DOOM (2016) 深堀コラム:リブートが示した“猛攻のゲームデザイン”とその影響
概要:2016年のリブートが果たした役割
DOOM(2016年版)は、id Softwareが開発しBethesda Softworksが発売したシリーズのリブート作です。オリジナルの流儀を現代的な技術と設計で再解釈し、従来のハードコアなファーストパーソン・シューティング(FPS)体験を復権させました。2016年にリリースされ、PC/PlayStation 4/Xbox Oneを皮切りに展開されました。単純な復刻ではなく、『攻め続ける』ことを核心としたゲームデザインで、以降のFPS設計に少なからぬ影響を与えました。
開発と狙い:古典を現代に翻訳する
id Softwareは本作で、90年代のDOOMやQuakeが持っていた“高速で直接的な撃ち合い”の感触を現代のグラフィック、アニメーション、音響で再現することを目指しました。開発にはid Tech 6エンジンを採用し、高フレームレートと滑らかなアニメーションを重視。開発陣は単に見た目をリメイクするのではなく、戦闘のリズムそのものを再設計しました。結果として生まれたのが“push-forward combat”(前に出続ける戦闘)の思想で、プレイヤーに退避ではなく接近と攻撃を奨励する演出と報酬設計が組み込まれています。
コアメカニクス:攻めの循環と報酬
本作の戦闘はスピード、位置取り、武器の確実な使い分けで成立します。特徴的な要素を挙げると以下の通りです。
- Glory Kill:ダメージを与えた敵に対する近接仕留め行動で、実行すると体力/回復を得られる。これにより積極的に敵に接近する理由が生まれる。
- チェーンソー:一撃で敵を切り刻んで大量の弾薬を得るリスクとリターンのシステム。限られた回数での使用が前提になっている。
- 武器改造とモッド:各武器に切替可能なモッドを持ち、シチュエーションに応じた使い分けが必要。
- ルーンとプラエター・スーツ(Praetor Suit)のアップグレード:プレイスタイルに応じた特殊能力や永続強化をアンロックできる成長要素。
これらが組み合わさることで、弾薬・体力の管理が“逃げるための資源”ではなく“攻めるための資源”として機能します。単なる撃ち合いを超えたサイクルが、爽快感と緊張感の両立を実現しました。
レベルデザイン:オープンと閉鎖の良いバランス
DOOM(2016)は従来の線形ステージ感を残しつつ、探索や発見の要素を強めたレベル設計になっています。各ステージには隠し場所、収集要素、マップギミックが配置され、リソース管理と探索の動機づけが巧みに噛み合います。また、戦闘エリアは見通しや足場、高低差を使った設計で、プレイヤーが常に移動しながら敵を裁くことが促されます。これにより単純作業の連続にならず、瞬間ごとの意思決定が求められます。
サウンドと雰囲気:Mick Gordonの貢献
サウンドトラックはMick Gordon(ミック・ゴードン)が作曲し、ハードで重厚なエレクトロ/メタル調の楽曲が戦闘を強力に後押しします。音響面でも各種エフェクト、アンビエンス、敵の声や被弾音が洗練されており、視覚と音響が合わさることで没入感が高まります。BGMとゲームプレイの同期感は多くのレビューで高く評価され、DOOMのアイデンティティ再生に寄与しました。
マルチプレイヤーとSnapMap:拡張性と反応
発売当初、本作はシングルプレイヤー重視の設計ながらマルチプレイヤーも実装しました。マルチは従来の対戦モードを踏襲しつつ、DOOMらしさを出そうとした試みが見られますが、リリース時には“やや平凡で伸び悩む”という評価も受けました。一方、SnapMapというビジュアルスクリプトベースのマップ作成ツールは、非プログラマーでも独自マップやゲームモードを作れる点で注目を集め、コミュニティの創作活動を刺激しました。公式サポートは順次変化しましたが、SnapMapはカスタムコンテンツ作成の可能性を示した重要な機能でした。
評価と影響:復活の成功と課題
批評面ではシングルプレイヤーキャンペーンの設計と戦闘の爽快感が高く評価され、従来作の精神を現代的に蘇らせた成功例として賞賛されました。一方でキャンペーンの短さや、マルチプレイヤーの期待値との差、また一部での単調さを指摘する声もありました。しかし総じて本作は“アクションの再評価”という点で業界に強いメッセージを送ったと言えます。後の『DOOM Eternal』(2020年)にも繋がる戦闘哲学や設計上の考え方は、本作を通じて多くの開発者に注目されました。
技術面:id Tech 6とパフォーマンス
id Tech 6は柔軟なレンダリングと高フレームレートを両立できるエンジンで、PCや据え置き機での最適化が進められました。PC版ではローンチ後の更新でさらなる最適化や機能追加(マルチスレッド改善やAPIサポート強化など)が行われ、後続のアップデートは安定性とパフォーマンスに寄与しました。一部ではプラットフォーム上の仕様差や調整が議論になりましたが、視覚・操作感ともに高水準を維持しています。
総括:伝統と革新のバランス
DOOM(2016)は単なるノスタルジーに留まらず、FPSのコア体験を現代に合わせて再構築した稀有な例です。攻めの設計哲学、緻密なレベルデザイン、音響の強化が結びつき、短時間で強烈な印象を与える作品となりました。批判も存在しますが、それらは改良の余地を示すものであり、続編や他作品への示唆として機能しています。DOOMはシリーズの伝統を尊重しつつ、現代ゲームデザインにおける“アグレッシブな楽しさ”を再提示しました。
参考文献
DOOM (2016) - Wikipedia
DOOM | Bethesdasoftworks(公式)
id Software(公式)
DOOM Review - IGN
DOOM Review - GameSpot
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