The Andrews Sisters:戦時下を彩った三声ハーモニーの軌跡と音楽的影響

概要

The Andrews Sisters(ジ・アンドリューズ・シスターズ)は、20世紀中盤のアメリカを代表する女性ボーカル・グループで、戦時中の大衆文化を象徴する存在です。三女声による巧みなクローズ・ハーモニーとスウィング、ブギウギの要素を融合させたパフォーマンスで幅広い支持を獲得し、ラジオ、レコード、映画、USO(米軍慰問公演)など多方面で活躍しました。主な代表曲には「Bei Mir Bist Du Schoen」「Boogie Woogie Bugle Boy」「Don’t Sit Under the Apple Tree」「Rum and Coca-Cola」などがあります。

結成と出自

グループはミネアポリス出身の3姉妹(長姉、次姉、妹)によって結成され、1930年代からプロとしての活動を開始しました。ステージ名の「Andrews Sisters」は芸名であり、ラジオやレコードでの露出を通じて徐々に全国的な知名度を獲得していきます。早期にはラジオ番組やナイトクラブでの定期出演を重ね、1937年以降にレコード録音や映画出演の機会が増加しました。

代表曲と戦時下での役割

彼女たちのブレイク曲の一つが「Bei Mir Bist Du Schoen」で、この曲は元々イディッシュ演劇の曲を英語化したもので、英語詞版が大衆に受け入れられるきっかけとなりました。1940年代に入ると、第二次世界大戦の影響で彼女たちの楽曲は戦時下の士気高揚の象徴となります。特に「Boogie Woogie Bugle Boy」は軍隊と戦時文化を題材にしたナンバーとして大ヒットし、兵士や一般市民に広く支持されました。「Don’t Sit Under the Apple Tree」は復員兵と恋人たちの再会を巡るテーマで、多くのラジオリクエストを受けました。

また、戦時中には軍向けにV-Disc(Victory Disc)への録音やUSO公演を行い、前線や海軍基地で兵士たちの士気を支えたことでも知られます。彼女たちの明るい歌声とユーモラスなトークは戦時下のアメリカ国民にとって重要な娯楽の一部でした。

音楽性とアレンジ

The Andrews Sistersの特色は、3人による密接なハーモニーとリズム感の良さです。ジャズやスウィング、ブギウギ、カリプソなど当時の流行要素を取り入れ、吹奏楽器やビッグバンド編成との相性が良いアレンジが多く用いられました。専属的に協力したアレンジャーやバンドリーダーとの連携により、録音では複雑なコーラス・パートが巧みに活かされています。特にヴィク・シューン(Vic Schoen)らのアレンジは、三声の重なりを生かしたダイナミックなサウンドを作り出しました。

映画・メディア展開

1930年代後半から1950年代にかけて、The Andrews Sistersはハリウッド映画にも数多く出演しました。コメディ映画やミュージカル映画での歌唱とダンスはグループのビジュアル面での魅力を補強し、レコードと映画という二方向の露出が人気を加速させました。映画出演は一般層への認知を広げる重要な役割を果たし、彼女たちの名をより強固なものにしました。

著作権問題と論争

人気の高まりとともに、楽曲を巡る論争も生じました。代表的なのが「Rum and Coca-Cola」に関する問題で、トリニダードのカリプソ音楽家が原曲の権利を主張した裁判が起きたことです。アメリカでの編曲・英詞化を巡るクレジットや印税の配分をめぐって法的争いが展開され、一部のケースでは原作者側の主張が認められる結果となりました。こうした事件は、国際的な音楽交流が活発になる中での権利意識の変化を示す事例といえます。

影響と遺産

The Andrews Sistersは、戦時下の大衆文化に深く根差した存在であるだけでなく、ポピュラー音楽における女性ヴォーカル・グループの先駆けとして後続の音楽史にも大きな影響を与えました。後のガール・グループやポップ・ボーカルの編成におけるハーモニー技術、ステージングの様式、レコーディングにおけるコーラスの扱い方など、多くの点で手本とされました。録音されたレパートリーは今日でも映画やCM、復刻盤を通じて聴かれることが多く、その文化的価値は維持されています。

メンバーと晩年

グループは長年にわたって断続的に活動を続けましたが、長姉の死去(1967年)を契機に一時的な活動停止やメンバーチェンジもありました。残されたメンバーはその後ソロ活動やリユニオン、公演などを行い、それぞれ晩年まで音楽活動に関与しました。グループ全体としての活動は20世紀中盤にピークを迎えましたが、個々の音楽的遺産は現代にも受け継がれています。

ディスコグラフィーと映像資料(抜粋)

  • Bei Mir Bist Du Schoen(代表的なブレイク曲)
  • Boogie Woogie Bugle Boy(Don Raye & Hughie Prince 作)
  • Don’t Sit Under the Apple Tree(Sam H. Stept / Lew Brown / Charles Tobias 作)
  • Rum and Coca-Cola(カリプソ起源の楽曲をめぐる論争あり)

総括:文化史的評価

The Andrews Sistersは、単なるヒット曲の連発以上に、アメリカ社会の一時代を象徴する文化的アイコンでした。戦時中の記憶、映画やラジオを通じた大衆娯楽、レコーディング技術の発展、国際的な音楽交流とその問題点――これらの交差点に彼女たちの活動史は位置しています。音楽的には三声の緻密なハーモニーとリズム感、表現の多様性で後続の世代に影響を与え続けており、学術的にも大衆文化史的にも重要な研究対象となっています。

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参考文献