属七和音(ドミナント・セブンス)の構造と機能 — 解決・応用・ジャズでの扱いまで徹底解説
属七和音とは
属七和音(ぞくしちわおん、英: dominant seventh chord)は、長三和音に短七度を加えた四和音で、和声学・ジャズ・ポピュラー音楽で極めて重要な役割を果たします。機能和声においては「ドミナントの機能」を持ち、主和音(トニック)へ向かう強い推進力を生み出します。西洋音楽の調性体系に不可欠な和音で、代表的な記譜は“V7”(ローマ数字)や“G7, C7”のようなコードシンボルで表されます。
構成音と基本的な性質
属七和音は、根音(1度)、長三度(3度)、完全五度(5度)に加え小七度(♭7)を重ねた形です。たとえばハ長調(Cメジャー)では、V7 は G–B–D–F(5–7–2–4の音階度)になります。特徴的なのは和音内部に含まれる増四度(あるいは減五度、トライトーン)です。具体的にはこの和音の3度と7度の間に三全音(6半音)が生じ、強い不安定性(テンション)と解決の欲求を生みます。
機能和声における働きと解決
属七和音の主要な機能は「トニックへ向かう導き」です。古典的な作用は次の通りです。
- 導音(和音の3度にあたる音)→ 上方へ進行してトニックの根音に解決する(例: G7 の B → C)。
- 和音の7度(短七度)→ 下方へ解決してトニックの3度に行くことが多い(例: G7 の F → E)。
- 五度は一般に根音へ(D → C)あるいは保留される。
このような声部進行により、V7 → I(完全終止)という最も基本的で強い終止形が成立します。V7 が持つ解決欲求が、調性感を明確にします。
声部進行の細かいルール(古典的処理)
古典的な対位法・和声法では、属七和音はしばしば「不協和音」として扱われ、個々の音は解決が求められます。代表的なルールを挙げます。
- 和音の7度は必ず解決(下降)させる。例: F → E。
- 導音(和音の3度)は上へ解決させるのが原則。例: B → C。
- 完全五度の平行移動(完全五度の平行)や完全八度の平行は避ける。
- V7 がI に解決する際、内声に保留や掛留音を作ることができるが、主要な傾向音は解決させる。
転回と配置(voicing)
属七和音にはいくつかの転回形(第一転回、第二転回、第三転回)があります。第三転回(7th in bass)では七度がベースに来るため、最も不安定とされますが、連続進行やリズム効果で頻出します。ピアノやギターでの実用的なボイシングでは、5度を省略しても機能は保たれることが多く(特にジャズ)、3度と7度の関係(トライトーン)を意識した配置が重要です。
進行パターンと終止形
代表的な使用例:
- V7 → I(完全終止):最も強い終止。
- V7 → vi(欺瞞終止、Deceptive cadence):期待されたIではなくviに進むことで驚きや続行感を生む。
- 二重終止(plagal)や半終止(VやV7のまま等)など、文脈に応じた変化がある。
二次的属和音(Applied Dominants, Secondary Dominants)
属七和音は調の外へ拡張して、ある和音に向かうための「二次的なドミナント」として用いられます。たとえば C メジャーで「V/V」は D7(D–F#–A–C)であり、これはV(G)へ進むための強化された導線です。二次的属和音のポイントは、その和音が一時的に調の外(異名同音や借用和音を含む)へ導くため、導音が調号の変更を伴うことがある点です。
変化型・拡張(テンションと代替和音)
ポピュラー音楽やジャズでは、属七和音は拡張されて豊かなテンションを持ちます。代表的な変形:
- 9th(9): 9度を加えた V9(例えば G9 = G–B–D–F–A)。
- 11th / 13th: 11度(4度のテンション)や13度(6度のテンション)を加えることで色彩が増す。
- altered(変化): b9, #9, #11, b13 などを含む。これらは特に“altered dominant”として解決の強度と色彩を高める。
これらのテンションは、どのテンションが使えるかはスケール選択(後述)とアレンジ次第です。ジャズでは7度が必須だが5度は省略される場合が多く、3度と7度を操作して和声音色を作るのが常套手段です。
スケールとの関係(スケール選択)
代表的なスケール:
- ミクソリディアン(Mixolydian): 1–2–3–4–5–6–b7。属七和音の最も基本的なモード。
- オルタード(Altered / Super Locrian): 1–b9–#9–3–#11–b13–b7。テンションを豊富に含む。
- 全音音階(Whole Tone): #5/#11系の色を出す。
- 減七音階(半全音列): diminished dominant として b9や#9を生じさせる。
- リディアン・ドミナント(Lydian Dominant): 1–2–3–#4–5–6–b7。#11を使いたい時に適合。
曲の文脈やソロの語法によりこれらのスケールを使い分けることで、同じV7でも異なる色彩と解決の含みを生み出せます。
トライトーン置換(Tritone Substitution)
ジャズではV7を平行移調的に置き換える技法としてトライトーン置換が多用されます。V7 のトライトーン(3度と7度)は、その平行五度離れた属和音(♭II7)と同一のトライトーンを共有するため、例えば G7(B–F)を D♭7(F–C♭(=B))に置換して滑らかな半音移行やベースラインの下降を作れます。トライトーン置換は和声的に興味深い二義的な導音を提供しますが、解決先の和音(通常はI)へ向かう力は維持されます。
古典音楽とジャズ/ポピュラーでの扱いの違い
古典派〜ロマン派の和声法では、7度は基本的に解決を求める“不協和対応”として扱われ、和声の厳密な処理が要求されました。一方、ジャズ/ポップスでは7度は“和音の一部”として扱われることが多く、テンションの融合や異種和音の導入が積極的に行われます。結果として、同じ V7 でも古典と現代音楽では機能と処理が異なります。
実例と分析(簡単な進行)
例1(基本): C – G7 – C (I – V7 – I) この進行では G7 の B → C、F → E という解決が典型的に行われ、確かな終止感を生む。
例2(欺瞞終止): C – G7 – Am (I – V7 – vi) 期待されるIではなくviへ行くことで、調性感を保ちながら展開を作る。
例3(ジャズ的): Cmaj7 – E7 – A7 – Dm7 – G7alt – Cmaj7 ここでは E7, A7 が順に二次的属和音として機能し、G7alt の強いテンションが Cmaj7 へ劇的に解決する。
作曲・編曲上の実用的アドバイス
- 和声の流れを作る時は、V7 の3度と7度(導音と短七度)を意識して声部を書き分けると、自然な解決が得られる。
- 厚みが欲しいときは9度や13度を加える。しかし内部のテンションがぶつからないように注意する(例: 9と#11は同時に使いにくい)。
- ポピュラー系では5度を省略しても問題ないが、3度と7度は和音の機能を決めるため重要。
- トライトーン置換やオルタードなテンションは、色彩を増すが解決先との関係を常に考慮すること。
まとめ
属七和音は調性音楽における最も力強い推進力の一つで、トニックへの強い導き、二次的属和音やトライトーン置換など多彩な応用が可能です。クラシックでは解決を重視する不協和音として、ジャズやポップスではテンションの源としてそれぞれ異なる扱いを受けます。作曲や即興で扱う際は、導音と和音の7度の動き、さらには用いるスケール(ミクソリディアン、オルタード、全音など)を意識することで、意図した表情を作れます。
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参考文献
- Dominant seventh chord — Wikipedia
- Dominant-seventh chord — Encyclopaedia Britannica
- MusicTheory.net: Seventh chords
- What Does "Dominant Function" Mean? — Berklee
- Tritone substitution — Wikipedia
- Mark Levine, "The Jazz Theory Book" (jazzにおける属和音とテンションの扱いについて)
- Walter Piston, "Harmony"(古典和声学の標準教科書)


