ゴルフ場で知っておくべき「セントオーガスティン芝」の特徴と管理法 — コース設計・維持の実務ガイド
はじめに:セントオーガスティン芝とは何か
セントオーガスティン芝(学名:Stenotaphrum secundatum)は、暖地型(warm-season)の緑化用芝草で、北アメリカ南部から熱帯・亜熱帯地域で広く利用されています。葉幅が比較的太く、地下茎(ストロン)や匍匐茎で広がる性質をもち、繁茂力が強いことが特徴です。住宅の芝生や公園だけでなく、温暖地域のゴルフ場においても、特にラフやセミラフで採用されることがあります。本稿ではゴルフ場運営の観点から、セントオーガスティン芝の基礎特性、コースでの使い方、具体的な管理法、長所と短所を詳しく掘り下げます。
基本的な特徴
成長環境:高温・多湿を好み、10〜35℃程度の温暖期に旺盛に生育します。寒冷には弱く、霜や低温で容易に傷みます。
葉の形状と質感:葉は幅広でやや粗い手触り。見た目にボリュームがあり、ラフの受け止め力やボールの止まりやすさを確保しやすいです。
耐陰性:暖地型芝の中でも比較的高い耐陰性をもち、木陰や日照が限られるエリアでも比較的維持しやすい点がメリットです。
耐塩性・耐湿性:海岸近くなど塩害のある地域でも比較的耐える傾向があり、水はけが悪い所でも生育する場合がありますが、長時間の過湿には弱いので注意が必要です。
生育様式:匍匐性(ストロン)で広がるため、土壌被覆性が高く雑草抑制効果も期待できます。
ゴルフ場での利用実態と適用部位
ゴルフ場では、芝種ごとに求められる性能が異なります。セントオーガスティン芝は葉幅が太く低刈り適性が低いため、グリーンや通常のフェアウェイ(低刈りを要求する部分)には向きません。一般的には以下のエリアでの活用が現実的です。
ラフ:芝のボリュームや止まりやすさ、景観を優先するラフで広く用いられる。ボールが止まりやすく、打ち出しの難易度を上げる効果があります。
セカンドラフやサイドエリア:フェアウェイ周辺の管理が簡易なエリア、または樹木の多いホールの周辺など日陰がちな箇所。
海岸線近くや塩害を受けるコースの一部:塩害耐性を活かして導入されることがあります。
刈り高さと刈り方( mowing )
セントオーガスティン芝は低刈りに向かないため、刈り高を高めに設定する必要があります。一般的な目安は刈高6〜10cm程度(2.5〜4インチ)で、ラフ用途であればさらにやや高めにすることもあります。刈り幅や刈り頻度は、見た目とボールの転がり(止まりやすさ)を見ながら決めますが、過度な低刈りは草体を傷め、病害や侵食を招きます。刈り残しが多いと密度が下がるので、定期的に適正な頻度で刈り込み、刈り取り量を分散させることが重要です。
灌水(かんすい)と乾燥ストレスへの対応
セントオーガスティンは浅根性であるため、土中の水分を保つことが維持の鍵になります。中程度の乾燥耐性はあるものの、長期間の乾燥は枯死や衰弱を招きます。灌水計画のポイントは以下の通りです。
頻度と量のバランス:浅根なので少量を頻繁に与えると根が表面に偏りやすくなる反面、深く間隔を空けすぎると乾燥で枯損することがあるため、地域の降雨と土壌性状を踏まえた散水計画を立てる。
土壌の保水改善:必要に応じて有機物の補給や土壌改良を行い、保水性を高めることが望ましい。
季節調整:高温期は蒸発量が多く灌水量を増やす、休眠期は散水を控えるなど季節変動に応じた管理が必要。
施肥(肥料)と栄養管理
施肥は土壌検査に基づくことが基本です。セントオーガスティンは肥料に反応して成長が促進されるため、窒素(N)を中心に与えますが、過度の窒素は病害や雑草の発生を促すことがあるため注意が必要です。ポイントは以下です。
土壌検査の実施:pHやP・K含有量を把握し、必要な改良を行う。
緩効性肥料の活用:急激な生育促進を避け、安定した成長を促すために緩効性肥料が有効。
季節ごとの施肥:生育期の春〜夏に主に施肥し、秋以降は生育が落ちるため抑制する。
病害虫とその防除
代表的な問題として、以下が挙げられます。
チンチュウバグ(chinch bug):セントオーガスティン芝で特に問題となる害虫で、乾燥した環境下で被害が拡大しやすい。被害は葉枯れや褐色化として現れる。
さまざまな葉枯れ病や根腐病:高温多湿や排水不良があると発生しやすい。病原の特定に基づく診断と防除が必要。
その他の害虫:ソッドウェブワームやモグラ類など、地域により異なる害虫被害が発生する。
防除は発生初期の早期発見・適切な農薬選択・耕種的防除(排水改善、空気通気性の向上、適正施肥)を組み合わせることが重要です。診断が難しい場合は、地域のアグリカルチャー拠点や専門業者にサンプルを持ち込んで確定診断を受けることを推奨します。
代表的な品種と選択のポイント
セントオーガスティン芝には多くの品種があり、耐病性、生育速度、耐陰性、耐寒性などが品種間で差があります。代表的な品種としてはFloratam、Palmetto、Raleigh、Sevilleなどが知られていますが、どの品種を選ぶかはコースの立地(気候、日照、塩害の有無)、管理体制(刈高、灌水、予算)、求める景観やプレー特性に合わせて検討します。
導入時の注意点(改植・張芝・種子)
張芝(sod)による導入が最も確実:既存の土壌条件に合わせた根付きを促すため、張芝やマット工法が一般的。
種子は一般的に流通が少なく、品種固定や均一化が難しいため、商業的導入では張芝や挿し木(スプリンクリング)による導入が多い。
既存のコースデザインとの整合:フェアウェイやグリーン用芝との境界管理、ボールライの整合性を考慮した設計が必要。
セントオーガスティン芝のメリット・デメリット(ゴルフ場目線)
メリット:耐陰性や塩害耐性、被覆性の良さからラフや木陰の回復が早い。見た目のボリューム感があり景観に寄与する。
デメリット:低刈りに不向きでフェアウェイやグリーンには使いにくい。耐寒性が低く、寒冷期には枯損リスクがある。チンチュウバグなど特有の害虫問題が発生しやすい。
メンテナンス実務のチェックリスト
土壌診断を定期的に行い、pH・養分を把握する。
灌水システムはゾーニングして土壌条件や日照による散水差を設ける。
刈高を守り、過度の低刈りをしない。刈り残しと刈り過ぎのサイクルに注意する。
病害虫は早期発見・早期対処。定期巡回とスカウティング(調査)を習慣化する。
緊急時の代替案:寒害や大規模な病害が出た場合に備え、代替芝種や張替えの計画を用意しておく。
まとめ:導入判断と長期運営の考え方
セントオーガスティン芝は、温暖な気候、木陰や海岸近くの立地、ラフを重視する設計方針のゴルフ場には有力な選択肢です。一方で低刈りや寒冷地条件には不向きであり、導入前に品種選択、土壌改良、灌水設備や防除計画を慎重に設計することが成功のポイントです。ゴルフ場における「プレー性」と「保守負担」のバランスを見極め、試験区での運用を経て全面導入を検討する段取りが推奨されます。
参考文献
University of Florida IFAS Turfgrass Science(セントオーガスティン芝に関する各種資料)


