9thコード徹底解説:構造・表記・ボイシング・実践的な使い方まで
序論 — なぜ9thコードを学ぶべきか
9thコードは、ポップスからジャズ、ロック、R&Bまで幅広い音楽ジャンルで用いられる「拡張和音」の代表格です。三和音や四和音に比べて色彩感が豊かで、コード進行に滑らかさや緊張・解放のニュアンスを与えます。本稿では9thコードの理論的な成り立ちから表記の違い、スケール選択、ピアノ・ギターでの実践的ボイシング、声部進行(ボイスリーディング)やジャンル別の用法まで、できる限り正確にかつ実践的に解説します。
9thコードの基本構造と種類
9thコードとは、基本的にルート(1度)、3度、5度、7度に加えて9度(2度)を重ねた和音です。音程的にはルートから順に長3度・完全5度・短7度または長7度・長9度(または変化させた9度)と積み重なります。代表的な種類は以下の通りです。
- ドミナント9(例:G9):R–3–5–b7–9。機能和声のV9として用いられ、進行の推進力とテンションを提供します。
- メジャー9(例:CMaj9):R–3–5–7–9。7度が長7度(長和音の7度)で、穏やかで透明な色合いを持ちます。
- マイナー9(例:Dm9):R–b3–5–b7–9。マイナー・コードに第9音を加えた温かく深みのある響き。
- add9(例:Cadd9):R–3–5–9。7度を含まないため、拡張感はあるがドミナント的な推進力は弱い。
表記の違い:9、maj9、add9 は何が違うか
コード表記は重要です。一般的な慣習は次のとおりです。
- C9(単に9と表記):通常はドミナント的な意味合いで、b7(短7度)を含むものを指す。例:C9 = C–E–G–B♭–D。
- Cmaj9:長7度を含むメジャー・セブンス・コードに9度を加えたもの。例:Cmaj9 = C–E–G–B–D。
- Cadd9:7度を含まない。メジャーまたはマイナー・トライアドに第9音を加えたもの。よりシンプルでポップスでよく使われる。
補足として、9thコードは5度や3度を省略して演奏されることが一般的です(特にギターやバンドで)。そのため表記と実際の音が完全に一致しない場合もありますが、機能的には上記の区別が使われます。
スケールとモードの選択
9thコードに適したスケール選びは、そのコードの機能(ドミナント、メジャー、マイナー)によって変わります。
- ドミナント9(例:G9):基本的にはミクソリディアン(Gミクソリディアン=G A B C D E F)が対応します。テンションとしては9(2)が自然な選択です。さらにテンションを変化させたい場合はオルタードスケール、ヘル・ミックスなどを用いることがあります。
- メジャー9(例:Cmaj9):イオニアン(Cイオニアン)やリディアン(#11を加えたい場合)を使います。9度は音像を拡げる色彩ですが、7度が長7度なので安定した音色になります。
- マイナー9(例:Dm9):ドリアン(Dドリアン=D E F G A B C)やナチュラルマイナー(エオリアン)を選ぶことが多いです。マイナー9はメロディックマイナーを使うことで独特の響きを得ることもできます。
テンションとしての9の扱いと解決感
9度は2度の拡張として考えられ、7度と同様にテンション(非和声音)として機能することが多いです。特にドミナント系の9は和音の緊張感を高め、解決(たとえばV→I)したときに豊かな色彩変化を生みます。
一般論として、7度は半音下行する傾向があり、9度は状況によって動きが変わります。9度が上行・下行のどちらへ解決するかは周囲の和声や声部の役割に依存します。したがって声部進行を設計する際は、各パートの目的(根音の安定、テンションの解消、メロディとの兼ね合い)を明確にすることが大切です。
実践的なボイシング:ピアノとギターの例
9thコードはそのまま全音を鳴らすと濁ることがあるため、楽器ごとに省略と配置の工夫が行われます。
ピアノでの定番ボイシング
- Root position(全音使用): Left: R, Right: 3–7–9。5度は省略しても良い。
- Rootless voicing(ジャズピアノ): Left: 3–7(ベースはルート)、Right: 9–13など。例:G9でB(3)とF(b7)を左手、A(9)とE(13)を右手。
- Spread voicing(広がりを持たせる): 右手に3–9–7を拡げて配置し、左手でルートを支える。
ギターでの定番フォーム
- Cadd9(ポップ): x32030 や x32033 のような形はポップ/フォークでよく使われる。
- ドミナント9の一般形(バレーを使う): x 10 9 10 8 10 など、ベースや弦の省略で音を整理する。
- #9やb9の扱い: ロックでは3度と#9を同時に使う(ジミ・ヘンドリックスの例)ことで強烈な不協和音を作り出す。
ギターでは6弦までの制約から第5音や3度を省略することが多く、add9やsus系と組み合わせることで明確なサウンドを作ることができます。
ジャンル別の使われ方と実例
- ジャズ:9thは標準的な拡張として扱われ、ドミナント9やメジャー9、マイナー9などがコード進行の豊かな色づけに不可欠です。ルートレス・ボイシングやテンション(9,11,13)の選択が演奏の鍵。
- ポップ/フォーク:add9は優しい広がりを演出。ギターの開放弦を使ったvoicingが多く、ボーカルの伴奏で頻繁に登場します。
- ロック/ブルース:dominant 9や#9は刺激的なテンションとして使用される。ブルージーなソロやリフに緊張感を与えます(#9はJimi Hendrixの代表的使用例として有名)。
アレンジと録音時の注意点
9thを多用すると混濁しやすい場面があります。特に低域で9度と3度やルートが近接すると倍音干渉による濁りが生じるため、低音帯では5度や9度を避け、上声部で色付けするのが一般的です。ミックス時にはEQで不要な帯域を整理し、ステレオ幅やリバーブで9thの空間的な広がりを演出すると効果的です。
ボイスリーディング(声部進行)の実務的なコツ
- テンション(9や11や13)はしばしば上声部に配置し、低声部はルートや3度で和音の骨格を保つ。
- 共通音を保持することで滑らかな進行を作れる(例:Cmaj9→Am7でEやGを共通音として使う)。
- ドミナントからトニックへの解決では7度が半音下行してトニックの3度に解決することが多く、その際に9度をどう処理するかで色合いが大きく変わる。
よくある誤解とその訂正
- 「9thは常に全ての音を鳴らすべき」→実際には省略が普通で、楽器編成や音域に応じた最適化が必要。
- 「C9はCmaj9の別名」→誤り。表記上はC9はドミナント(b7)を含むことが通例で、Cmaj9は長7度を持つ別物。
- 「#9やb9は常に不協和」→文脈による。ロックでは効果的な色彩、ジャズでは臨時のテンションとして機能する。
練習方法と実践課題
以下の練習を順に行うと理解が深まります。
- 基礎:C9、Cmaj9、Cm9、Cadd9の各フォームをギターとピアノで弾き分ける。
- ボイシング:左手にルート(またはベース)、右手に3–7–9の配列を作り、転回形や省略形を試す。
- 進行練習:II–V–IやI–vi–IV–Vなど定番進行で9thを入れてサウンドの差を比較する。
- 即興:対応するスケール(ミクソリディアン、ドリアンなど)で一フレーズ即興し、テンションの扱いを体感する。
まとめ
9thコードは和声に色彩と深さを与える強力なツールです。その理解は単に理論だけでなく、実際のボイシングや声部進行、ジャンルに応じた音色選択を通じて深まります。演奏やアレンジに取り入れる際は、目的に応じて7度の有無、テンションの選択、省略箇所を意識すると良いでしょう。
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参考文献
- Ninth chord — Wikipedia
- Extended chord — Wikipedia
- MusicTheory.net — Chords and Extensions
- Teoria — Chords reference
- JazzGuitar.be — Jazz chord voicings (実践的なボイシング解説)
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