツ

CZの音は「デジタルのクリーンさ」と「位相歪みによる独特な倍音変化」が混ざったものです。アナログの共振フィルタがないため、フィルタ動作を期待するアプローチは通用しません。代わりにDCWエンベロープを活用して、立ち上がり/サステイン時の倍音変化を設計します。基本的なコツは次の通りです。

  • DCWの立ち上がり(Attack)を短くしてインパクトのある立ち上がりを作る。逆に長めにするとパッドのようなゆったりした倍音変化が得られる。
  • 複数のパッチ(音源)をレイヤーして微妙にデチューンすると厚みが出る。CZはユニゾンの解像度が高くない機種もあるため、重ねることで存在感が増す。
  • LFOを用いた微小なDCW変調で動的な揺らぎを付与する。特にベル/エレクトリックピアノ系の音作りで有効。
  • エフェクト(コーラス、リバーブ、ディレイ)を現代的に加えると、CZ固有のデジタル感を活かしつつ馴染ませやすくなる。

実践例:ベース、パッド、リードの作り方(一例)

ベース:DCWを浅めに設定してローエンドが太くなるように。DCAのアタックは短く、サステインはやや控えめ。スライスやポルタメントで滑らかな移行を追加。

パッド:DCWのスローダイヤナミクスを活かして、ゆるやかに倍音が増減する形に。LFOで微弱にDCWを揺らすと温かみが出る。長いリバーブを足して幅を持たせる。

リード:DCWを大胆に動かして倍音の変化を強調。DCAのアタックを少し遅めにして“ノイジー”な立ち上がりを作ると、マーシャルされたデジタル感のあるリードになる。

制約と長所—なぜ今でも評価されるのか

制約としては「アナログ的な共振フィルタがない」こと、初期モデルではプリセット・メモリやエディット画面が分かりにくい点、アナログ機材とは異なる固有の癖がある点が挙げられます。一方で長所は、低価格で個性的な音色を手に入れられること、PD合成ならではのクリアで鳴りの良い倍音表現、軽快なCPU負荷でライブやツアーに向くことです。80年代の音楽制作では重宝されましたが、現代でもその“独特さ”を求めるクリエイターは少なくありません。

MIDI・メンテナンス・レストアのポイント

CZシリーズはMIDI対応機種も多く、外部シーケンサーとの連携が可能です。古い機体のメンテナンスでは接触不良や内部電池(メモリバックアップ用)の劣化、スライダーのガリ音などが典型的な不具合です。購入や修理時は専門の修理業者やコミュニティの情報を参照し、内部のコンデンサや電池交換を検討してください。

現代における再現とプラグイン

物理ハードのCZを入手するのが難しい場合、ソフトウェア/プラグインによる再現も選択肢です。純正の復刻が常にあるわけではありませんが、サードパーティのエミュレーターやサンプル集でPD特有の挙動を模した音色が利用できます。また、ハードの良さ(鍵盤タッチ、パフォーマンス)のために中古市場で実機を探すユーザーも多く、コミュニティによるパッチ交換も活発です。

まとめ — CZの音は使いどころが明確

Casio CZシリーズは、位相歪み合成という独自の手法により、FMともアナログとも異なる音色を提供します。フィルタに依存しない波形制御は一見癖がありますが、うまく使えば個性的で力強いサウンドが得られます。音作りの際はDCWを中心に考え、外部エフェクトやレイヤーで補完するのが実践的です。歴史的価値とユニークなサウンドキャラクターから、現代の制作でも十分に活用できるシンセだと言えるでしょう。

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参考文献