再生骨材の基礎と実務:設計・施工・環境評価までの徹底ガイド

はじめに — 再生骨材とは何か

再生骨材(さいせいこつざい)は、建設現場や解体工事などで発生したコンクリート塊やアスファルトコンクリート、レンガ、タイル等の建設系廃棄物を破砕・選別・洗浄などの処理を施して得られる骨材の総称です。天然採取の砂利や砂に替わる資源として、資源循環・廃棄物削減・CO2排出削減の観点から世界的に注目されています。日本でも建設リサイクルや官民の導入促進策により、利用が拡大しています。

再生骨材の分類と原料構成

  • 再生粗骨材(粗骨材相当): 破砕され粒径が粗いもの。元はコンクリート塊やアスファルトコンクリートが多い。
  • 再生細骨材(細骨材相当): 砂利よりも細かい粒度に加工されたもの。コンクリートやモルタルの破片からなることが多い。
  • 混合系再生骨材: セメント系、アスファルト系、陶磁器系などが混在する場合もある。用途によっては分離・分級が必要。

再生骨材の物性は、元材(原材)や破砕方法、除去処理(付着モルタルの除去等)に左右されます。特にコンクリート由来の再生骨材は“付着モルタル”が残存するため、吸水率や比重、粒形、粉塵量などが天然骨材と異なります。

製造工程(一般的なフロー)

  • 受入・選別: 異物(鉄筋、木材、プラスチック等)を除去。
  • 一次破砕・二次破砕: 粗破砕機と細破砕機で段階的に粒度を整える。
  • 選別・ふるい分け: 粒度ごとに分類。
  • 磁選やほこり除去、洗浄: 金属片や微粉を取り除く処理。
  • 品質検査・袋詰め: 出荷前の物性確認(吸水率、密度、強度指標等)。

物理・化学的特性と設計上の影響

再生骨材は一般的に以下の特徴を持ち、これらがコンクリートの設計・施工に影響します。

  • 吸水率の増加: 付着モルタルに起因する多孔性が吸水率を高くし、混和材料の実効水セメント比(実効W/C)を変動させる。混合後のスランプ低下や乾燥収縮増大の原因となる。
  • 比重の低下: 天然骨材に比べ比重が小さいため、体積あたりの重量設計に注意が必要。
  • 粒形・粒度分布の不均一性: 破砕形状や粉砕度合いによりワーカビリティや骨材間のかみ合いに影響。
  • 付着物の存在: アスファルト片や有機物、汚れが混在していると付着性や長期耐久性に影響。
  • 化学的な懸念: 海砂由来や塩分を含む材料の混在は、塩化物による鉄筋腐食リスクを高める。

設計・配合上の実務的ポイント

再生骨材を用いる場合、以下の配慮が実務上重要です。

  • 品質規格の確認: 産業者提供の品質試験値(吸水率、比重、砕石率、塩化物量等)を受入前に確認する。
  • 含有率の設定: 用途に応じて再生骨材の置換率を決める。一般に構造用コンクリートでは粗骨材の一部(例:一桁〜数十%)から慎重に導入し、非構造用途では高置換率が可能。
  • 予備給水(プレウエッティング): 再生骨材の高吸水を考慮し、事前に水で含水率を安定させる方法が用いられる。これにより実効W/Cの変動を抑えられる。
  • 混和材・補助材の活用: フライアッシュやシリカフュームなどの補助セメント材(SCM)を併用すると、ワーカビリティや長期強度・耐久性の改善に寄与する。
  • 配合調整: 骨材分級の変化を踏まえて粗骨材と細骨材の比率、単位水量を調整する。必要に応じて減水剤でスランプを確保する。

代表的な適用分野と適用上の注意

  • 路盤材・路床材、盛土・埋戻し材: 不均一性や耐久性の要求が低い用途では広く利用されている。排水性や締固め特性に注意。
  • 非構造コンクリート(敷石、歩車道、仮設構造物): 高い置換率が可能でコスト削減効果も大きい。
  • 構造用コンクリート: 適切な品質管理と設計調整を行えば利用可能。ただし、耐久性(凍結融解、塩害、アルカリ骨材反応)に対する評価が必要。
  • プレキャスト製品: 工場で制御された条件下で加工できるため、再生骨材の均質化や処理を行えば品質確保が比較的容易。

品質管理と試験項目

再生骨材の使用に当たっては、以下の試験を含む品質管理が推奨されます。

  • 吸水率、比重、表面含水の測定
  • 粒度(ふるい)分析、粉塵含有量
  • 塩化物含有量、硫酸イオン等の化学試験
  • 付着モルタル割合(破砕物の分別や化学的評価)
  • コンクリート特性試験(スランプ、圧縮強度、浸透係数、凍結融解抵抗等)

環境影響とライフサイクル評価(LCA)の観点

再生骨材の導入は搬送距離や処理工程に依存するものの、一般的には以下の環境効果が期待できます。

  • 天然骨材の採取抑制による生態系・景観の保全
  • 埋立量の削減、廃棄処理コストの低減
  • 原料採取・輸送・破砕に伴うCO2排出は発生するが、天然砕石採取全体と比較してトータルでCO2削減となるケースが多い

ただしLCA上の優位性は、現場から処理施設までの運搬距離、破砕処理のエネルギー効率、製品寿命などに左右されるため、導入前に現地条件で評価することが重要です。

課題と技術的な対策

再生骨材普及の障壁と考えられる点、およびそれに対する技術的対策を整理します。

  • 品質のばらつき: 原料分別の徹底、供給先の認証やロット管理で対応。
  • 吸水率・付着モルタルによる性能低下: プレウエッティング、表面改質(セメントスラリー、微粉材料によるコーティング)、熱処理などの処理技術の活用。
  • 長期耐久性評価の不足: 長期試験データの蓄積、現場実績の公開による信頼性向上。
  • 経済性: 大量に安定供給できるリサイクルプラントや近傍での処理体制を整備するとコスト競争力が高まる。

現場管理・施工上の注意点

  • 受入検査の徹底: ロットごとの物性確認を標準化する。
  • 混合順序・混練管理: 再生骨材の含水状態に応じた給水管理、場合によっては二段混練(骨材の予湿工程を設ける)を採用。
  • 打設・締固め: ワーカビリティ低下を補うための可塑剤使用や、締固め時の振動条件の最適化。
  • 養生管理: 早期乾燥を避けるための適切な湿潤養生、寒冷期や高温期の環境対策。

将来展望 — 技術開発と普及促進の方向性

再生骨材の普及をさらに進めるため、次のような取り組みが期待されます。

  • 処理技術の高度化: 付着モルタルの効率的除去や表面改質技術、分級・分離技術の改善。
  • 標準化と認証制度の充実: 品質規格や供給者認証、表示ラベルにより発注者の安心感を高める。
  • 現場での施工マニュアル整備: 設計・配合・施工の“成功事例”集と詳細な運用ガイドライン。
  • デジタル化によるトレーサビリティ: 原料由来や処理履歴をデータで管理し、品質の可視化を図る。
  • 経済インセンティブ: 公共工事での積極採用や補助金・税制優遇といった政策的支援。

まとめ

再生骨材は、資源循環と環境負荷低減の面で大きな可能性を持つ一方、品質のばらつきや物性差が設計・施工に影響するため、適切な品質管理・配合設計・施工管理が不可欠です。用途別に要求性能を明確にし、事前評価(材料試験・LCA等)と現場での管理体制を整えることで、構造物の安全性と長期耐久性を確保しつつ、持続可能な建設を実現できます。

参考文献