和音の転回を徹底解説：理論・記譜法・実践的活用と注意点

2025年12月28日 最終更新日時 : 2025年12月28日 エバープレイ編集部

和音の転回とは — 基本概念

和音の転回（てんかい）は、三和音や七の和音などの構成音の並びを変え、最も低い音（ベース）に置かれる音を入れ替えたものを指します。和音自体の音互いの関係（音程構造）は変わらないため和音の機能は基本的に同じですが、ベース音が変わることで響きや進行の印象、低音の動きが大きく変化します。ポピュラー音楽やジャズ、クラシックの対位法的処理、編曲など幅広い場面で重要な概念です。

三和音の転回（基礎）

代表的なCメジャー（C–E–G）を例にすると、三和音には次の3つの形があります。

  • 原位（根音在位・root position）: C–E–G（ベース＝C）
  • 第一転回（first inversion）: E–G–C（ベース＝E） — 一般に「6」と表記される（五度と三度の代わりに六度と三度が生じるため）。
  • 第二転回（second inversion）: G–C–E（ベース＝G） — 「6/4」と表記される（ベースから見て四度と六度の音程が生じるため）。

実際の楽譜では、figured bass（通奏低音）や近代的なコード記譜ではスラッシュ表記（例：C/E, C/G）を使って転回を示します。

七の和音の転回

四声体の七の和音（例：C7 = C–E–G–B♭）には四つの形があります。

  • 原位: C–E–G–B♭（しばしば省略記号で「7」と示す）
  • 第一転回: E–G–B♭–C — 「6/5」と表記
  • 第二転回: G–B♭–C–E — 「4/3」と表記
  • 第三転回: B♭–C–E–G — 「4/2」または単に「2」と表記（七の音がベースにある）

七の和音の転回は、特にドミナントの機能や導音の解決に関して重要な役割を果たします。第三転回は七の音を最低音にするため緊張感が高く、解決方向が明確になります。

通奏低音（figured bass）と転回表記

バロック期の通奏低音表記では、ベースから上方の音程を数字で示しました。三和音の第一転回は「6」、第二転回は「6/4」。七の和音は上述のように「6/5」「4/3」「4/2」と記されます。この表記法は和声の分析や対位法の解釈で今日も参照されます。

転回の機能的意義 — なぜ使うのか

  • 低音線（ベースライン）の処理：転回を用いることで低音の動きを滑らかにし、声部間の連続性を高めることができます（例：C → C/E → F）。
  • 和声の色彩の変化：同じ和音でも低音が変わるだけで響きが変わり、伴奏の質感をコントロールできます。ポップスではベースが動くことでポップな進行が生まれます。
  • 機能の強弱調整：転回は和音の「重心」を変え、ルートポジションよりも安定感を弱めたり強調したりできます（例：第二転回は不安定になりやすい）。
  • 装飾的用法：通過和音や歩行低音の一部として、ときに和声的に「経過的」に使われます。

クラシックでの運用ルール（実践的注意点）

基本的に転回は和声的機能を変えないものの、バロック〜古典派の対位法・和声法にはいくつかの慣用的なルールがあります。

  • 第二転回（6/4）は安定度が低く、単独で終止形に置くのは避けられる傾向にある。代表的な用法はカデンツィアル6/4（主和音がドミナントの装飾として現れ、その後Vに行く）や通過・ペダル6/4である。
  • 和声中の倍音（doubling）：原位では根音を重ねるのが基本だが、第一転回では第三や上声が重要になり、どの音を倍にするかは声部のバランスに依る。第二転回ではしばしば第五を倍にして安定させることがある。
  • 七の和音では、七の音は通常上方へ解決（半音下行で解決する導音的性質や、下方への解決）するため、転回時もその解決は配慮される。
  • 平行五度・平行八度は避けること。転回を用いる時も声部間の平行をチェックすることが大切。

ポピュラー／ジャズにおける転回の応用

ポピュラー音楽やジャズでは、転回は日常的に使われます。スラッシュコード（例：C/E, G/B）は転回を明示する記法で、ベースラインの流れを滑らかにしたり、特定のテンションを際立たせたりします。ジャズではさらに複雑なテンションを含むコードの転回や、ドロップ2/3といった配置の操作が行われます。

  • ベース・ムーブメント：I–I/V6–IV のように転回を挟むことでベースが半音階や順次進行し、進行の滑らかさが増す。
  • ボイシング戦略：ピアノやギターでのボイシングは転回を多用して和声の重なりを整え、開放弦や演奏のしやすさを考慮する。
  • ポップスの「進行の色付け」：スラッシュコードはベースの方向性を明確にし、メロディーや歌のハイライトをサポートする。

実践例（楽譜的説明）

C → Am → F → G のような進行を考えた場合、Cの第一転回（C/E）をC → C/E → Am の間に置くと、ベースがC → E → A と動き、滑らかな下降／上昇を作れます。GをG/BにするとベースはF → B（＝G/B）→ Cのように円滑に導けます。

カデンツァル6/4の例：典型的には I (6/4) → V → I を用い、I(6/4)はVの装飾的前置きとして機能します。譜例ではCの6/4（G–C–E の配置でベースはC）からG（V）へ解決する場合が典型です。

楽器別の実践ポイント

  • ピアノ：手の配置で和音の転回を作るのは自然。左手のベース音を意識して、右手は音色やテンションを足すと効果的。
  • ギター：開放弦や押さえやすさによりむしろ転回が多用される。スラッシュコードはギター奏法に直結する表記で、低音弦を用いた運指を指示する。
  • ベース：転回はベースラインそのもの。ベーシストは転回を用いて声部を補強したり、ウォーキングベースの進行を組み立てる。

作曲・編曲での実践的アドバイス

  • ベースの動機を最優先に考える：特にポップスではベースの“歌いやすさ”が曲全体のグルーヴを決める。
  • 転回は「和声的な同一性を保ちながら低声を変えるツール」として使う。コードの機能を変えずに流れを作れる。
  • テンションを足す場合は上声での配置を工夫する。転回によってテンションの響きが強調されることがある。
  • 声部間の連続性（共通音・段差を最小にする）を意識して配置すると、プロフェッショナルな響きになる。

よくある誤解と注意点

  • 「転回 = 別の和音」という誤解：基本的には同じ和音の別配置で、機能は変わらない。ただし文脈次第で別のハーモニーのように感じられることはある。
  • 第二転回の扱い：単独で終止に用いると不自然になりやすいので、カデンツァルや通過目的で使うのが安全。
  • 倍音（doubling）の決定はコンテクスト依存。機械的に規則を当てはめると不自然になり得る。

まとめ

和音の転回は、和声の同一性を保ちながら低音の配置を変え、響きや進行の質感を自在にコントロールする強力な技法です。クラシックでは通奏低音やカデンツァル6/4など伝統的な用法があり、ポップス／ジャズではスラッシュコードや洗練されたボイシングの形成に欠かせません。実践ではベースライン、倍音、声部間の動きを同時に考えることが重要で、転回を上手く使うことで楽曲の表現幅が大きく広がります。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献

カテゴリー
全般
前の記事
第三転回（7thの第三転回）の理論と実践：表記・機能・和声処理を徹底解説New!!
2025年12月28日
次の記事
和音の倒置とは？理論・記譜・実践まで徹底解説New!!
2025年12月28日