再生粗骨材(RCA)の基礎と実務――性能・設計・施工・環境影響を徹底解説

はじめに:再生粗骨材とは何か

再生粗骨材(Recycled Coarse Aggregate、以下「再生粗骨材」または「RCA」)は、既存のコンクリート構造物やコンクリート廃材を破砕・選別・処理して得られる粗骨材です。天然の砕石に代替してコンクリートや路盤材、埋戻し材などに利用され、建設資材の循環利用を実現する重要な素材です。本稿では、RCAの定義と分類、製造工程、物性とその影響、設計・施工上の留意点、環境的意義、課題と最新技術動向までを詳しく解説します。

1. 再生粗骨材の分類と原料

再生粗骨材は原料や生成方法により以下のように分類されます。

  • コンクリート系再生骨材:既存コンクリートから得られるもので、最も一般的。破砕片には旧来の硬化モルタル(付着モルタル)が付着している。
  • 混合系やアスファルト混合系:道路アスファルト混合物や混合廃材からの骨材。舗装材用途が中心。
  • 選別・処理度による分類:単純破砕のみのもの、洗浄や選別を施した高品質型、さらに化学的または熱処理で付着物を除去した高付加価値型、など。

2. 製造工程(概略)

典型的な製造工程は次の通りです。

  • 回収・分別:現場や産業廃棄物置場からコンクリート廃材を回収し、鉄筋などの異物を除去する。
  • 一次破砕・二次破砕:大型塊を破砕機で粗破砕し、必要に応じて二次破砕で粒度を整える。
  • 選別(ふるい分け):所定の粒度に分級する。細骨材と粗骨材に振り分けられる。
  • 洗浄・磁選・風選:付着する土質や有機物、鉄片を除去するための処理。
  • 品質検査・調整:水分や含有塩化物、付着モルタル率などの検査を行い、必要に応じてさらに処理。

3. 再生粗骨材の主要な物性と特徴

再生粗骨材は天然骨材と比較していくつか代表的な特性を持ちます。

  • 付着モルタル(Adhered Mortar):旧コンクリートのモルタルが粒子に付着しているため、吸水率が高く、比重は一般に小さい。
  • 吸水率が高い:付着モルタルのため水吸収率が大きい(天然骨材の数倍になることもある)。
  • 粉塵・微粒分の含有:破砕過程で発生した微粉が多いとワーカビリティや結合に影響する。
  • 強度・耐摩耗性:粒子の強度は原コンクリートの品質に左右され、必ずしも天然岩石に劣るとは限らないが、ばらつきが大きい。
  • 化学成分:塩化物や硫酸塩、アルカリなどの含有が問題となることがあり、特に耐久性設計で検査が必要。

4. 再生粗骨材がコンクリート特性に与える影響

RCAをコンクリート骨材として使用すると、主に以下の点が影響を受けます。

  • ワーカビリティ:高い吸水率や微粉の影響で初期の混和水の取り合いが変わり、流動性が低下しやすい。これには高性能減水剤や事前吸水(プレウェット)の対策が有効。
  • 圧縮強度:同じ配合・水セメント比(w/c)で比較すると、RCA混合コンクリートはやや圧縮強度が低下する傾向がある。ただし、適切な混合設計やRCAの品質管理でほぼ同等にすることも可能。
  • 弾性係数・靭性:弾性係数が小さく、裂缝進展に対する挙動が変化する場合があるため、構造設計時の評価が重要。
  • 収縮・乾燥収縮:付着モルタルの乾燥特性により乾燥収縮が増加する場合がある。乾燥収縮はひび割れや耐久性に影響する。
  • 耐久性:含有塩化物や硫酸塩、アルカリ量により、塩害・内部膨張(ASR)・凍結融解に対する性能が変わるため、事前検査や適切な補正が求められる。

5. 設計上の対応策(実務的な指針)

RCAを用いる際の実務的な設計上の注意点は次のとおりです。

  • 置換率の検討:RCAの置換率(粗骨材に対する体積または質量割合)は用途により異なる。一般に、構造物の主要荷重を受ける部位では慎重に段階的に導入(例えば粗骨材の10〜30%から開始)し、性能確認の上で拡大する。プレキャストや非構造部材、路盤材では高置換率・全置換も検討される。
  • 混合設計の最適化:RCAの高吸水率を考慮し、原材料の吸水率を配合計算に反映させる。プレウェット(再生骨材を事前加水して吸水を安定化)や混和剤(高性能減水剤、AE剤など)の活用が一般的。
  • 品質規格と試験:粒度、吸水率、比重、付着モルタル率、塩化物量、硫酸塩量、ロスアンザス摩耗値などを規定し、受入れごとに検査することが重要。
  • 耐久性評価:塩害地域や耐久性が重要な構造物では、透水性・塩化物拡散係数、凍結融解試験、ASR感受性試験などを実施し、必要ならば混和材や防食措置を組み合わせる。

6. 施工上のポイント

施工段階では以下の点に留意してください。

  • 現場ごとの受入試験:ロットごとに品質が変動するため、受入れ時の検査体制を確保する。
  • プレウェット処理:再生粗骨材は施工直前に所定の含水状態にする(吸水を事前に満たす)ことで、スランプの安定性や強度ばらつきを低減できる。
  • 混練工程の管理:一般に混練時間を延長し、均一な分散を図る。撹拌順序を工夫(先に粗骨材を湿潤化してからセメントを投入)する二段階混練法が効果的な場合がある。
  • 仕上げ・締固め:気泡や空洞の混入を防ぐための締固め確実性、養生の徹底が重要。乾燥収縮抑制のための初期養生(散水、膜養生など)を行う。

7. 規格・ガイドライン(国内外の動向)

各国でRCA利用のためのガイドラインや規格が整備されています。日本国内でも国土交通省や関連学会が利用ガイドラインや技術資料を公表し、公共工事における利用促進が進められています。欧米・英国などでも設計・施工の指針や品質基準が示され、用途ごとの置換限度や試験法が具体化されています。実案件では、該当地域の最新ガイドラインを確認して遵守することが必須です。

8. 環境性とライフサイクル評価(LCA)の効果

RCA利用は以下の点で環境負荷低減に寄与します。

  • 天然資源の消費削減:採石による自然環境破壊や景観影響を低減。
  • 廃棄物の削減:コンクリート廃材の埋立量を減少。
  • CO2排出量削減:骨材輸送距離短縮や、場合によってはセメント含有量削減によるLCA上のメリットが得られる。

ただし、破砕・洗浄等の処理でエネルギーを消費するため、LCAでは処理条件・輸送距離・利用率によって効果が変動します。設計段階でLCAを実施して最適利用戦略を検討することが望ましいです。

9. 課題とリスク管理

RCAの実用化・普及にあたっての主な課題は次の通りです。

  • 品質のばらつき:原材料の由来や処理度によって物性が大きく変動する。安定供給のためには処理プラントの標準化と品質管理が重要。
  • 汚染物(有機物・塩化物等):塩化物含有が高いと塩害リスクがあるため、塩化物濃度の管理が必要。
  • 市場受容性:設計者・施工者・発注者の間で性能に対する信頼性確立が課題。試験結果や事例を通じた標準化が鍵。
  • 規制と補助制度:行政の規制緩和やインセンティブがないと普及が進まない場合がある。

10. 技術開発と最新の取り組み

近年の研究・技術開発では、RCAの欠点を補う多数の手法が開発されています。

  • 物理的・化学的強化処理:付着モルタルの剥離や界面改質を目的とした熱処理、化学洗浄、二次コーティング(シリカ系溶液の浸透)など。
  • プレミックス改良:プレキャスト工場で高品質に制御してRCAを用いることで安定した製品化を実現。
  • ハイブリッド設計:天然骨材とRCAの最適組合せ、二段階骨材配置(粗骨材はRCA、表層は天然骨材など)による機能最適化。
  • 高性能混和材との併用:微粉末(シリカフューム、フライアッシュなど)や高性能減水剤で強度・耐久性を補償。
  • デジタル品質管理:サプライチェーン追跡、ロット管理、オンライン検査で品質ばらつきを低減。

11. 実務チェックリスト(現場・設計者向け)

現場でRCAを導入する際の簡潔なチェックリストです。

  • 用途の適合性確認(構造部位・環境条件・耐久要求)
  • RCAの受入試験項目と閾値の設定(吸水率、塩化物、粒度、付着モルタル率等)
  • 混合設計における事前試験(スランプ、圧縮強度、乾燥収縮試験など)
  • 施工時のプレウェット・混練プロセスの明確化
  • 養生・締固め・品質管理体制の確立(検査記録の保持)
  • 供給ロットごとの追跡管理と不適合時のリスク対応手順

まとめ

再生粗骨材は持続可能な建設資材として大きな可能性を秘めています。品質やばらつきの課題はあるものの、適切な処理・品質管理・混合設計・施工管理を組み合わせれば、構造物への適用は十分に可能です。行政のガイドラインや学会の技術資料、現場での実績を基に段階的に導入を進めることが、環境負荷低減と資源循環の両立につながります。

参考文献